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2009年1月~2015年12月の論文紹介
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11月
監修:愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

固形癌

cfDNA検査によりHER2遺伝子増幅が検出された固形癌に対するTrastuzumab Deruxtecan:多施設共同単アーム第II相バスケット試験


Yagisawa Masataka, et al.: J Clin Oncol. 42(32): 3817-3825, 2024

背景
 HER2遺伝子の増幅は、乳癌および胃癌の15〜20%で認められ、細胞の増殖、遊走、分化プロセスに関与している。HER2標的治療薬には、TrastuzumabやPertuzumabなどの抗HER2抗体薬、さらに複数のチロシンキナーゼ阻害剤が一般的な治療レジメンとして用いられる1-3)。また、他の固形癌でもHER2遺伝子増幅が2〜3%程度の頻度で観察されており、治療標的となり得るものの4-6)HER2遺伝子増幅を有する固形癌に対するHER2標的治療は確立されていない。

 血中遊離DNA(cfDNA)は進行固形癌の治療標的となり得る遺伝子異常のマーカーとして使用される7)。我々は全国規模でのcfDNAスクリーニング研究であるGOZILA試験を実施し、遺伝子異常に基づく標的療法の試験を実施した8)。cfDNAベースの遺伝子検査は、組織ベースの検査と同程度の有用性が確認され、また、より多くの患者が標的治療の試験に登録できたことを報告した9)。さらに、cfDNAによって診断されたHER2遺伝子増幅を有する大腸癌患者は従来の組織HER2評価で同定された患者と同様にTrastuzumabとPertuzumabの併用療法が有効であった10)

 Trastuzumab Deruxtecan(T-DXd)はHER2を標的とした抗体薬物複合体であり11)、すでにHER2陽性乳癌や胃/食道胃接合部腺癌の患者に対して国内外で承認されている12,13)。T-DXd療法の第I相試験には他のHER2陽性固形癌の患者が含まれていたが14)HER2遺伝子増幅を有する固形癌の患者を対象とした臨床試験は少ない。そこで、我々は固形癌患者に対してcfDNA検査によるHER2遺伝子増幅の検出と、それに基づくT-DXd療法の有効性と安全性を評価することを目的とし、医師主導第II相試験(HERALD試験)を実施した。

方法
 HERALD試験は日本国内の7施設で行われ、cfDNAによるHER2遺伝子増幅が確認された20歳以上の進行再発固形癌患者を対象とした。HER2遺伝子増幅はGOZILA試験においてGuardant360による次世代シークエンシング(NGS)解析により検出された。腫瘍組織でHER2陽性が確認されている乳癌および胃癌の患者は除外し、腫瘍組織のHER2ステータスが不明な他の癌種は適格とした。

 試験参加者にはT-DXd 5.4mg/kgが3週毎に静脈内投与され、病勢進行や許容できない有害事象が確認されるまで治療が継続された。画像評価は、治療開始から48週までは6週ごと、その後は9週ごとに画像検査を行い、担当医と独立中央判定者がRECIST v1.1に従って評価した。

 主要評価項目は担当医判定による確定された客観的奏効割合(ORR)であり、副次評価項目には無増悪生存期間(PFS)、奏効期間(DoR)、治療成功期間(TTF)、病勢制御割合(DCR)、全生存期間(OS)、独立中央判定によるORR、有害事象(AE)発生率が含まれた。バイオマーカー解析としてベースライン、治療開始後3週、プロトコル治療終了時に全血サンプル2×10mLを採取し、Guardant360を使用してcfDNAのNGS解析を行った。

 統計解析ではORRの閾値5%、期待値25%とした。ベイズ流アダプティブデザインを含む当初のプロトコルに基づき、必要な患者数は60例としたが、2021年6月のプロトコル改訂では症例集積が遅れたため、主たる解析は二項検定に変更された。

結果
 GOZILA試験によるスクリーニングでは252例(5.3%)がHER2遺伝子増幅を有しており、そのうち16癌種62例がHERALD試験に組み入れられた。治療中止の主な理由は病勢進行(49例中33例[67%])と有害事象(49例中12例[24%])で、治療期間中央値は6.0ヵ月であった。16癌種には食道癌(12例)、大腸癌(10例)、唾液腺癌(7例)、子宮体癌(6例)、子宮頸癌(5例)、膵臓癌(4例)、胆道癌(4例)、尿路上皮癌(2例)、卵巣癌(2例)、非小細胞肺癌(2例)、胃癌(2例)、小腸癌(2例)、乳房外パジェット病(1例)、悪性黒色腫(1例)、前立腺癌(1例)、および原発不明癌(1例)が含まれた。

 担当医判定によるORRは56.5%(95% CI: 43.3~69.0)で、事前設定の閾値5%を上回った。最良総合効果はPR、SD、およびPD/評価不能がそれぞれ35例(56.5%)、21例(33.9%)、および6例(9.7%)であった。KRAS変異大腸癌(1/3)、PIK3CA変異子宮体癌(5/6)、組織HER2陰性胃癌(1/2)でも奏効が確認された。独立中央判定によるORRは58.1%(95% CI: 44.8~70.5)で、CR 1例を含み、DCRは90.3%(95% CI: 80.1~96.4)であった。担当医判定では44例(71%)の患者で病勢進行が認められ、PFSの中央値は7.0ヵ月(95% CI: 4.9~9.7)であった。独立中央判定によると病勢進行は43例(69%)で認められ、PFSの中央値は5.7ヵ月(95% CI: 4.9~9.7)であった。OS中央値は14.6ヵ月(95% CI: 10.8~22.3ヵ月)であり、カットオフ時点での担当医判定によるDoR中央値は8.8ヵ月(95% CI: 5.8〜11.2)、独立中央判定では7.3ヵ月(95% CI: 4.3〜11.3)であった。

 AEおよび治療関連AE(trAE)はそれぞれ62例全例と59例(95%)の患者で観察された。主なtrAEは吐き気(58%)、食欲減退(53%)、倦怠感(40%)、および貧血(39%)であった。重度(grade 3以上)のtrAEは32例(52%)の患者に発現し、主なものは貧血(21%)および好中球数減少(19%)であった。肺臓炎/間質性肺疾患(ILD)は16例(26%)で認められ、このうちgrade 1が14例(23%)、grade 2が1例(2%)、およびgrade 3が1例(2%)であった。Grade 1の3例はT-DXdを再開したが残りの患者は治療を中止した。T-DXdによる治療を再開した3例のうち1例がgrade 1の肺臓炎/ILDを再度発症した。治療関連死亡は1例であり、好中球数の減少を伴わない敗血症および播種性血管内凝固症候群が原因であった。

 HER2のpCNのベースラインでの中央値は8.55(範囲2.4~73.9)であった。奏効例と非奏効例の間でベースラインpCNに差はなかった。T-DXd開始後3週間でサンプルを採取した47例(79%)のうち、データが入手可能な42例(89%)でHER2 pCNが減少し、そのうち25例(全体の60%)はHER2 pCNの完全消失を達成した。HER2 pCNの動態は腫瘍反応と関連しており、ORRは消失群と非消失群でそれぞれ88.0%(22/25)と22.7%(5/22)であった(p<0.001)。3週目にHER2 pCNが増加した5例の患者では抗腫瘍効果が認められなかった。

まとめ
 T-DXd療法はcfDNA検査で判定されたHER2遺伝子増幅を有する進行固形癌患者において高いORRと持続的な効果を示した。毒性プロファイルは日本人患者におけるT-DXd療法を検証した既報と同様であった。


日本語要約原稿作成:いまいホームケアクリニック 八木澤 允貴



監訳者コメント:
HER2陽性固形癌に対するT-DXdの臓器横断的な承認が待ち望まれる

 HER2はさまざまな癌種において蛋白発現・遺伝子増幅が認められる。乳癌・胃癌では治療開発が先行しているものの、大腸癌・胆道癌・食道癌などその他の消化器癌を含めた固形癌全体では治療開発が遅れている。本試験は、国内最大のゲノムスクリーニング研究GOZILA試験を活用して患者スクリーニングを行い、臓器横断的にT-DXdの有効性と安全性を検討する第II相医師主導治験である。

 本試験でも非常に有望な結果が得られ、また、海外で実施された組織HER2発現陽性固形癌の臓器横断的試験でも同様の結果が得られていることから、国内でもHER2陽性固形癌に対するT-DXdの臓器横断的な承認が待ち望まれる。一方で、cfDNAによるHER2遺伝子増幅のスクリーニングが組織HER2発現と同様にT-DXdの適応となる患者選択に必要十分であるかは定かではない。また、本試験ではGuardant360が用いられたが、本邦の実地診療では腫瘍組織NGSががん包括的ゲノムプロファイリング検査での主流となっている。今後、スクリーニング検査間での比較検討は必要である。なお、承認までの間、HERALD試験は患者さんへの治療提供を主目的として拡張コホートが実施される予定である(jRCT2080224635)。

  • 1) Swain SM, et al.: Nat Rev Drug Discov. 22(2): 101-126, 2023 [PubMed]
  • 2) Li W, et al.: Biomark Res. 10(1): 71, 2022 [PubMed]
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  • 4) Oh DY, et al.: Nat Rev Clin Oncol. 17(1): 33-48, 2020 [PubMed]
  • 5) Dumbrava EEI, et al.: JCO Precis Oncol. 3: 10.1200/PO.18.00345, 2019 [PubMed]
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  • 13) Shitara K, et al.: N Engl J Med. 382(25): 2419-2430, 2020 [PubMed]
  • 14) Tsurutani J, et al.: Cancer Discov. 10(5): 688-701, 2020 [PubMed]

監訳・コメント:いまいホームケアクリニック 八木澤 允貴

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