2月
監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健
胃癌 食道胃接合部癌
術前化学療法後に切除された再発高リスク症例(ypN1および/またはR1)の胃癌・食道胃接合部癌患者における補助免疫療法(VESTIGE試験)
Florian Lordick, et al.: Ann Oncol. 36(2): 197-207, 2025
背景
現在、切除可能な胃癌・食道胃接合部癌に対する標準治療はアジアではD2郭清を伴う手術と術後補助化学療法とされているが、欧米ではFLOT4試験に基づき、5-FU、Oxaliplatin、Docetaxelの周術期化学療法が通常行われている1)。また、術前化学療法の後に行った手術の病理標本で、リンパ節転移陽性(ypN+)または手術マージン陽性(R1)の場合は再発高リスクと考えられている2)。
周術期化学療法は臨床試験に準じて、手術前後で同一の抗癌剤の使用が一般的である。しかし、術前の治療に反応が乏しい場合や病理標本で再発高リスクと判断された場合は、術後に治療レジメンの変更をするべきかどうかについて定かではない。そこで、化学療法の毒性を考慮すると、免疫療法への変更は魅力的なアプローチと考えられた。本試験の設定時、悪性黒色腫におけるNivolumab(Nivo)+Ipilimumab(Ipi)療法が単剤の免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitors: ICI)と比較して有効性が示され3)、胃癌・食道胃接合部癌は免疫療法の有効性に関するエビデンスは限られていた。今回、術後再発高リスク症例において、術後にNivo+Ipi療法を行うことで予後の改善が期待され、通常の術後補助化学療法と比較したVESTIGE試験が行われた。
対象と方法
本試験は第II相国際共同非盲検無作為化比較試験で、欧州9ヵ国26施設で実施された。患者対象は組織学的に進行再発胃腺癌・食道胃接合部腺癌と証明され、18歳以上、ECOG PS 0-1を適格とした。患者は無作為化の前に、フッ化ピリミジン製剤とプラチナ製剤を含むレジメンによる術前化学療法と肉眼的な根治手術の実施が必要で、術前化学療法の最短期間は6週間、最長は12週間とした。胃癌およびSiewert III型食道胃接合部癌はD2リンパ節郭清を伴う胃全摘出術または幽門側胃切除、Siewert I型食道胃接合部癌および下部食道腺癌は2領域リンパ節郭清を伴うIvor LewisまたはMcKeown食道切除術、Siewert II型食道胃接合部癌はD2リンパ節郭清を伴う胃全摘出術または2領域リンパ節郭清を伴う食道切除術が行われた。手術の種類に関係なく、少なくとも15個のリンパ節を切除して検査した。
患者は手術後に免疫療法群(試験治療群)と化学療法群(対照群)に1:1で無作為に割り付けられ、層別化因子は領域(胃vs. 食道胃接合部または下部食道)、組織型(腸型vs. 非腸型)、R0 vs. R1、術前補助化学療法(FLOT vs. 非FLOT)とした。試験治療群は2週間毎にNivo 3mg/kgを静脈内投与し、さらに6週間毎にIpi 1mg/kgを静脈内投与し、最長1年間または病気の進行または許容できない毒性が現れるまで投与した。対照群は術前に使用した同じ薬剤を処方することとし、用量は主治医判断とした。追跡中は有害事象(有害事象共通用語基準[CTCAE]v5.0)、画像診断による疾患評価(無作為化後2年までは3ヵ月ごと、無作為化後3~5年は6ヵ月ごとに胸部/腹部CTまたはMRI)、および定期的な臨床検査で評価した。
主要評価項目は無病生存期間(disease-free survival: DFS)と設定し、無作為化から病気の再発またはあらゆる原因による死亡のいずれか早いほうの日までの時間間隔として定義した。副次評価項目は全生存期間(OS)、局所領域および遠隔転移の割合、有害事象の割合とした。本試験の目的はITT集団において、試験治療群のDFSの延長を検出することであり、対照群の1年時点でのDFS率は65%と推定し、試験治療群における1年時点でのDFS率を74%に改善することとした。先行研究に沿って、片側有意水準を0.1に引き上げ、ログランク検定を用いると、80%の検出力を達成するためには合計142のイベントが必要であった。1年あたりの脱落率を5%と仮定し、試験治療群と対照群の間で240例の患者を無作為に割り付け、30ヵ月の登録期間後に必要な142のイベントを観察するために、さらに22ヵ月の追跡期間を設け、総試験期間は52ヵ月と設定した。
結果
2019年8月9日から2022年6月14日の間に、98例が試験治療群に、97例が対照群に無作為に割り付けられたところで、独立データモニタリング委員会より、試験治療群の無効性のために、中止が勧告された。最終解析の段階で、追跡期間中央値は25.3ヵ月であった。年齢の中央値は60歳(四分位範囲52~68歳)であった。129例(66.2%)が男性、115例(59%)が胃腺癌、6例(3.1%)がypN0ステージ、30例(15.4%)がR1切除であった。ミスマッチ修復欠損は151例の患者のうち9例(4.6%)で検出された。術前化学療法は180例(92.3%)がFLOTであった。患者背景は両群で差異はなかった。
試験治療群は98例中97例(99%)が少なくとも1回の補助療法を受け、対照群の患者97例中84例(87%)が少なくとも1回の化学療法を受けた。試験治療群は20例(21%)が1年間の全治療期間を完了した。33例(34%)が病気の進行により中止し、31例(32%)が有害事象により中止した。対照群は71例(85%)が計画通りに試験治療を完了し、13例(15%)が主に有害事象により早期中止した。
主要評価項目のDFSの延長は達成しなかった。データカットオフ(2023年12月12日)時点で114例(試験治療群で66例、対照群で48例)が、疾患再発または死亡を含むDFSイベントを経験した。試験治療群のDFS中央値は11.4ヵ月(95% CI: 8.4-16.8ヵ月)、対照群は20.8ヵ月(95% CI: 15.0-29.9ヵ月)であった(HR=1.55、95% CI: 1.07-2.25、p=0.02)。12ヵ月のDFS率は、試験治療群で47.1%、対照群で64.0%であった。OS中央値は、試験治療群で27.6ヵ月(95% CI: 25.4ヵ月-NA)、対照群で38.0ヵ月(95% CI: 25.8ヵ月-NA)であった(HR=1.32、95% CI: 0.83-2.10、p=0.235)。Grade 3以上の有害事象は試験治療群で57例(58.8%)、対照群で47例(56%)に発生した。試験治療群において、治療に関連しない死亡が2件観察され、1例は傍食道ヘルニアの合併症、1例は他の進行性疾患で死亡した。
考察
本試験でNivo+Ipi療法は標準的な術後化学療法と比較してDFSを改善しない結果で、逆に化学療法の継続よりも劣ることが示唆された。
現在、切除不能な進行胃癌・食道胃接合部癌に対するICIの有効性は証明され、実臨床で使用されている4,5)。PD-L1の高発現例でICIの高い有効性を示すことや、早期の病勢進行を抑えるために化学療法の併用が必要であることも示されている4-6)。周術期においては、CheckMate 577試験において、術前化学放射線療法後の手術の病理標本でnon-pCRと判断された場合、術後Nivo療法の優越性が報告されたが7)、その他のATTRACTION-5試験やKEYNOTE 585試験等ではICIの上乗せ効果は証明されなかった8,9)。現在進行中であるPD-L1抗体薬のAtezolizumabとDurvalumabをそれぞれFLOTレジメンと組み合わせたDANTE試験とMATTERHORN試験において、術前ICIと化学療法の併用で病理学的奏効率が向上するという報告もされており、周術期治療におけるICIの有効性について続報が待たれる10,11)。
本試験のlimitationとして、まず第II相試験として設計されており、もともとOSに対する検出力が足りていないこと、研究が早期に終了したため、サンプルサイズが限られた状態での評価となったことが挙げられる。また、時代を反映して、PD-L1のCPSスコアやMMR等バイオマーカー検索を行わなかったため、バイオマーカーに基づく評価を行わなかった。そして、資金制限により、中央検査機関での手術標本の病勢評価を行っていないため、術前化学療法の治療効果に基づく術後療法の治療効果を評価できなかった。最後に、FLOT試験やKEYNOTE 585試験等の周術期研究では術前に患者を募集し、術後化学療法の完遂は50%程度と報告されているが、本試験は術後に患者を募集した。したがって、術後に治療を受けることが可能な身体的および精神的に充実している患者のみが登録されたため、術後化学療法の恩恵を享受できる患者群を評価できなかった。
結論
再発高リスク因子(ypN+および/またはR1)を有する胃癌・食道胃接合部癌に対する術後補助療法として、Nivo+Ipi療法は化学療法と比較してDFSの改善を示さなかった。
日本語要約原稿作成:東京科学大学 臨床腫瘍学分野 藤原 俊
監訳者コメント:
胃癌周術期のICIの上乗せは、またしてもネガティブな結果となった
胃癌周術期の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の上乗せはネガティブな結果が続いている。ATTRACTION-5試験やKEYNOTE 585試験においても、ICI上乗せの有効性が証明されなかった。CheckMate 577試験で術後Nivolumab(Nivo)療法の優越性が報告されたが、こちらの試験は食道扁平上皮癌も含まれており、純粋な腺癌の試験ではない。
今回紹介したVESTIGE試験は、胃癌術後療法としてのNivoとIpilimumab(Ipi)併用療法の有効性を検討した第II相無作為化比較試験である。サンプルサイズの問題やバイオマーカーでの選別を行っていないなどのlimitationはあるものの、この試験はNivo+Ipi群が対象群を下回っており、この対象に対するICI戦略を考えさせられる結果である。周術期のICI上乗せを検討したMATTERHORN試験で意外な結果が出るとは予測しづらい。
それにしても切除不能な進行胃癌におけるICIの有効性は証明され、実臨床でも使用されているにもかかわらず周術期治療において明確な上乗せが出ない原因はなぜだろう。今回のVESTIGE試験の結果をみると、胃癌特有の生物学的な要因が潜んでいる可能性も十分に考慮が必要である。また胃切除による免疫環境の変化など多方面からの検討が重要である。
- 1) Al-Batran SE, et al.: Lancet. 393(10184): 1948-1957, 2019 [PubMed]
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- 9) Shitara K, et al.: Lancet Oncol. 25(2): 212-224, 2024 [PubMed]
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- 11) Janjigian YY, et al.: Future Oncol. 18(20): 2465-2473, 2022 [PubMed]
監訳・コメント:東京科学大学 臨床腫瘍学分野 浜本 康夫
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