論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

最新の論文紹介一覧へ
2009年1月~2015年12月の論文紹介
2003年1月~2008年12月の論文紹介

10月
監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健

胃癌 食道胃接合部癌

局所進行切除可能胃または胃食道接合部癌に対する周術期補助療法としてのPembrolizumab+化学療法と化学療法単独を比較した無作為化第III相試験の最終解析(KEYNOTE-585試験)


Kohei Shitara, et al.: J Clin Oncol. 43(29): 3152-3159, 2025

 免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用は、胃癌および胃食道接合部(G/GEJ)腺癌に対する一次治療において、生存期間の延長効果が示されている1-3)。しかし、局所進行切除可能なG/GEJ腺癌においては、周術期化学療法と免疫チェックポイント阻害薬を併用することによる治療効果は、十分に解明されていない。

 局所進行切除可能G/GEJ腺癌患者を対象に実施された無作為化二重盲検第III相試験であるKEYNOTE-585試験のメインコホート4)では、術前にPembrolizumabまたはプラセボをCisplatin+Capecitabine(またはFluorouracil)による化学療法を併用療法として3コース実施し、術後にPembrolizumabまたはプラセボ併用化学療法を3コース実施したのち、さらにPembrolizumabまたはプラセボ単剤を11コース追加投与する治療プロトコールで評価が行われた。化学療法にFluorouracil+Leucovorin+Oxaliplatin+Docetaxel(FLOT)を用いたFLOTコホートも設定された。

 これまでに報告された中間解析では、Pembrolizumab群では、プラセボ群と比較して病理学的完全奏効割合(pCR)の有意な改善が認められた(12.9% vs. 2.0%、p<0.0001)。一方、無イベント生存(EFS)中央値は44.4カ月 vs. 25.3カ月、HR=0.81、p=0.0198(有意水準p=0.0178)であり、数値上は改善がみられたが統計学的有意差は認められなかった。なお、この時点では全生存期間(OS)のデータは未成熟であり、本稿にて最終OS解析の結果が報告された。

 主要評価項目は、pCR、EFS、OSおよび安全性であり、メインコホートとFLOTコホートを合わせた集団での安全性も副次評価項目とされた。2017年試験登録開始の時点では、FLOTは特にアジア諸国で周術期化学療法の標準治療として広く受け入れられておらず5)、また免疫チェックポイント阻害薬との併用に関する安全性データは存在しなかった6,7)。その後FLOT4試験の結果、周術期FLOT療法は少なくとも欧米では、標準治療となった。そのため試験は改訂され、FLOT+Pembrolizumabの併用はFLOTに特化した安全性評価コホートとして組み入れられ、有効性はメインコホートおよびメイン+FLOTコホートの両方で評価された。

 2017年10月9日から2021年1月25日までに1,007例(メインコホート804例、FLOTコホート203例)が登録された。初回投与からの追跡期間中央値は、メインコホート59.9カ月(範囲39.0-75.8)、メイン+FLOTコホート58.6カ月(範囲36.5-75.8)であった。pCRは、メインコホートにおいてPembrolizumab群で54例(13.4%[95% CI: 10.3-17.2])、プラセボ群で8例(2.0%[95% CI: 0.9-3.9])に認められた。群間差は+11.4%(95% CI: 8.0-15.3)であり、サブグループ解析でも一貫した傾向を示した。メイン+FLOTコホートでは、pCRは14.2% vs. 2.8%であった。メインコホートにおいて、Pembrolizumab群ではプラセボ群と比較してEFSの延長傾向が認められた(EFS中央値:Pembrolizumab群44.4カ月[95% CI: 33.0-69.8]vs. プラセボ群25.7カ月[95% CI: 20.8-36.5]、HR=0.81[95% CI: 0.67-0.98])。5年EFS割合はPembrolizumab群47%、プラセボ群37%であった。メイン+FLOTコホートにおいても、Pembrolizumab群ではプラセボ群と比較してEFSの延長傾向が認められた(EFS中央値:Pembrolizumab群47.0カ月[95% CI: 36.2-未到達]vs. プラセボ群26.9カ月[95% CI: 22.1-34.7]、HR=0.80[95% CI: 0.67-0.95])。5年EFS割合はPembrolizumab群48%、プラセボ群38%であった。OSについても、Pembrolizumab群はプラセボ群と比較して延長傾向が認められた(【メインコホート】OS中央値:Pembrolizumab群71.8カ月[95% CI: 52.5-未到達]vs. プラセボ群55.7カ月[95% CI: 41.7-未到達]、HR=0.86[95% CI: 0.71-1.06];【メイン+FLOTコホート】OS中央値:Pembrolizumab群未到達[95% CI: 59.2-未到達]vs. プラセボ群55.7カ月[95% CI: 42.8-未到達]、HR=0.86[95% CI: 0.71-1.03])。5年EFS割合は、メインコホートではPembrolizumab群54%、プラセボ群48%、メイン+FLOTコホートではPembrolizumab群55%、プラセボ群49%であった。MSI-highやPD-L1 CPS≧10のサブグループにおいて、Pembrolizumab群でより高い有効性が認められる傾向がみられた。追跡期間の延長に伴う新たな安全性上の懸念は認められず、有害事象プロファイルは中間解析時と同様であった。

 本試験の最終解析において、メインコホートにおける周術期療法としてPembrolizumab+化学療法が、プラセボ+化学療法と比較してpCRの継続的な改善を示した。ただし、この差は統計学的多重性調整の対象外であった。5年EFSは10%、5年OSは6%のPembrolizumabの上乗せ効果が認められた。しかし、事前に設定された多重性戦略に基づき、第3回中間解析でEFSの統計学的有意差が認められなかったため、最終解析ではEFSおよびOSの差について正式な統計学的検定は行われなかった。メイン+FLOTコホートでもpCR、EFS、OSはいずれも同様の結果であった。本試験ではpCRの改善がEFSやOSの改善を予測することは確認されなかったが、これらの評価項目間の関係性については今後さらに検討が必要である。追加の追跡期間でも、新たな重大な安全性の懸念は報告されなかった。Pembrolizumabを化学療法に追加しても、プラセボ+化学療法と比較して健康関連QOLを悪化させることはなかった。

 近年、切除可能G/GEJ腺癌に対する周術期補助療法として、免疫チェックポイント阻害薬+化学療法の役割を検証する複数の試験が実施されている。例として、第III相MATTERHORN試験8)や、第II相無作為化DANTE試験5)はいずれも免疫チェックポイント阻害薬を併用する周術期補助療法がpCRを増加する一貫した効果を示した。さらにMATTERHORN試験では、Durvalumab+FLOTがプラセボ+FLOTと比較して、有意なEFS延長効果を示した。KEYNOTE-585試験との違いの一つは、化学療法の選択である。すなわちMATTERHORN試験ではFLOTを、KEYNOTE-585試験ではCisplatinベースの化学療法を用いた。いくつかの研究では、Oxaliplatinが免疫原性細胞死を誘導し、抗原提示を促進し、抗腫瘍免疫を刺激する可能性が示唆されている9)。また、PD-1経路の阻害は、胃癌においてCisplatinよりもOxaliplatinベースの化学療法と相乗効果をもつ可能性がある。今後は、局所進行切除可能G/GEJ腺癌に対する周術期補助療法におけるPD-1/PD-L1阻害薬の有用性を、PD-L1 CPS発現レベルも含めてさらに評価する必要がある。KEYNOTE-585においては、MSI-high腫瘍やPD-L1 CPS≧10の腫瘍を有する患者で、pCR・EFS・OSの改善がより顕著であった。これは、転移性G/GEJ癌における結果と一致する10)が、これらは全体のごく一部のサブグループであり、結果の解釈には注意を要する。

 本試験の限界の一つは、観察されたアウトカムが術前治療によるものなのか、それとも術後治療によるものなのかが明確ではない点である。

 KEYNOTE-585試験は、局所進行切除可能G/GEJ腺癌患者を対象として、周術期補助療法としてPD-1阻害薬と化学療法を併用した場合の全生存期間の結果を初めて報告した国際共同試験である。今後は免疫チェックポイント阻害薬の有効性を明確化するための追加研究が必要であり、さらにpCRが生存エンドポイントの有効なサロゲートエンドポイントとなり得るかについても検証が求められる。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 亀石 眞



監訳者コメント:
局所進行切除可能G/GEJ腺癌において、化学療法+Pembrolizumab療法は化学療法+プラセボ療法と比較して、5年EFSおよび5年OSの延長傾向を示した

 KEYNOTE-585試験は、局所進行切除可能G/GEJ腺癌を対象として、周術期補助療法としての化学療法+Pembrolizumab療法と化学療法+プラセボ療法を比較した国際共同無作為化比較第III相試験である。第3回中間解析においてPembrolizumab群がプラセボ群に対してEFSで統計学的な優越性を示さなかったことから、化学療法にPembrolizumabを上乗せする周術期補助療法は、新たな標準治療としての有用性を示すには至らなかったと解釈される。同様の患者集団を対象とした国際共同無作為化比較第III相試験であるMATTERHORN試験では、FLOT+Durvalumab療法がFLOT+プラセボ療法に対してEFSにおける統計学的優越性を示し、FLOT+Durvalumab療法は周術期補助療法として新たなグローバルスタンダードに位置づけられた。KEYNOTE-585試験とMATTERHORN試験の間には、化学療法、統計学的設定、多重性管理などの試験デザインに差異があり、これらの違いが試験結果に影響を及ぼした可能性がある。

 KEYNOTE-585試験、MATTERHORN試験の結果が得られる以前から、欧米のみならず、中国や韓国においても、PRODIGY試験やRESOLVE試験などの結果に基づき、補助療法の中心は術後から周術期へとシフトしている。病理学的病期に基づく術後補助化学療法の開発が中心であった日本においても、今後は周術期補助療法の開発が展開されることが予測される。今回報告されたKEYNOTE-585試験の結果は、周術期補助療法として免疫チェックポイント阻害薬を併用した場合の有効性および安全性について長期的な視点による知見を示すものであり、免疫療法の周術期導入の妥当性を補強する結果といえる。

  •  1) Janjigian YY, et al.: Lancet. 398(10294): 27-40, 2021 [PubMed]
  •  2) Rha SY, et al.: Ann Oncol. 34(3): 319-320, 2023 [Ann Oncol]
  •  3) Kelly RJ, et al.: N Engl J Med. 384(13): 1191-1203, 2021 [PubMed]
  •  4) Shitara K, et al.: Lancet Oncol. 25(2): 212-224, 2024 [PubMed]
  •  5) Lorenzen S, et al.: J Clin Oncol. 42(4): 410-420, 2024 [PubMed]
  •  6) Kang YK, et al.: Lancet Gastroenterol Hepatol. 9(8): 705-717, 2024 [PubMed]
  •  7) Nie RC, et al.: Eur J Cancer. 106: 1-11, 2019 [PubMed]
  •  8) Janjigian YY, et al.: N Engl J Med. 393(3): 217-230, 2025 [PubMed]
  •  9) Liu P, et al.: Oncoimmunology. 11(1): 2093518, 2022 [PubMed]
  • 10) Rha SY, et al.: Lancet Oncol. 24(11): 1181-1195, 2023 [PubMed]

監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 平野 秀和

論文紹介 2025年のトップへ

このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場