10月
監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健
肛門管扁平上皮癌
進行肛門管扁平上皮癌に対する1次治療としてmodified DCF(Docetaxel+Cisplatin+Fluorouracil)にAtezolizumab上乗せの有効性を検討した無作為化第II相試験(SCARCE C17-02 PRODIGE 60試験)
Stefano Kim, et al.: Lancet Oncol. 25(4): 518-528, 2024
背景
進行肛門管扁平上皮癌は稀な腫瘍であるものの、近年、罹患率が上昇しており、その臨床研究は注目を集めている。肛門管扁平上皮癌の診断時に約15%が遠隔転移を有し、限局病変に対する根治的化学放射線療法後に約25~40%が再発を来す。これらの場合は全身化学療法が推奨される1,2)。遠隔転移または切除不能局所再発に対する多施設第II相試験(Epitopes-HPV02試験)ではmodified Docetaxel+Cisplatin+Fluorouracil(mDCF療法)併用レジメンにより、完全奏効(CR)割合47%、12ヵ月無増悪生存割合43%と有望な結果が得られ、進行肛門管扁平上皮癌に対する1次治療における標準治療の一つとなっている3)。
HPV感染、特にHPV-16型は肛門管扁平上皮癌と強く関連することが知られている。HPVのE6オンコプロテインはhTERTを活性化して細胞のアポトーシスを引き起こしp53が分解される。これにより、G2およびM期の停止とアポトーシスが増加しタキサン系化学療法の感受性が高まる。さらにDocetaxelは小胞体ストレスを増加させ、癌細胞の免疫原性死を誘導する。また、DCFは抗腫瘍hTERT免疫応答を誘導し、末梢骨髄抑制細胞のレベルを低下させ、全生存期間(OS)の改善につながることが報告されている。以上の報告をもとに、mDCF療法と免疫療法の併用が有望と判断した。
一方、化学療法不応の進行肛門管扁平上皮癌に対する免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体および抗PD-L1抗体)単剤療法は、一定の抗腫瘍効果を示していることが既報で示されており4-8)、客観的奏効割合(ORR)は10~24%、奏効期間(DOR)中央値は5ヵ月を超えた9,10)。
本邦では、いずれも肛門管扁平上皮癌に対して保険収載されていない。
本試験は、進行肛門管扁平上皮癌に対する1次治療としてmDCF療法とAtezolizumabの併用療法の有効性・安全性を評価している。
方法
本臨床試験は無作為化国際非盲検非比較第II相試験であり、フランスの21施設(大学病院、民間病院、地域病院、がん研究センター)が参加した。化学療法未治療、転移性、または切除不能局所進行再発肛門管扁平上皮癌患者(18歳以上、ECOG PS 0-1)を対象とし、A群:Atezolizumab(800mgを2週間ごとに1年間静脈内投与)+mDCF(Docetaxel 40mg/m2、Cisplatin 40mg/m2をday 1、Fluorouracil 1,200mg/m2をday 1,2、計8サイクル投与)と、B群:mDCF療法と設定し、A群:B群を2:1で無作為に割り付けた。年齢(65歳未満 vs. 65歳以上)とdisease status(同時性転移 vs. 異時性転移 vs. 切除不能局所再発)を層別化因子とした。
主要評価項目は、A群の研究者判断による12ヵ月無増悪生存割合と設定した。副次評価項目は、無増悪生存期間(PFS)、OS、ORR、health-related quality of life(HRQoL)、及び安全性であった。
サンプルサイズ設定は、A群における12ヵ月無増悪生存割合を閾値35%、期待値50%、片側α=5%、検出力80%、登録期間2年とし、A群の登録数を66例と設定した。B群は33例とし、合計99例を登録予定とした。なお、2群間比較は予定しなかった。
結果
2018年7月3日から2020年8月19日までに107例がスクリーニングされ、最終的に97例(A群64例、B群33例)が登録された。追跡期間中央値は26.5ヵ月(95% CI: 24.8-28.4)であった。年齢中央値は64.1歳(IQR: 56.2-71.6)、71例(73%)が女性、76例(78%)が遠隔転移症例であった。原発巣切除はA群で多かった(A群11例[17%]、B群2例[6%])。また、PD-L1 CPSはA群48例、B群22例で測定され、PD-L1 CPS≧5はA群10例、B群10例であった。
主要評価項目であるA群の12ヵ月無増悪生存割合は45%(90% CI: 35-55)であり、信頼区間の下限は35%であり閾値(35%)を超えることはできず主要評価項目は達成できなかった。なお、B群の12ヵ月無増悪生存割合は43%(29-58)であった。PD-L1 CPS≧5における12ヵ月無増悪生存割合はA群70%(95% CI: 47-100)、B群40%(95% CI: 19-86)と有意差は得られなかったものの(p=0.051)、CPS≧5の集団ではAtezolizumabの上乗せ効果が示唆された。
副次評価項目のPFS中央値はA群9.4ヵ月(90% CI: 7.4-13.5)、B群8.7ヵ月(6.8-14.7)であった。12ヵ月全生存割合はA群77%(95% CI: 67-88)、B群81%(68-96)、24ヵ月全生存割合はA群52%(95% CI: 40-67)、B群70%(56-89)であった。また、PFSのサブグループ解析においてcStage、年齢、転移臓器の個数、ECOG PSはいずれも有意差は認めなかった。
Grade 3以上の有害事象はA群39例(61%)、B群14例(42%)であった。Grade 3-4の主な有害事象は好中球減少(A群9例[14%]vs. B群5例[15%])、貧血(10例[16%]vs. 1例[3%])、疲労(3例[5%]vs. 4例[12%])、下痢(7例[11%]vs. 1例[3%])であった。重篤な有害事象はA群16例(25%)、B群4例(12%)に発現し、mDCF関連はA群7例(11%)、B群4例(12%)であった。Atezolizumab関連の重篤な有害事象はA群の9例(14%)に認め、grade 2のinfusion-related reactionが3例(5%)、grade 3の感染症が2例(3%)、grade 2の大腸炎、grade 3の急性腎障害、grade 3のサルコイドーシス、grade 4の血小板減少がそれぞれ1例(2%)であった。治療関連死亡はなかった。
考察
mDCF療法とAtezolizumabの併用はfeasibleであることが示された。両群とも治療コンプライアンスは許容範囲でありHRQoLは同等であった。しかし、grade 3-4の有害事象は併用群で多く認められた。
主要評価項目であるA群における12ヵ月無増悪生存割合はnegativeな結果であった。Atezolizumab併用群は、化学療法単独群と比較して、病勢が進行し、原発巣の切除歴が多く、PS不良であった患者の割合が多く、化学療法単独群に有利な選択バイアスの存在が示唆された。
本試験の12ヵ月無増悪生存割合はA群で45%、B群で43%であり、Epitopes-HPV02試験と同様であった。したがって、DCF regimenの持続的な奏効における有効性は、3つの独立した前向き試験(Epitopes-HPV01、Epitopes-HPV02、および本試験)によって裏付けられている3,11)。
抗PD-1およびPD-L1抗体による免疫療法は、過去に5つの前向き試験で評価されており、5つの試験をまとめ、化学療法不耐の肛門管扁平上皮癌症例298例を対象としたプール解析によると客観的奏効割合は13%、12ヵ月無増悪生存割合は約15%であった4-8)。本試験ではmDCFにAtezolizumabの上乗せ効果を検討したが、全集団における12ヵ月無増悪生存割合の増加には結びつかなかった。探索的解析にて、CPS≧5には、Atezolizumabの上乗せ効果が示唆されているが、仮説の域を出ない。しかしながら、既報のNCI9673試験およびKEYNOTE-158試験では、肛門管扁平上皮癌に対する2nd line以降のNivolumabおよびPembrolizumab単剤療法が、奏効例でPD-L1の腫瘍発現が高いことを示しており、本試験の結果を支持する内容である4,5)。
結論
mDCF療法とAtezolizumabの併用は、有害事象の発生頻度は高くなるもののfeasibleであった。併用療法の有効性の主要評価項目は満たされなかったものの、PD-L1 CPS≧5に対しては、Atezolizumabの上乗せ効果が示唆されており、今後の研究の積み重ねが期待される。
日本語要約原稿作成:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 山口 翔太郎
監訳者コメント:
切除不能肛門管扁平上皮癌に対する一次治療において免疫チェックポイント阻害薬の上乗せ効果はあるか?
肛門管扁平上皮癌は欧米と比較し日本では稀であり、日常臨床で遭遇することは少ないものの、標準治療が確立しているがん種である。ただし、stage IVで診断されることは少なく、また局所進行例の場合は標準治療である根治的化学放射線治療により根治が望めるため、欧米においても、緩和的薬物療法の対象となる集団は極めて稀である。このため、緩和的薬物療法については質の高いエビデンスがないのが現状である。
免疫チェックポイント阻害薬は、二次治療以降において、いずれも単群の第II相試験ではあるものの、その有効性が報告されており、NCCNガイドラインにおいてNivolumab、Pembrolizumab、Retifanlimabの3剤が二次治療以降における“Preferred Regimens”として記載されている12)。なお、一次治療における“Preferred Regimens”はCarboplatin+Paclitaxel併用レジメンであり、本試験で用いられたDCF療法は“Other Recommended Regimens”の1つとして記載されている。
本試験は、20%程度であるCPS≧5の集団においては、Atezolizumabの上乗せ効果が示唆されたものの、全体集団においてAtezolizumabの上乗せ効果を示唆する結果は得られなかった。しかしながら、2024年ESMO年次総会において、免疫チェックポイント阻害薬の1つであるRetifanlimabをCarboplatin+Paclitaxelに併用することで、PFS、OSが有意に改善することを示したPOD1UM-303/InterAACT 2試験の結果が報告された。POD1UM-303/InterAACT 2試験は、本邦も参加したグローバル第III相試験であり、主要評価項目であるPFSにおいてRetifanlimab群のプラセボ群に対する有意な延長が示されている[7.6ヵ月 vs. 7.1ヵ月、HR=0.63(95% CI: 0.47-0.84)、p=0.0006]。また、Retifanlimab群のOS延長も示された[29.2ヵ月 vs. 23.0ヵ月、HR=0.70(0.49-1.01)、p=0.0273]。この結果をもとにRetifanlimabとCarboplatin+Paclitaxel併用療法が、一次治療における新たな標準治療と位置づけられるであろう。本邦においても、近い将来、日常診療で免疫チェックポイント阻害薬が使える日が来ることが予想される。
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監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 髙島 淳生
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