1月
監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健
大腸癌
局所進行結腸癌における循環腫瘍DNA(ctDNA)ガイド下術後補助化学療法:無作為化第II/III相 DYNAMIC-III試験
Jeanne Tie, et al.: Nat Med. 31(12): 4291-4300, 2025
Oxaliplatin併用化学療法は、stage III結腸癌における標準的な補助療法である1)。一方、実臨床では高齢者やフレイルな患者に対してFluoropyrimidine単剤療法が選択されることもある。しかし、現在用いられている臨床病理学的因子に基づくリスク層別化では、個々の患者が補助化学療法から得られる治療利益を十分に予測することは困難である。近年、微小残存病変(minimal residual disease: MRD)の直接的指標である循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA: ctDNA)が、大腸癌において強力な予後マーカーであることが前向き研究により示されている2)。本DYNAMIC-III試験3)では、stage III結腸癌患者を対象に、ctDNAに基づく治療と標準治療を比較する無作為化試験の主要結果を報告する。介入群では、ctDNA陽性例に対して治療を強化し、ctDNA陰性例では治療をデエスカレーションすることで、個別化補助療法の有用性を検討した。
2017年10月18日から2023年3月29日までに1,040例が登録され、そのうち1,002例が無作為化され、ctDNAガイド下治療群482例(96%)、標準治療群479例(96%)が解析対象となった。ctDNA解析は、15遺伝子を対象としたtumor-informed assay(SaferSeqS assay)が用いられ、992例中982例(99%)で成功した。患者背景は、ctDNAガイド下治療群では、標準治療群と比較して、ctDNA陽性患者における臨床的高リスクおよび腸管外腫瘍結節の割合が高かった。ctDNAガイド下治療群では、ctDNA陰性患者の90.4%、ctDNA陽性患者の89.1%が、それぞれプロトコールに従った治療のデエスカレーションまたは治療強化を受けていた。ctDNA陰性患者では、ctDNAガイド下治療により、Oxaliplatin併用化学療法の使用頻度が有意に低下していた(34.8% vs. 88.6%、HR=0.41、95% CI: 0.35-0.47、p<0.001)。また、治療期間も有意に短縮していた(平均101日[標準偏差(SD)43.4]vs. 118日[SD 48.5]、p<0.001)。ctDNAガイド下治療群のctDNA陽性患者では、50%がFOLFOXIRIを、43%がOxaliplatin併用化学療法を6カ月間受けていた結果、ctDNA陰性患者におけるctDNAガイド下治療デエスカレーションと標準治療との比較では、3年RFSに関して非劣性は示されなかった(85.3% vs. 88.1%、絶対差-2.8%、97.5%下限CI: -8.0%)。3年RFSの差に関する事前規定サブグループ解析では、臨床的低リスク(T1-3N1)の患者において、非劣性の事前規定マージンを満たしていた(91.0% vs. 93.2%、絶対差-2.2%、97.5%下限CI: -7.2)。ただし、リスク群間の交互作用検定は統計学的に有意ではなく、本結果は仮説生成的な所見にとどまる。一方、高リスク(T4および/またはN2)症例の3年RFSは72.8% vs. 78.6%(絶対差-5.8%、97.5%下限CI: -17.0)であり、dMMRでは88.4% vs. 96.4%(絶対差-8.1%、97.5%下限CI: -19.8)であった。一方、ctDNA陽性患者においては、ctDNAガイド下治療強化は標準治療と比較して、RFSに関する事前規定の優越性基準を満たさなかった(2年RFS 51% vs. 61%、HR=1.16、95% CI: 0.87-1.53)。主要なサブグループ別にRFSに対する治療効果を検討した解析においても、治療強化によって利益を得る可能性のある集団は認めなかった。
再発を認めた224例のうち、手術後にctDNA陽性であった患者は129例(58%)、ctDNA陰性であった患者は95例(42%)であった。再発様式は、術後ctDNA状態によって異なっていた。遠隔再発はctDNA陽性群で数値上多い傾向を認めた(77% vs. 64%、p=0.052)。一方、局所再発はctDNA陽性群で少ない傾向を認めた(39% vs. 49%、p=0.133)。臓器別では、肝転移はctDNA陽性患者で有意に多く認めた(53% vs. 24%、p<0.001)。肺転移(21% vs. 39%、p=0.004)および腹膜播種(20% vs. 34%、p=0.030)は、ctDNA陰性患者でより高頻度に認めた。再発後に根治目的のサルベージ手術または局所焼灼療法が施行された症例は、全体で224例中77例(34%)であり、治療群間でその割合に大きな差は認めなかった(標準治療群:ctDNA陰性12/40[30.0%]、ctDNA陽性21/62[33.9%];ctDNAガイド下治療群:ctDNA陰性22/55[40.0%]、ctDNA陽性22/67[32.8%])。
本試験は、術後ctDNA解析に基づくリスク調整型治療戦略の有用性を検討した実用的無作為化戦略試験である。ctDNA陰性患者では、ctDNAに基づくデエスカレーション(主にOxaliplatin併用二剤からFluoropyrimidine単剤への変更)により、Oxaliplatin使用率が89%から35%へ大きく低下し、重篤な有害事象および治療関連入院が減少した。3年RFSは標準治療群88.1%、ctDNAガイド下群85.3%で絶対差-2.8%であった。非劣性マージンは7.5%と設定され、片側97.5%信頼区間の下限は-8.0%でわずかにマージンを下回ったが、この結果は非劣性否定というより統計学的不確実性を反映したものとして解釈するのが妥当である。ctDNA陰性にもかかわらず再発した症例では肺・腹膜再発が多く、ctDNA放出量が少ない部位であることから偽陰性の可能性が示唆された。追跡変異数の増加、入力DNA量の増加、反復測定などにより感度改善が期待され、偽陰性が減ればデエスカレーションに伴うわずかなRFS低下や非劣性判断にも影響し得る。ctDNA陽性患者では、FOLFOXIRI療法が約半数で行われたが、2年RFSはctDNAガイド下群51%、標準治療群61%で、再発リスクの有意な低下は示されなかった。共変量調整後の感度解析でも結果は一貫していた。治療強化の比較はシグナル探索的第II相解析であり、症例数の限界や高リスク症例の偏りも踏まえ、結論は第III相試験での検証を待つべきである。以上より、ctDNAガイド下戦略は実施可能で臨床的意思決定に資する一方、stage III結腸癌で一律に導入すべきであるという十分な根拠はなく、特にctDNA陽性例では化学療法強化を超えた分子標的治療・免疫療法など新規治療戦略の確立が急務である。
日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター 薬物療法部 石塚 保亘
監訳者コメント:
Stage III結腸癌に対する術後ctDNAステータスに基づく治療戦略の有用性は示されず
DYNAMIC-III試験は、術後ctDNAの結果に基づいて治療内容を調整する層別化戦略の有用性を検証した、世界初の無作為化第II/III相試験である。本試験の最大の特徴は、MRD陰性例・陽性例それぞれの群内比較にとどまらず、MRD情報を治療判断に組み込む戦略そのものを、従来の一律的な術後補助療法戦略と比較した点にある。
一方で、このような戦略比較型デザインは、統計学的に有意差を検出するために多くの症例数を要するのみならず、治療選択や臨床判断の不均一性を伴いやすいという本質的な制約を有する。その結果、本試験ではMRD陽性群・陰性群のいずれにおいても、明確な治療効果を示すには至らなかった。しかし、これらの結果はctDNA検査自体の臨床的有用性を否定するものではなく、ctDNA情報を治療判断に実装する際の課題を具体的に可視化した点において、本試験は重要な示唆を与えている。また、ctDNA関連試験の多くが企業との共同研究として実施され、有用性が強調されやすい傾向にある中で、本試験は研究者主導で遂行された試験であり、結果の限界や解釈上の問題点が自己批判的かつ率直に記載されている点も特筆に値する。これらは学術的信頼性の観点から高く評価される。
ctDNA陰性群においては、非劣性デザインに内在する統計学的制約に加え、ctDNA陰性であっても再発を来す症例が一定数存在する点が依然として課題である。DYNAMIC-III試験ではstage III全体として非劣性は示されなかったものの、再発低リスク症例ではctDNA検査の有用性が示唆されており、CIRCULATE-Japan VEGA試験の結果が注目される4)。一方、ctDNA陽性群に対する治療強化については、CIRCULATE-Japan ALTAIR試験においてもFTD/TPIによるDFSの有意な改善は示されなかった5)。また、ctDNA陽性例に対する治療介入の最終的な目的はOSの延長にあり、再発時期の遅延のみが臨床的意義をもつかについては慎重な検討を要する。
興味深いことに、膀胱癌領域では、筋層浸潤性膀胱癌に対して膀胱全摘後にctDNAを1年間モニタリングし、ctDNA陽性となった症例を対象にAtezolizumabとプラセボを比較した第III相試験(IMvigor011試験)において、DFSおよびOSの改善が示された6)。これらの知見を踏まえると、治療開発上の本質的な課題はctDNA検査そのものではなく、その情報を十分に生かし得る治療薬の不足や、適切な統計学的デザインの構築にあると考えられる。今後、分子標的治療薬やCAR-T療法を含む免疫療法など新たな治療選択肢が補助療法領域に導入されることで、大腸癌におけるMRDガイド下治療の位置づけは大きく変化する可能性がある。
- 1) Grothey A, et al.: N Engl J Med. 378(13): 1177-1188, 2018 [PubMed]
- 2) Nakamura Y, et al.: Nat Med. 30(11): 3272-3283, 2024 [PubMed]
- 3) Tie J, et al.: Nat Med. 31(12): 4291-4300, 2025 [PubMed]
- 4) Taniguchi H, et al.: Cancer Sci. 112(7): 2915-2920, 2021 [PubMed]
- 5) Bando H, et al.: J Clin Oncol. 43(4_suppl): LBA22, 2025 [JCO]
- 6) Powles T, et al.: N Engl J Med. 393(24): 2395-2408, 2025 [PubMed]
監訳・コメント:愛知県がんセンター 薬物療法部 谷口 浩也
GI cancer-net
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