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1月
監修:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 砂川 優

胃癌 食道胃接合部癌

進行HER2陰性胃癌または食道胃接合部癌患者に対するスイッチメンテナンスとしてのRamucirumab+PaclitaxelとOxaliplatinベースの1次化学療法の継続を比較したランダム化オープンラベル多施設第III相試験(ARMANI試験)


Giovanni Randon, et al.: Lancet Oncol. 25(12): 1539-1550, 2024

背景
 HER2陰性の進行胃癌・食道胃接合部癌に対する1次治療はFluoropyrimidineおよびPlatinumベースの化学療法(FOLFOX、CAPOXなど)がこれまで推奨されてきたが、無増悪生存期間(PFS)は約6ヵ月、全生存期間(OS)は12ヵ月未満と治療効果は限定的である1)。また、臨床試験に組み入れられた進行胃癌・食道胃接合部癌の患者においても、病勢進行による身体合併症のために2次治療への移行割合は約40~50%であるという問題もある。このため、進行胃癌・食道胃接合部癌の患者においては、より前段階である1次治療の成績向上が喫緊の課題であり、FluoropyrimidineおよびPlatinumベースの化学療法にDocetaxelを上乗せしたFLOT療法(3剤併用化学療法)2)や、抗PD-1抗体1)や抗claudin-18.2(CLDN18.2)抗体3,4)を組み合わせた新しい併用療法の有効性が報告されている。一方、抗VEGFR2抗体のRamucirumabは、1次治療のFluoropyrimidineおよびCisplatinの2剤併用化学療法を上乗せすることの生存延長効果は示されず5)、Paclitaxel+RamucirumabはHER2陰性の進行胃癌・食道胃接合部癌の標準的な2次治療として用いられている6)。スイッチメンテナンスは、導入化学療法を一定期間行った後に交差耐性を示さないレジメンへ切り替える治療戦略である。この手法は臨床症状の悪化を先延ばしにし、初期治療の効果を延長させる可能性がある。例えば、非小細胞肺癌の患者を対象として導入化学療法を一定期間行って病勢制御ができた後、2次治療で用いる標準治療を早期に投与してスイッチメンテナンスを行うと生存期間を延長したことが報告されている7)。本試験では、HER2陰性進行胃癌・食道胃接合部癌の患者を対象に、1次治療としてOxaliplatinベースの2剤併用療法(FOLFOXあるいはCAPOX)を3ヵ月行った後に、Paclitaxel+Ramucirumabを用いたスイッチメンテナンス治療が、1次治療をそのまま継続する治療と比較して優れているかどうかが検証された。

方法
 ARMANI試験はイタリア国内の31施設で実施されたオープンラベルランダム化第III相試験である。適格基準は、年齢18歳以上、ECOG PS 0-1、少なくとも12週の予後が期待できる、組織学的に胃あるいは食道胃接合部の腺癌と診断されている、局所進行切除不能あるいは遠隔転移を伴う、HER2陰性、RECIST測定可能病変あるいは評価可能病変がある、Oxaliplatin+Fluoropyrimidineの2剤を用いた導入化学療法を3ヵ月完了している(FOLFOXは1サイクル2週を6サイクル、CAPOXは1サイクル3週を4サイクル)、測定可能病変がRECISTでCR/PR/SDと判定されている、非測定病変の病勢進行がないことであった。除外基準は、術後補助治療のFluoropyrimidineおよびPlatinumベースの2剤併用療法を受けて12ヵ月以内の再発、6ヵ月以内の動脈塞栓イベント、3ヵ月以内の静脈塞栓イベント、ワーファリンや低分子ヘパリン、新規経口Xa拮抗薬などの抗凝固薬の使用(325mg/日までのアスピリンは許容)、3ヵ月以内の出血イベント、血管炎、消化管穿孔・瘻孔、臨床的に重篤な消化管出血、コントロール不良な高血圧、以前の化学療法による改善しないgrade 2以上の有害事象(特にOxaliplatinによる神経毒性)であった。

 ランダム化は胃切除の有無、腹膜播種の有無、原発層の部位(胃または食道胃接合部)で層別化され、スイッチメンテナンス群(Paclitaxel+Ramucirumab)とコントロール群(Oxaliplatinベースの2剤併用化学療法群FOLFOXあるいはCAPOX)に1:1で割り付けられた。スイッチメンテナンス群(Paclitaxel+Ramucirumab)の患者に対しては、28日間を1サイクル、Paclitaxel 80mg/m2をday 1、8、15に、Ramucirumab 8mg/kgをday 1、day 15に静脈投与された。コントロール群の患者に対しては、FOLFOXの2週毎を6サイクル、あるいは、CAPOXの3週毎を4サイクル追加治療し、導入療法と合わせて最大24週間治療し、その後はFluoropyrimidine単独(Fluorouracil+Leucovorin、Capecitabine)での治療が行われた。FOLFOXおよびCAPOXは導入治療の最終投与時と同じ投与量が用いられた。腫瘍の評価は8週間毎のCT検査をRECIST基準に基づいて各施設のinvestigatorによって報告された。有害事象は、試験群ではday 1、8、15、コントロール群ではday 1に臨床検査、血液検査、その他の関連項目が評価された。また、患者報告アウトカムとして、EORTC QLQ-C30、OG25、EuroQol EQ-5Dがベースライン時から8週毎に、病勢増悪があるまで定期的に評価された。また、トランスレーショナル解析のために血液検体をベースラインから病勢進行あるいは死亡に至るまで8週毎に収集した。PD-L1、CLDN18.2、MMRのステータスは中央判定で評価された。

 主要評価項目はPFS、副次評価項目はOS、治療成功期間、奏効率、2つの治療群において追加の抗癌剤治療を受けた患者の割合、安全性、QOLと設定された。

 サンプルサイズ設定に関しては、2群間の有意差の検出力90%、両側αレベルが0.05とし、スイッチメンテナンス群6ヵ月、コントロール群4ヵ月(ハザード比[HR]=0.67)を想定して、280例の症例登録を目標とした。PFSとOSの生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定し、log-rank検定で比較された。Post-hoc解析では、比例ハザード性の違反はSchoenfeld残差で評価し、比例ハザード性を違反した場合には境界内平均生存時間(restricted mean survival time: RMST)が解析された。事前規定したPFSとOSのサブグループ解析では、univariable unadjusted Coxモデルを用いて、ベースラインの特徴別に評価された。導入治療の効果(PRとSD)に分けたPFSおよびOS、PFS2、CPS<5かつCLDN18.2陰性かつpMMRのトリプルネガティブのサブグループにおけるPFSについてpost-hoc解析が行われた。

結果
 2017年1月1日から2023年10月2日までに285例がスクリーニングされ、そのうち5例が適格基準を満たさず、残りの280例が2群にランダム化された。スイッチメンテナンス群は144例、コントロール群は136例に割り付けられた。このうち4例が試験内での治療を一度も受けず、安全性評価の集団からは除外された。患者背景は2群間でバランスが取れており、導入治療ではFOLFOXが8割以上に用いられており、全て白人、男性64%および女性36%であった。観察期間中央値は43.7ヵ月(interquartile range: IQR 24.0-57.9)で、PFS中央値はスイッチメンテナンス群で6.6ヵ月(95% CI: 5.9-7.8)、コントロール群で3.5ヵ月(2.8-4.2)、HRは0.61(95% CI: 0.48-0.79、p=0.0002)であった。比例ハザード性が違反されており(χ2検定でp<0.00001)、24ヵ月RMST解析が行われ、境界内PFSはスイッチメンテナンス群で8.8ヵ月(95% CI: 7.7-9.9)、コントロール群で6.1ヵ月(5.0-7.2)であり、統計学的な有意差(p=0.0010)が認められた。事前規定したサブグループ解析では、ほとんどの臨床的なサブグループでスイッチメンテナンス群が良好な傾向が認められた。OS中央値はスイッチメンテナンス群で12.6ヵ月(95% CI: 11.5-15.0)、コントロール群で10.4ヵ月(8.0-13.1)、HRは0.75(95% CI: 0.58-0.96、p=0.025)であった。比例ハザード性が違反されており(χ2検定でp=0.019)、36ヵ月RMST解析が行われ、境界内OSはスイッチメンテナンス群で15.8ヵ月(95% CI: 14.2-17.5)、コントロール群で12.7ヵ月(11.0-14.4)であり、統計学的な有意差(p=0.0090)を認めた。OSについても、ほとんどの臨床的なサブグループにおいて、スイッチメンテナンス群が良好な傾向であった。また、治療成功期間中央値はスイッチメンテナンス群で6.2ヵ月(95% CI: 5.7-7.5)、コントロール群で3.1ヵ月(2.8-3.9)であり、HR=0.61(95% CI: 0.48-0.78、log-rank p<0.0001)であった。

 全体280例のうち197例(70%)に測定可能病変があり、スイッチメンテナンス群とコントロール群でそれぞれ95例、102例であった。ランダム化後の客観的奏効割合はスイッチメンテナンス群で19%(95% CI: 12-28、CR 1例、PR 17例)、コントロール群で16%(95% CI: 10-24、CR 3例、PR 13例)であり、オッズ比は1.26(95% CI: 0.60-2.63、p=0.58)であった。腫瘍縮小はスイッチメンテナンス群で95例中56例(59%)、コントロール群では102例中39例(38%)に認められた。病勢制御割合はスイッチメンテナンス群で85%(95% CI: 76-91)、コントロール群で54%(95% CI: 44-63)であり、オッズ比4.94(95% CI: 2.48-9.84、p<0.0001)であった。Post-hoc解析では、導入化学療法の最良効果がSDの患者では、PFSのHRは0.42(95% CI: 0.29-0.62)、OSのHRは0.46(0.31-0.67)であった。また、導入化学療法の最良効果がPRの患者では、PFSのHRは0.80(0.54-1.18)、OSのHRは0.97(0.65-1.45)であった。

 Grade 3以上の有害事象はスイッチメンテナンス群で57例/141例(40%)、コントロール群で28例/135例(21%)に認められた。主な有害事象は好中球減少(スイッチメンテナンス群vs. コントロール群それぞれ37例[26%]、13例[10%])、末梢神経障害(8例[6%]、9例[7%])、動脈性高血圧(9例[6%]、0例)が挙げられた。スイッチメンテナンス群の73例/141例(52%)で少なくとも1回減量が行われていた。コントロール群では導入時のCAPOXあるいはFOLFOXの減量が66例/135例(49%)、最終的には85例/135例(63%)で減量が行われた。重篤な治療関連有害事象としては、スイッチメンテナンス群で肺塞栓症が2例(1%)、コントロール群で口内炎および貧血が2例(1%)で認められたが、治療関連有害事象による治療中断あるいは死亡の報告はなかった。

 2つのグループの試験治療中止後に全身治療を受けた患者は、スイッチメンテナンス群で83例/144例(58%)、コントロール群で76例/136例(56%)であった。次治療として最も高頻度のレジメンは、コントロール群でPaclitaxel+Ramucirumabが62例(46%)、スイッチメンテナンス群ではIrinotecanベースのレジメンが52例(36%)であった。

 Post-hoc解析ではPFS2中央値はスイッチメンテナンス群で10.0ヵ月(95% CI: 8.6-11.7)、コントロール群で7.2ヵ月(6.2-9.0)、HR=0.71(95% CI: 0.55-0.91、log-lank p=0.0066)となり、スイッチメンテンス群で有意に長かった。CPS 5をカットオフとしたPD-L1、CLDN18.2、MMRの中央評価が行われた症例は、それぞれ195例/280例(70%)、185例(66%)、219例(78%)であった。CPS 5、CLDN18.2、MMRと2つの治療群のPFSおよびOSに関連性は認められなかった。FOLFOXあるいはCAPOXに割り当てられたdMMRの患者が最も予後が悪く、PFS中央値は2.5ヵ月(95% CI: 1.6-NA)、OS中央値は7.2ヵ月(2.8-NA)であった。また、CPS<5かつCLDN18.2陰性かつpMMRのいわゆるトリプルネガティブとされる患者は60例(スイッチメンテナンス群で30例/89例[24%]、コントロール群で30例/77例[39%])であった。このトリプルネガティブのサブグルーブのPFS中央値は、スイッチメンテナンス群で7.0ヵ月(95% CI: 5.7-11.9)、コントロール群で4.1ヵ月(3.5-6.9)、HR=0.66(95% CI: 0.39-1.11、log-lank p=0.12)であった。

考察
 ARMANI試験は主要評価項目を達成し、Paclitaxel+Ramucirumabを用いたスイッチメンテナンス群はFOLFOXあるいはCAPOXを継続したコントロール群と比較して、PFSイベントを約3ヵ月延長させた。導入治療の開始時点から含めて評価しても、FOLFOXあるいはCAPOXの1次治療全体のPFSは約7ヵ月と既報と比べて遜色なく2)、スイッチメンテナンス群でのPFSは約10ヵ月と臨床的に意義のある結果であった。また、スイッチメンテナンス群でのPFSの有意な延長はOSの改善にも繋がっていた。コントロール群では次治療としてPaclitaxel+Ramucirumabが46%しか受けられなかった点は注目すべきである。スイッチメンテナンス群でのPFS2やOSの有意な改善は、PFS延長の恩恵が後方治療に渡って得られたことを示唆する。これらの結果は、Paclitaxel+Ramucirumabを用いたスイッチメンテナンス治療による病勢制御が、遠隔転移セッティングにおける薬物療法を積極的に投与可能し、生存延長されたことを示している。

 過去にはRegorafenib8)、Durvalumab9)、Avelumab10)、Pamiparib11)のような分子標的薬あるいは免疫チェックポイント阻害薬を使用し、化学療法を用いないスイッチメンテナンス療法の有用性を検討したランダム化試験が行われた。しかしながら、いずれにもおいても生存の優越性は示されていない。今回のデータは、これらの試験の背景も含めて考慮する必要がある。Paclitaxel+Ramucirumab療法においては、毒性増加や毎週投与のための病院受診回数の増加という負担が懸念される。本研究でのgrade 3とgrade 4の有害事象についての報告として多かったものは、主に好中球減少、Ramucirumabによる高血圧であった。発熱性好中球減少症は141例中2例[1%]であり、好中球減少の発生頻度の増加が臨床的に重大な有害事象につながるものではなかった。さらに、Taxaneベースへの早期切り替えは、Oxaliplatinベースの治療を合計6ヵ月行った場合と比較しても、grade 3以上の末梢神経障害は増加させなかった。今後患者報告アウトカム(PRO)のデータを含めて、PFSの恩恵がQOL改善にもつながるものかを結論づけることが重要である。

 FOLFOXやCAPOXの最適なタイミングでの中断は、導入化学療法の効果が得られた状況における重要な課題である。胃癌患者の10~20%程度でPlatinum系化学療法のようなDNA損傷薬の恩恵を受けることが報告されており12)、実際に本研究においても16%でFOLFOXとCAPOXを継続後にもRECISTでの反応がみられている。今後、Platinumベースの化学療法やVEGFR2阻害に対する効果予測バイオマーカーを用いて、導入化学療法後の個別化治療が検討されるであろう。

 HER2陰性かつバイオマーカーで絞り込まれた集団でのPD-11)、CLDN18.23,4)およびFGFR2阻害薬13)の役割が確立されてきている。しかしながら、ARMANI試験に登録された患者集団のかなりの割合で腫瘍サンプルにおけるバイオマーカーが同定されていなかった。本試験でバイオマーカー解析が行われた患者においてはCLDN18.2が36%、dMMRが5%であった。一方、CPS 5以上の患者の割合は42%であり、CHECKMATE 649試験1)におけるCPS 5以上は60%の集団と比較して少なかった。この原因として、イタリアにおけるNivolumabの償還が一部影響しているかもしれない。PD-L1およびCLDN18.2のステータスにかかわらず、試験治療でPFSおよびOSの有効性が示されたが、dMMRに関してはFOLFOXおよびCAPOX継続群で予後不良の傾向が認められた。この結果は、dMMRの腫瘍におけるFluoropyrimidineに対する抵抗性に起因しているかもしれない。PD-L1やCLDN18.2のようなバイオマーカーとの治療グループとの相関性がないことは、1次治療で分子標的薬の併用が適格とならない患者において、Paclitaxel+Ramucirumabのスイッチメンテナンス治療が有望となる可能性を示唆する。ARMANI試験では195例中118例(61%)がPD-L1の低発現あるいは発現なしとなっており、1次治療で化学療法単独の適応となるかもしれない。その一方で、主要な臨床ガイドラインではCPS 1〜4の患者においても症例毎に1次治療に免疫チェックポイント阻害薬の併用を考慮するが推奨されており、それぞれの国の承認・償還によって異なるが、CLDN18.2のモノクローナル抗体であるZolbetuximabが1次治療で使用できるようになってきている。

 ARMANI試験のデザインから、本試験のスイッチメンテナンス療法は初めに2剤化学療法だけを受けた比較的少ない患者集団にしか結果を当てはめられない点は懸念される。また、サブグループ別の解析は後ろ向きで行われており、バイオマーカーやトリプルネガティブ集団別の解析結果は、あくまで仮説としてみなされるべきである。これらのバイオマーカー陰性の患者集団に対しては、Docetaxelを加えた3剤併用療法であるmodified FLOT(mFLOT)療法がGASTFOX試験の結果から有望な治療選択肢かもしれない2)。mFLOTはFOLFOX療法と比較してPFSおよびOSを有意に改善させ、元々のDCF療法(Docetaxel、Cisplatin、Fluorouracil)14)と比較してもより安全なレジメンである。本試験でのスイッチメンテナンスの治療戦略はこのmFLOT療法の生存利益という大きな観点でみると類似している。しかし、mFLOT療法レジメンはPS 1あるいは65歳以上の高齢者に対する効果についてはあまり明らかではない。一方で、ARMANI試験におけるPaclitaxel+RamucirumabのPSや年齢にかかわらず生存利益が担保されていた。

 本試験にはいくつかのリミテーションがある。1つ目はコントロール群では3ヵ月後の治療からFluoropyrimidine単剤となる点である。2つ目は主要評価項目をPFSとしたが、胃癌ではPFSとOSの関連性は弱いという点がある15)。さらに、Paclitaxel+Ramucirumab群におけるOSの優越性が検出されず、検出するためにはより大きな集団が必要となることが挙げられる。さらに、OSがスイッチメンテナンス療法後の治療にかなり影響を受けており、生存利益が病勢進行および症状進行を遅らせたことと関連している可能性がある。最後に、Paclitaxel+Ramucirumab群でECOG PSが0の患者がコントロール群よりも高頻度であった点がある。

結語
 Paclitaxel+Ramucirumabを用いた2次治療への早期移行は、臨床的および分子マーカーいずれのサブグループでも有用であることが示唆された。Paclitaxel+Ramucirumabを用いたスイッチメンテナンス療法は、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の適格基準を満たさない患者に対する導入治療後の新たな治療レジメンとして提案できるかもしれない。また、スイッチメンテナンス療法という治療戦略は、バイオマーカーで選択された集団でのPD-1やCLDN18.2の阻害抗体を用いた将来的な試験にも応用可能である。


日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター ゲノム医療センター 梅垣 翔



監訳者コメント:
胃癌におけるスイッチメンテナスがOS延長に寄与

 切除不能進行・再発胃癌の全身化学療法では、各種臨床試験やリアルワールドデータをみても、2次治療への移行割合はわずか40~50%程度である。どのように2次治療以降のレジメンを導入するかということは、従来からの課題とされている。ARMANI試験は、切除不能進行・再発食道胃接合部・胃腺癌において、無増悪生存期間と全生存期間のいずれでも、スイッチメンテナンス群で有意な改善がみられた。無増悪生存期間中央値は化学療法継続群で3.5ヵ月、スイッチメンテナンス群で6.6ヵ月(HR=0.61、95% CI: 0.48-0.79、p=0.0002)であった。全生存期間中央値は化学療法継続群で10.4ヵ月、スイッチメンテナンス群では12.6ヵ月(HR=0.75、95% CI: 0.58-0.96、p=0.025)であった。

 一方で、本試験結果をどのように日本の実地臨床に生かしていけばよいだろうか。個人的には、全例でスイッチメンテナンスを行うことは時期尚早と考えている。例えば、ARMANI試験のpost-hoc解析によると、導入療法後のSD症例でスイッチ維持療法が特に有効であり、無増悪生存期間のHRは0.42、全生存期間のHRは0.46であった一方、CRまたはPRを示した患者では、無増悪生存期間中央値は6.0ヵ月vs. 3.7ヵ月(HR=0.80)、全生存期間中央値は13.3ヵ月vs. 13.6ヵ月(HR=0.97)と有意差は認められなかった。これらのことから、1次治療開始後、初回評価でSDであった症例では早期にスイッチメンテナンスへ移行するという治療ストラテジーや、1次治療が毒性中止となった症例あるいは、画像評価は未施行だが臨床的にPD疑い症例では早めの切り替えを考慮できるのかもしれない。

 いずれにしても、切除不能進行・再発胃癌においてメンテナンスストラテジーの有用性を初めて検証した大規模第III相試験という意味では非常に興味深い結果と考えられる。われわれは、どうしても新規薬剤によって、治療成績の向上を図りたくなりがちだが、従来から言われていることだが、既存の治療法を最適化することも課題かもしれない。

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監訳・コメント:愛知県がんセンター 薬物療法部 成田 有季哉

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