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9月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

大腸癌

ミスマッチ修復機能欠損局所進行結腸癌に対する術前補助免疫療法


Myriam Chalabi, et al.: N Engl J Med. 390(21): 1949-1958, 2024

背景
 ミスマッチ修復機能欠損(dMMR)は、切除可能大腸癌患者の10〜15%に認められる1,2)。現在、stage IIIのdMMR結腸癌の標準治療は術後補助化学療法としてのフッ化ピリミジン+Oxaliplatinである。FOxTROT試験では、局所進行結腸癌における術前補助化学療法の有効性が示されたものの、dMMR結腸癌に限ると病理学的奏効は7%にとどまった3)。一方、dMMR切除不能大腸癌に対する免疫チェックポイント阻害薬は無増悪生存期間を改善し、NICHE試験ではdMMR結腸癌に対する術前補助免疫療法としてのIpilimumab+Nivolumabが高い病理学的奏効(100%)を示した4,5)。そこで、dMMR局所進行結腸癌に対する術前補助免疫療法としてのIpilimumab+Nivolumabの安全性と有効性を評価する第II相NICHE-2試験を実施した(NCT03026140)。

方法
 本多施設共同単群第II相医師主導臨床試験の主な適格基準は、18歳以上の未治療で遠隔転移を有さない切除可能cStage II/III dMMR結腸腺癌患者であった。当初は、主要評価項目を安全性とし、サンプルサイズは30例であった(NICHE試験)。その後プロトコール改訂により、第二の主要評価項目を3年無病生存割合とし、T3/4かつ、またはリンパ節転移陽性例を対象とするコホートの登録が開始された(NICHE-2試験)。本報告ではNICHE(32例)とNICHE-2(83例)のデータを組み合わせた。MMR statusは、MLH1、PMS2、MSH2、MSH6蛋白の免疫組織化学染色により決定された。

 Nivolumab 3mg/kgを2回(1日目と15日目)、Ipilimumab 1mg/kgを1回(1日目)投与され、試験登録後6週間以内に手術が行われた。主要評価項目は、安全性(適時手術実施割合:試験登録後規定の6週間以内から2週間以内の遅延で手術が実施された割合)と有効性(3年無病生存割合)であった。副次評価項目は、病理学的奏効割合(中央病理判定)とゲノム解析結果であった。病理学的奏効は切除標本中の残存生存腫瘍が50%以下、病理学的著効は残存生存腫瘍が10%以下、病理学的完全奏効は腫瘍床とリンパ節のいずれにも残存生存腫瘍がないことと規定された。ゲノム解析として、ドライバー遺伝子異常およびβ2ミクログロブリンをコードする遺伝子の変異を同定するため、また腫瘍遺伝子変異量(TMB)を評価するために、治療前の腫瘍検体および生殖細胞系列DNAの全エクソームシーケンス(WES)が行われた。

 閾値適時手術実施割合85%、期待適時手術実施割合95%、両側α=2.5%、検出力80%としてサンプルサイズ95例と算出した。2つの主要評価項目は、αを2.5%に分割して検定した。

結果
 2017年7月から2022年7月までに115例の患者が登録され、全例で安全性解析が行われた。年齢中央値は60歳(範囲20~82歳)で、58%が女性、87%がWHO PS 0であった。77例(67%)がcStage IIIであり、74例(64%)がcT4であった。37例(32%)がLynch症候群であった。

 115例全例が術前補助免疫療法を完了し、全例が手術を受け、R0切除割合は100%であった。適時手術実施割合は98%(97.5%信頼区間:93-100)であり、安全性の主要評価項目は達成された。治療関連有害事象による手術遅延は2例(2%)であり、いずれも筋炎(grade 2および3)であったが、免疫抑制療法により回復し、規定の6週間から10.0週間および27.8週間の遅延後に手術を受けた。免疫関連有害事象は73例(63%)に認められ、ほとんどがgrade 1または2であった。主な免疫関連有害事象注入に伴う反応(32%)、甲状腺機能障害(12%)、および口渇(9%)であった。Grade 3または4の有害事象は5例(4%)に認められ、発疹(1例)、無症候性アミラーゼおよびリパーゼ増加(1例)、筋炎(1例)、肝炎(1例)、低ナトリウム血症(1例)であった。有害事象により治療を中止した症例はいなかった。手術関連有害事象は22例(19%)に認められ、grade 3は12例(10%)、縫合不全は4例(3%)に認めた。

 有効性評価が可能であった111例中109例(98%)で病理学的奏効が認められ、そのうち病理学的著効が105例(95%)、病理学的完全奏効が75例(68%)に認められた。これらの奏効は、術前補助免疫療法開始から手術までの期間中央値である5.4週間(範囲:4.0-33.6週間)で認められた。残りの4例は病理学的部分奏効であり、残存生存腫瘍は18~35%であった。1例のみが病理学的奏効を認めず、残存生存腫瘍は60%であった。1例は腫瘍床が特定できず評価不能であった。Lynch症候群の症例はLynch症候群ではない症例よりも病理学的完全奏効割合は高かった(79% vs. 61%)。Lynch症候群5例に、別の同時性dMMR結腸癌を認め、うち4例では両方の腫瘍で病理学的完全奏効が観察された。追跡期間中央値は26ヵ月(範囲:9-65ヵ月)であり、再発例を認めなかった。追跡期間が36ヵ月以上の全37例が無病生存している。

 有効性評価が可能であった111例のうち107例でWESデータが得られ、TMBは3.46-138.7 mut/Mb(中央値42.5)であった。ベースラインのTMBと病理学的完全奏効には関連が認められず、病理学的完全奏効あり vs. なしのTMB中央値は、41.8 mut/Mb vs. 43.6 mut/Mbであった。また、Lynch症候群の症例とLynch症候群ではない症例のいずれもTMB中央値は42.9 mut/Mbであり、差は認めなかった。

 72例のLynch症候群ではない症例のうち41例(57%)でBRAF V600E変異が検出され、全例MLH1遺伝子のプロモーター領域の高メチル化を伴っていた。BRAF V600野生型の症例は、BRAF V600E変異型の症例より病理学的完全奏効割合が高かった(75% vs. 57%)が、Lynch症候群ではない症例に限るとBRAF V600野生型 vs. 変異型で同程度であった(65% vs. 59%)。RAS変異型の症例は、RAS野生型の症例より病理学的完全奏効割合が高かった(79% vs. 64%)。β2ミクログロブリンをコードする遺伝子に変異を有する33例中23例で病理学的完全奏効を認めた(70%)。

結語
 dMMR局所進行結腸癌において、Nivolumab+Ipilimumabによる術前補助免疫療法は許容可能な安全性プロファイルを有し、高い病理学的奏効が得られた。


日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター 薬物療法部 徳永 康太



監訳者コメント:
dMMR結腸癌に対する術前Ipilimumab+Nivolumabは安全かつ有効

 dMMR/MSI-high切除不能大腸癌には免疫チェックポイント阻害薬であるPembrolizumab、Nivolumab、Ipilimumab+Nivolumabが有効であることが示されており、すでに薬事承認されている。本NICHE-2試験では、cStage II/III dMMR切除可能結腸癌に対してIpilimumab+Nivolumabの極めて高率の病理学的著効・病理学的完全奏効が示された。

 ESMO 2024では本NICHE-2試験の長期成績が報告され、3年無病生存割合は100%と驚くべき結果であった。さらなる長期成績を待つ必要はあるが、本対象の多くの症例で治癒を目指せる時代に入ったと言える。一方で、課題もたくさんある。IMHOTEP試験(ESMO 2024)では、同対象に対する術前Pembrolizumab単剤の病理学的完全奏効割合が52%とやや劣るものの、術前6週治療より12週治療の病理学的完全奏効割合が高いことが報告された(46% vs. 68%)。しかし、適切な術前治療期間や抗PD-1抗体単剤と抗PD-1抗体+抗CTLA-4抗体併用のいずれがよいのかに関しては未解決である。また、IMHOTEP試験は術後Pembrolizumab(術前後計1年)が投与されており、術後補助療法が必要なのかどうかも未解決である。さらには臓器温存が可能なのかどうか、どのような症例で臓器温存が可能なのかなどの臨床的疑問も残る。

 現在、cStage II(cT4N0)/III dMMR/MSI-high切除可能結腸癌に対する周術期Dostarlimab(抗PD-1抗体) vs. 標準治療(術後補助化学療法もしくは経過観察)の第III相試験(AZUR-2試験)が行われており、初めて第III相試験で周術期補助免疫療法の有効性が検証されることが期待されている。一方で、AZUR-2試験で全ての課題を解決することは困難であるため、今後のさらなる検討が望まれる。

  • 1) Eikenboom EL, et al.: Clin Gastroenterol Hepatol. 20(3): e496-e507, 2022 [PubMed]
  • 2) Jenkins MA, et al.: Gastroenterology. 133(1): 48-56, 2007 [PubMed]
  • 3) Morton D, et al.: J Clin Oncol. 41(8): 1541-1552, 2023 [PubMed]
  • 4) Chalabi M, et al.: Nat Med. 26(4): 566-576, 2020 [PubMed]
  • 5) Verschoor YL, et al.: J Clin Oncol. 40(suppl 16): abstr 3511, 2022

監訳・コメント:愛知県がんセンター 薬物療法部 舛石 俊樹

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