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10月
監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健

大腸癌

KRASG12C変異を有する化学療法抵抗性転移性大腸癌患者に対するSotorasibおよびPanitumumab併用療法の患者報告アウトカム評価


Dominik Paul Modest, et al.: Lancet Oncol. 26(9): 1240-1251, 2025

背景
 転移性大腸癌は、癌による死亡原因の上位を占める疾患である。KRAS変異はその約40〜50%に認められ、特にKRASG12C変異は約3%を占める1)。この変異は他のKRAS変異や野生型と比較して予後不良である可能性が示唆されている2)。化学療法抵抗性の転移性大腸癌患者には、Trifluridine-TipiracilやRegorafenibが標準治療として用いられてきたが、生存期間の延長効果は限定的であった3,4)

 KRASG12C阻害薬であるSotorasibは非小細胞肺癌で高い効果を示しているものの、大腸癌における単剤使用では有効性が限定的であった。これは大腸癌におけるEGFR経路の活性化が関与していると考えられている5)。第III相試験であるCodeBreaK 300試験では、Sotorasib+Panitumumab併用療法が標準治療と比較して無増悪生存期間を有意に延長することが報告された(中央値5.6カ月 vs. 2.0カ月、ハザード比[HR]0.48、p=0.0047)6)

 本試験では、生存期間や安全性の評価に加え、治療が患者の健康関連QOLや症状に与える影響についても検討が行われた。そこで本研究の目的は、化学療法抵抗性のKRASG12C変異を有する転移性大腸癌患者を対象に、Sotorasib+Panitumumab併用療法と標準治療の間で、QOL、症状負担、および患者報告による治療の忍容性を、CodeBreaK 300試験に含まれる患者報告アウトカム(PRO)指標に基づいて評価することとした。

方法
 CodeBreaK 300試験はKRASG12C変異陽性転移性大腸癌患者を対象とした国際共同多施設オープンラベル・ランダム化比較試験である。対象はFluoropyrimidine、Oxaliplatin、Irinotecanを含む標準治療歴をもち、KRASG12C阻害薬未使用、ECOG PS 0-2、測定可能病変を有する患者であった。12カ国67施設で160例の患者が登録された。

 患者は1:1:1にランダム割付され、Sotorasib 960mg+Panitumumab群、Sotorasib 240mg+Panitumumab群、または治験医選択治療群(Trifluridine-TipiracilまたはRegorafenib)に振り分けられた。対象患者は、①以前の血管新生阻害薬使用の有無、②診断からランダム化までの期間(18カ月以上または未満)、③ECOG PS(0-1 vs. 2)で層別化された。PROは、疲労(Brief Fatigue Inventory)、痛み(Brief Pain Inventory)、生活の質(EORTC QLQ-C30のGlobal Health Status-Quality of Life:GHS-QoL)および身体機能スケール、患者全体印象(Patient Global Impression of Change:PGIC)、副作用の煩わしさ(FACT-G GP5)で評価した。評価は治療開始前ベースラインおよび4週毎の治療サイクル開始日に電子デバイスで収集された。主な解析時点は9週目day 1におけるPRO指標に設定された。また疲労、痛み、生活の質(EORTC QLQ-C30)の指標については、ベースラインから臨床的に有意な症状悪化までの時間(time to deterioration:TTD)も解析対象とされた。

 なお、PROに関する評価は、本試験における副次および探索的評価項目として位置づけられており、統計的検定や多重比較の補正は実施されていない。各治療群におけるベースラインから9週目までのスコア変化については記述的に解析され、治療群間の差については最小二乗平均(least squares mean)を用いた反復測定混合効果モデル(MMRM)によって推定された。また、群間の差の95%信頼区間(CI)が0(またはHRの比較では1)を含まない場合には、治療間の差の傾向を示すものとして解釈された。

結果
 160例がランダムに割り付けられ、治療開始後の治療期間中央値はSotorasib 960mg+Panitumumab群で6.0カ月、240mg群で4.6カ月、標準治療群では2.2カ月であった。ベースラインにおける患者背景およびPROスコアには、治療群間で大きな偏りは認められなかった。

 9週目時点のPROについては、実測値ベースの平均変化量(observed mean change)および最小二乗平均を用いた反復測定混合効果モデルの両面から解析された。

 観察データに基づく平均変化量では、疲労は960mg群で−0.48(95% CI: −1.18〜0.23)、240mg群で−0.17(−0.86〜0.52)、標準治療群で0.42(−0.35〜1.19)と、併用療法群で改善傾向がみられた。痛みも、960mg群で−0.83(−1.50〜−0.15)、240mg群で−0.52(−1.18〜0.15)、標準治療群で0.63(−0.11〜1.36)と、併用療法群での改善が示唆された。GHS-QoL(生活の質)および身体機能スコアも、標準治療群で悪化傾向を示す一方、併用療法群では改善あるいは維持される傾向がみられた。

 治療群間の差については、最小二乗平均を用いた反復測定混合効果モデルによって推定された。疲労のスコア変化量は、Sotorasib 960mg群で−0.89ポイント(95% CI: −1.80〜0.01)、240mg群で−0.58ポイント(−1.47〜0.30)であり、いずれも標準治療群より改善傾向を示したものの、統計的に意味のある差とは判断されなかった。

 一方で、痛みの変化量は、960mg群で−1.45ポイント(−2.32〜−0.58)、240mg群で−1.14ポイント(−2.00〜−0.28)と、両群で有意な改善が認められた。

 GHS-QoLのスコアは960mg群で9.43ポイント(2.31〜16.56)、240mg群で6.49ポイント(−0.43〜13.41)と、960mg群で統計学的に有意な改善、240mg群でも改善傾向がみられた。身体機能スコアでは、960mg群で5.38ポイント(−0.01〜10.78)、240mg群で6.34ポイント(1.07〜11.62)と、特に240mg群で有意な改善が示された。

 また、身体機能スコアのTTDにおいては、960mg群でHR=0.52(95% CI: 0.28〜0.98)、240mg群でHR=0.33(0.17〜0.64)と、標準治療群と比較して症状悪化の遅延が統計学的に有意な差として示された。その他のスケール(疲労、痛み、GHS-QoL)でも、併用療法群はいずれも標準治療群と比較してTTDが延長する傾向が認められた。

 副作用の煩わしさ(FACT-G GP5)については、群間で大きな差はみられず、全体として治療の忍容性は良好であった。治療による自己評価(PGIC)においても、併用療法群の多くが症状の改善を報告しており、240mg群では約84%、960mg群では約63%の患者が、ベースラインより状態が改善したと回答した。

考察
 本試験のPRO解析により、SotorasibおよびPanitumumab併用療法は標準治療と比較して疲労の改善、痛みの軽減、生活の質(GHS–QoL)および身体機能の維持に寄与する可能性が示された。

 TTDも併用療法群で有意に延長し、日常生活機能の維持に貢献していた。副作用の煩わしさについては群間差が小さく、治療の忍容性は概ね良好であった。

 一方で、本解析は探索的であり、多重比較補正が行われていない点や、非盲検デザイン、標準治療群の治療期間の短さといった限界を有する。しかしながら、治療群間で患者背景が類似していたこと、また9週時点での評価完了率が高かったことから、得られた結果の信頼性は一定程度担保されていると考えられる。

 以上より、KRASG12C変異を有する化学療法抵抗性転移性大腸癌に対する本併用療法は、臨床的有効性に加えて患者視点での症状緩和や生活の質の改善にも寄与し得る、新たな治療選択肢としての意義が示唆された。

結論
 KRASG12C変異を有する化学療法抵抗性転移性大腸癌患者に対し、SotorasibおよびPanitumumab併用療法は標準治療と比べて疲労の改善、痛みの軽減、生活の質および身体機能の維持、症状悪化遅延といったPROにおいて有意義な利益を示した。副作用の煩わしさは増加せず、忍容性も良好である。これらの結果は、患者のQOLを重視した治療選択の新たな一手として注目される。


日本語要約原稿作成:昭和医科大学病院 腫瘍内科 鶴井 敏光



監訳者コメント:
KRASG12C阻害薬とEGFR阻害薬の併用療法は、大腸癌後方ラインにおいてQOLを改善する

 本論文が出版された2025年9月に、化学療法後に増悪したKRASG12C変異陽性の治癒切除不能な進行・再発結腸・直腸癌に対してSotorasibとPanitumumabの併用療法が本邦で承認された。KRAS遺伝子は長年創薬が困難なドライバー遺伝子のひとつとされ、このKRASを標的とする治療が実現したことは最も重要な医学的発見の一つである。そして大腸癌は肺癌に続き、2番目の癌種として無増悪生存期間(PFS)が延長したことを根拠に承認がなされた。一方Trifluridine-TipiracilやRegorafenibは全生存期間(OS)を改善したことで、治癒切除不能な進行・再発結腸・直腸癌に対して承認がなされている3,4)。ただKRASG12C変異のような比較的症例数の少ない集団においては、PFSがOSの代替エンドポイントとして用いられることで承認に至るケースが増えており、本試験においても妥当な主要エンドポイントと考える。

 PROを評価した本解析は探索的研究である点で限界はあるものの、疲労、痛み、QOL、身体機能はおおむね試験治療群で改善しており、副作用の煩わしさに関しても忍容性を認めた。状態の悪い大腸癌後方ラインにおいてQOLを改善した点は重要であり、進行癌においてはOSおよびQOLの改善が、承認を支持する重要なエンドポイントとなる。Sotorasib 960mg+Panitumumab療法はLess Toxic Newな治療法の可能性はあるが、予後不良なKRASG12C変異陽性大腸癌に対する新たな選択肢となった意義は大きい。

 近年提唱されているCommon-Sense Oncology7)の概念を考慮すると、患者に意味のある重要なアウトカムであるQOLは改善したが、同様に重要なアウトカムであるOSの改善に関しては明確ではなく、RegorafenibやFruquintinibと同等なのか、Trifluridine-Tipiracil+Bevacizumabを上回る効果があるのか、今後の検証が必要である。現在より親和性を高めた第2世代のKRASG12C阻害薬や化学療法との併用療法において有望な結果が報告されており、今後の開発が注目される。

  • 1) Qunaj L, et al.: Front Oncol. 13: 1252516, 2023 [PubMed]
  • 2) Fakih M, et al.: Oncologist. 27(8): 663-674, 2022 [PubMed]
  • 3) Grothey A, et al.: Lancet. 381(9863): 303-312, 2013 [PubMed]
  • 4) Mayer RJ, et al.: N Engl J Med. 372(20): 1909-1919, 2015 [PubMed]
  • 5) Amodio V, et al.: Cancer Discov. 10(8): 1129-1139, 2020 [PubMed]
  • 6) Fakih MG, et al.: N Engl J Med. 389(23): 2125-2139, 2023 [PubMed]
  • 7) Gyawali B, et al.: Lancet Oncol. 26(2): e80-e89, 2025 [PubMed]

監訳・コメント:昭和医科大学病院 腫瘍内科 池田 剛

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