3月
監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健
大腸癌
高頻度マイクロサテライト不安定性を有する転移性大腸癌に対するIpilimumab+Nivolumab療法とNivolumab単剤療法を比較した国際共同第III相試験(CheckMate 8HW試験)の中間解析結果
Thierry André, et al.: Lancet. 405(10476): 383-395, 2025
高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)、ミスマッチ修復機能の欠損(dMMR: deficient mismatch-repair)、またはその両方を有する腫瘍は、転移性大腸癌患者の約4~7%に認められ、予後不良とされてきたが1-4)、免疫チェックポイント阻害薬の登場により治療は大幅に進歩した5-7)。
PD-1阻害薬であるPembrolizumabは、MSI-H/dMMR転移性大腸癌患者の一次治療において化学療法と比較して無増悪生存期間(PFS)の改善を示した8)。
第II相非無作為化試験であるCheckMate 142試験では、PD-1阻害薬であるNivolumab(Nivo)と細胞傷害性Tリンパ球抗原4阻害薬であるIpilimumab(Ipi)の併用療法が、Nivo単剤療法と比較して良好な結果を示した9)。
この無作為化非盲検第III相国際共同試験であるCheckMate 8HW試験は、MSI-H/dMMR転移性大腸癌患者を対象に、Nivo単剤療法または医師選択化学療法(分子標的薬の併用または非併用)と比較したNivo+Ipi併用療法の評価を目的として設計された。前回の中間解析で化学療法群と比較しNivo+Ipi群の有意なPFSの優越性が示され、2つの主要評価項目のうち1つを満たした。今回は事前に規定されたもう1つの主要評価項目である、全治療ラインにおけるNivo+Ipi群とNivo単独群のPFSの中間解析結果である。
対象は18歳以上のMSI-H/dMMR転移性大腸癌患者であった。患者はNivo+Ipi群とNivo単独群、化学療法群の3群に2:2:1の割合で無作為に割り付けられた。患者登録は2パートに分けて行われ、パート1は全治療ラインの患者を対象とし、パート2はパート1の完了後に治療歴のない患者を対象とした。パート1では、腫瘍局在(右側vs. 左側)および前治療の回数(0回vs. 1回vs. 2回以上)によって、パート2では、腫瘍局在(右側vs. 左側)のみによって層別化された。主要評価項目は一次治療におけるNivo+Ipi群と化学療法群のPFS、もう1つは、全治療ラインにおけるNivo+Ipi群とNivo単独群のPFSであった。主な副次評価項目には、治験責任医師評価によるPFS、無作為割り付けを受けた全患者の中央判定によるPFS、客観的奏効率などが含まれた。
2019年8月16日から2023年4月10日までに1,147例が適格評価され、839例が全治療ラインにおいて、Nivo+Ipi群(354例)、Nivo単独群(353例)、または化学療法群(132例)に無作為に割り付けられた。Nivo+Ipi群の354例中202例(57%)、Nivo単独群の353例中201例(57%)、および化学療法群の132例中101例(77%)は、前治療歴のない患者であった。中央判定でMSI-HまたはdMMRと確認されたのは併用投与群が354例中296例、Nivo単独群が353例中286例であった。有効性の主要評価対象集団とされた。主要評価対象集団における患者背景に偏りはなかった。
2024年8月28日のデータカットオフ時点で、無作為化からの追跡期間中央値は47.0ヵ月であった。
PFS中央値は、Nivo+Ipi群で未到達(95% CI: 53.8-推定不能)、Nivo単独群で39.3ヵ月(95% CI: 22.1-推定不能)、HR=0.62(95% CI: 0.48-0.81、p=0.0003)であり、Nivo+Ipi群が有意に良好であった。事前に規定されたサブグループ解析では、Nivo+Ipi群がいずれの因子でも良好であった。無作為割り付けを受けた全患者の中央判定によるPFSもNivo+Ipi群で一貫して良好であった(54.1ヵ月[95% CI: 44.0-推定不能]vs. 18.4ヵ月[95% CI: 9.2-28.2]、HR=0.64[95% CI: 0.52-0.79])。治験責任医師評価によるPFSは盲検下中央判定による結果と一致していた(それぞれ未到達[95% CI: 54.1ヵ月-推定不能]および38.1ヵ月[95% CI: 27.2ヵ月-推定不能]、HR=0.62[95% CI: 0.48-0.80])。盲検下中央判定によるPFSと治験責任医師評価によるPFSの一致率は、イベント総数と打ち切り症例を比較した場合、Nivo+Ipi群で88%、Nivo単独群で89%であった。
客観的奏効率は、Nivo+Ipi群でNivo単独群よりも有意に高かった(71%[95% CI: 65-76]vs. 58%[95% CI: 52-64]、p=0.0011)。完全奏効は、Nivo+Ipi群で30%、Nivo単独群で28%であった。また、最良効果として進行と報告された患者は、それぞれ10%と19%であった。
奏効期間中央値は、いずれの治療群でも未到達であった。奏効までの期間中央値は両群とも2.8ヵ月であった。
本解析の長期追跡調査の結果(2024年8月28日データカットオフ、最低追跡期間16.7ヵ月)、Nivo+Ipi療法は化学療法に対してPFSの長期的な優越性の持続を示した(54.1ヵ月[95% CI: 54.1-推定不能]vs. 5.9ヵ月[95% CI: 4.4-7.8]、HR=0.21[95% CI: 0.14-0.31])。
有害事象についてはNivo+Ipi群の81%、Nivo単独群の71%に、いずれかのgradeの治療関連有害事象が認められた。Grade 3または4の治療関連有害事象は、それぞれ22%と14%に認められた。最も多くみられた治療関連有害事象は掻痒症で、Nivo+Ipi群で26%、Nivo単独群で18%に発現した。治療中止に至った治療関連有害事象は、それぞれ14%と6%であった。Grade 3または4の免疫関連有害事象は、大腸炎(それぞれ3%と2%)、下垂体炎(それぞれ3%と1%)、副腎不全(それぞれ3%と1%未満)であった。治療関連死は3例で、Nivo+Ipi群で心筋炎および肺臓炎を各1例、Nivo単独群で肺臓炎を1例認めた。安全性に関する新たな問題は認められなかった。
EORTC QLQ-C30による健康関連QOLを全体的評価尺度で測定したところ、Nivo+Ipi群およびNivo単独群の両群で、ベースラインからの改善が認められた。両治療群ともベースラインからの平均変化値はプラスであり、Nivo+Ipi群では21週目から事前に規定された有意な変化の閾値に達し、21週目以降のほとんどの時点でベースラインからの最小重要変化値である10以内またはそれに近い値を維持した。
以上のように、MSI-HまたはdMMR転移性大腸癌患者において、Nivo単独療法に対するNivo+Ipi療法は優越性を示し、今後の標準的な一次治療となる可能性が示唆された。
日本語要約原稿作成:順天堂大学 消化器内科 粟津 崇仁
監訳者コメント:
dMMR/MSI-H進行大腸癌におけるNivolumabとIpilimumabの併用は一次治療を大きく変える根拠を改めて示した
本試験は、MSI-H/dMMRを有する免疫療法未治療の再発または手術不能な進行大腸癌患者を対象にNivolumab(Nivo)とIpilimumab(Ipi)の2剤併用がNivo単剤よりも有効性を示した初めてのフェーズ3試験である。2025年1月に開催されたASCO-GIで注目された話題の一つである。中間解析の結果ではすでに、Nivo+Ipi群が医師選択化学療法よりも統計学的に有意にPFSを延長することが報告されていた[ハザード比0.21(97.91%信頼区間:0.13-0.35)、p<0.0001]。
今回の結果ではPFSのカプランマイヤー曲線はNivo+Ipi群が早期から優位に立ち、12ヵ月PFS率はNivo+Ipi群が76%、Nivo単剤群が63%で、つづく24ヵ月、36ヵ月PFS率のいずれも併用投与群のほうが高かった。PFSのサブグループ解析でも、解析された遺伝子変異や、転移臓器など全てのグループでNivo+IPI群が優位であった。
一方、これまでMSI-H/dMMRの進行大腸癌に対する一次療としてPembrolizumab(Pem)と医師選択化学療法を比較したKEYNOTE-177試験があるが、PFSのカプランマイヤー曲線は6ヵ月ころまでは化学療法群が上回っており、12ヵ月PFS率は55%でハザード比が0.60であった。以上の結果を踏まえると、“間接的”な比較にはなるが、現時点ではPem単剤やNivo単剤よりもNivoとIpiを併用したほうが高い効果が期待できると考えられる。
また、2025年3月に開催された第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO 2025)ではアジア人サブグループにおいても全体集団同様に、Nivo+Ipi併用療法は化学療法と比較して臨床的に有意ではないもののPFSの改善を示した。サンプルサイズは小さく、Nivo単独群の比較はまだ発表されていないものの、アジア人においてもNivo+Ipi療法がMSI-H/dMMR mCRC患者の一次治療における標準治療となる可能性が高いことが示唆された。
この結果によりMSI-H/dMMRの進行大腸癌患者においては5年経過しても7割弱の人が生存していることとなるため、進行大腸癌における化学療法を行うにあたり遺伝子検索はより重要なものと考える。
- 1) Venderbosch S, et al.: Clin Cancer Res. 20(20): 5322-5330, 2014 [PubMed]
- 2) Gutierrez C, et al.: JCO Precis Oncol. 7: e2200179, 2023 [PubMed]
- 3) Innocenti F, et al.: J Clin Oncol. 37(14): 1217-1227, 2019 [PubMed]
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- 8) André T, et al.: N Engl J Med. 383(23): 2207-2218, 2020 [PubMed]
- 9) Overman MJ, et al.: Lancet Oncol. 18(9): 1182-1191, 2017 [PubMed]
監訳・コメント:順天堂大学 消化器内科 福嶋 浩文
GI cancer-net
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