12月
監修:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 砂川 優
胃癌
切除可能進行胃癌に対する術前DOS(Docetaxel+Oxaliplatin+S-1)療法+手術+S-1術後補助化学療法 vs. 手術+S-1術後補助化学療法の第III相試験(PRODIGY試験)における全生存期間のアップデート
Yoon-Koo Kang, et al.: J Clin Oncol. 42(25): 2961-2965, 2024
切除可能進行胃癌に対する標準治療は地域により異なっている。欧米では術前・術後の周術期化学療法が標準治療となっている一方、アジアではD2郭清を伴う手術と術後補助化学療法が標準治療である。しかしながら、アジアにおいても以下の2つの第III相試験において術前補助化学療法の有効性は示されている。韓国で行われたPRODIGY試験では、手術と術後補助化学療法(Adjuvant chemotherapy:以下Adj)のS-1療法を行う対照群と比較して、これに術前DOS(Docetaxel+Oxaliplatin+S-1)療法を追加した試験治療群において無増悪生存期間(PFS:Progression-Free Survival)が有意に延長したことが示されている1)。また、中国で行われたRESOLVE試験では、手術とAdj CapeOX(Capecitabine+Oxaliplatin)を行う対照群と比較して、術前・術後の周術期SOX療法(S-1+Oxaliplatin)を行う試験治療群において無病生存期間(DFS:Disease-Free Survival)が有意に延長したことが示されている2)。ただし、いずれの試験も全生存期間(OS:Overall Survival)の延長は示されていない。さらに、本邦で行われた第III相試験であるJCOG0501試験においても、切除可能な4型もしくは大型3型の胃癌に対する術前SP(S-1+Cisplatin)療法はOSの延長を認めなかった3)。これらの結果から、本邦において術前補助化学療法は標準治療に位置づけられていないのが現状である。
PRODIGY試験では、術前DOS療法の試験治療群においてR0切除率は約10%改善し、PFSが有意に延長した1)。PFSのKaplan-Meier曲線では対照群ではじめに約15%にイベント(非治癒切除と推察される)が生じており、R0切除率の差がPFSの差につながった可能性が示唆されていた。主要評価項目であるPFSの解析時点において、OSのHRは0.84(p=0.3383)であったが、OSイベントが3割弱にしか発生しておらず、検出力は17%のみであった。すなわち、この段階におけるOSデータはイベント数およびフォローアップ期間が不十分でimmatureなデータであった。今回の報告では、患者の最終登録から5年経過した時点における長期フォローアップにおけるOSの結果が報告されている。
PRODIGY試験は、韓国で実施された非盲検無作為化第III相試験であり、対照群の手術+Adj S-1に対する試験治療群の術前DOS療法+手術+Adj S-1の優越性が検証された。主な適格規準は、ECOG PS 0-1、cT2-3N+またはcT4Nanyの切除可能な局所進行胃癌・食道胃接合部癌(腺癌)であった。対照群(SC群:Surgery→Chemo)では、手術およびAdj S-1療法(40~60mg/m2、day 1-28を6週間毎に計8コース)が施行され、試験治療群(CSC群:Chemo→Surgery→Chemo)では術前DOS療法(Docetaxel 50mg/m2、day 1:Oxaliplatin 100mg/m2、day 1:S-1 80mg/m2、day 1-14を3週毎に計3コース)の後に手術およびAdj S-1療法(対照群と同様)が施行された。主要評価項目はPFSであり、OSは副次評価項目の1つであった。本解析は、最終患者登録から5年が経過した時点での最終評価であり、ITT解析には無作為化された全ての患者が含まれ、完全解析集団(FAS)には適格・除外基準を満たした全ての患者が含まれた。なお、最終追跡解析のカットオフは2022年9月であった。
計530例の患者が、SC群(264例)またはCSC群(266例)に無作為に割り付けられた(ITT集団)。除外規準に該当していた症例や同意撤回の症例など46例の患者が除外され、FAS集団にはSC群246例、CSC群238例が含まれた。生存の追跡期間中央値は99.5ヵ月であり、データカットオフ時点においてCSC群で87例(36.6%)、SC群で111例(45.1%)に死亡イベントを認めていた。FAS集団の解析において、SC群と比較してCSC群ではOSが有意に延長した(HR=0.72、95% CI: 0.54-0.96、p=0.027)。CSC群とSC群の5年生存率はそれぞれ66.8%、63.0%、8年生存率はそれぞれ63.8%、54.6%であり、それぞれ3.8%、9.2%の生存率の改善を認めた。また、今回の解析においてもCSC群ではSC群と比較してPFSが有意に延長していた(8年PFS率はCSC群55.8%、SC群43.2%、HR=0.70、95% CI: 0.53-0.94、p=0.016)。なお、ITT集団での解析においてもCSC群ではSC群と比較してOSおよびPFSがいずれも有意に延長していた。サブグループ解析では、一貫したCSC群の予後延長効果が示されたが、cT4ではcT2-3よりも顕著な予後延長効果が示された(OSのHRは、T4の集団で0.69、T2-3の集団で1.37)。さらに、TおよびN因子を組み合わせたサブグループ解析ではCSC群の予後延長効果はcT4Nany(HR=0.69)およびcT4N+(HR=0.70)で最も顕著であった。
まとめると、PRODIGY試験の長期追跡解析において、cT2-3N+またはcT4Nanyの切除可能な局所進行胃癌・食道胃接合部癌に対する術前DOS療法+手術+Adj S-1療法は、手術+Adj S-1療法と比較して有意にOSを延長した。また、本試験の主要評価項目であるPFSの延長効果は長期追跡において維持されていた。
切除可能胃癌患者の周術期治療では、長期的な予後延長効果を評価することが非常に重要であるが、再発後の治療選択や近年の化学療法の進歩により、その評価はより複雑になっている。従って、本試験で示された長期的な予後延長効果は臨床的意義が高いと考えられる。術後補助化学療法では無再発生存期間(RFS:Relapse-Free Survival)がOSの代替指標として確立している一方、術前化学療法ではPFSやDFSがOSの代替指標として適切かどうかは確立していない。しかし、欧米の臨床試験においては、周術期化学療法によるPFS・DFSの改善がOSの改善に繋がることが示されている。今回の長期追跡解析の結果も同様の結果が得られており、PFSやDFSがOSの信頼できる代替指標である可能性が示唆された。さらに、8年時点での生存率の差(+9.2%)は、5年時点(+3.8%)よりも拡大しており、術前化学療法の予後延長効果を評価するためには少なくとも5年以上の追跡期間が必要であると考えられる。
欧米では、cT2以上またはcN+の胃癌患者に周術期化学療法が推奨されているが、本試験では特にcT4の患者においてCSC群の予後延長効果が顕著であった。従って、アジアにおいては、過剰な治療を避けるためにも、特にcT4の患者に対して術前化学療法が推奨されると考えられる。
本試験の制限としては、予後延長効果を比較するために統計設定および検証がなされたものではないことが挙げられ、長期追跡解析についても当初のプロトコルで事前設定されたものではなかったことには留意が必要である。
結論として、PRODIGY試験の長期追跡解析において、術前DOS療法+手術+Adj S-1療法は、手術+Adj S-1と比較してOSおよびPFSを有意に延長した。従って、術前DOS療法はアジアにおける切除可能胃癌・食道胃接合部癌に対する標準治療の一つとして考慮されるべきであり、特に再発高リスクであるcT4患者には積極的に術前化学療法を検討することが望ましい。
日本語要約原稿作成:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 久保田 洋平
監訳者コメント:
胃癌に対する術前化学療法がOS延長に寄与
PRODIGY試験の長期フォローアップ結果では、OSに有意な差が示され、特にT4症例で術前化学療法が生存に寄与する可能性が示唆された。中国のRESOLVE試験でもT4症例において周術期化学療法の5年OS割合の改善を示した(60.0% vs. 52.1%、HR=0.79、95% CI: 0.62-1.00、p=0.049)4)。これらの試験結果から、局所進行胃癌(特にアジア人)に対する周術期化学療法の有用性が支持された。
本邦では、術前DOS療法の有用性がJCOG1704試験で示され(病理学的完全奏効[pCR]24%、grade 3以上の好中球減少症24%、FN 9%)5)、一定の安全性も確認されたが、第III相比較試験での有用性は示されておらず、術前化学療法の適応には慎重な判断が求められる。現在、T3-4/N+の胃癌に対する術前SOX療法を検討する第III相試験(JCOG1509)や、切除可能な大型3型・4型胃癌における欧米の標準であるFLOT療法とDOS療法を比較するランダム化第II相試験(JCOG2204)が進行中であり、今後の結果が期待される。
さらなる治療開発として、周術期化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を併用する試みが行われ、pCR割合の増加が示されているものの、生存期間の延長は未だ不明である6,7)。周術期化学療法の有用性は確立されつつあるが、最適な併用薬剤の確立には引き続き検討が必要である。
- 1) Kang YK, et al.: J Clin Oncol. 39(26): 2903-2913, 2021 [PubMed]
- 2) Zhang X, et al.: Lancet Oncol. 22(8): 1081-1092, 2021 [PubMed]
- 3) Iwasaki Y, et al.: Gastric Cancer. 24(2): 492-502, 2021 [PubMed]
- 4) Zhang X, et al.: Ann Oncol. 34(suppl 2): S1318-S1319, LBA78, 2023
- 5) Kurokawa Y, et al.: Gastric Cancer. 27(2): 366-374, 2024 [PubMed]
- 6) Janjigian Y, et al.: Ann Oncol. 34(suppl 2): S1315-S1316, LBA73, 2023
- 7) Shitara K, et al.: Lancet Oncol. 25(2): 212-224, 2024 [PubMed]
監訳・コメント:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 伊澤 直樹
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