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坂本: では次に、過去に行われた第II相試験を例にディスカッションを進めたいと思います。まずは、無作為化第II相試験において有効性が確認できたにもかかわらず、第III相試験ではnegativeな結果に終わった2つの臨床試験について取り上げます。 朴: Perifosineの第II相試験と第III相試験の対照群の成績がほぼ同等であり、患者背景の片寄りもみられないため、理由を特定することは非常に難しいです。ただ、第II相試験は症例数が少ないことは指摘できます。小規模な試験だと、わずか数人でも特別なことが起こると、こういう結果になったとしても不思議ではありません。 坂本: 確かに、各群20例の試験では、わずか3例でもこの程度の差はついてしまいます。森田先生はこのような小規模の第II相試験についてどうお考えでしょうか。 森田: 難しい問題だと思います。サブグループ解析では、真実として群間差がないにもかかわらず、データが持つランダムなバラツキゆえ偶然に統計的有意差がついてしまうことが問題 (αエラーの増大) になります。もしこの第II相試験の後に、切除不能進行・再発大腸癌を対象とし、しっかりと必要症例数を計算した第II相試験を実施していれば、その時点で群間差はないと結論に至ったかもしれません。しかしこれも「後からなら何とでも言える」というものです。この事例では、実施された第II相試験の結果の解釈やdecision makingに問題があった可能性が高いと思われます。 朴: 第II相試験におけるdecision makingの閾値や期待値が考慮されていないことは問題だと思います。論文には統計的に有意なレベルを0.05とすることのみ記載されていますが、1群20例では評価が難しいでしょう。この試験はデザインに問題があったと言わざるを得ないと思います。 坂本: 続いてもう1つは、切除不能進行・再発大腸癌に対する1st-lineにおけるL-OHP + フッ化ピリミジン製剤に対するCetuximabの上乗せ効果を比較・検討したOPUS試験・COIN試験です。第II相試験のOPUS試験の全体解析ではCetuximabの上乗せ効果は認められなかったものの、KRAS 野生型によるサブグループ解析では、PFS (HR=0.567, p=0.0064) 、OS (HR=0.855, p=0.39) ともにCetuximab併用群で良好な上乗せ効果が得られました (表3) 3)。しかし第III相試験であるCOIN試験のKRAS 野生型患者における検討では、OS (HR=1.038, p=0.68) 、PFS (HR=0.959, p=0.60) いずれも有意な延長効果は認められませんでした (図2) 4)。OPUS試験・COIN試験 (表4) についてはどうお考えでしょうか。 朴: 両試験の対象患者や実施された地域の医療システムといった背景因子が大きく異なることが挙げられます。例えばOPUS試験は欧州ベースで行われている一方、COIN試験はイギリスだけで行われています。イギリスの医療状況は他国と大きく異なり、これまでもイギリスにおける第III相試験の結果が他の欧米での試験結果と異なることが散見されています。したがって、私はOPUS試験とCOIN試験は、第II相試験の結果を第III相試験で検証したというよりも、それぞれ独立した試験だと考えています。 森田: 確かに環境の違いは重要な要因であると思います。一般に、第II相試験は臨床試験を積極的に実施している少数の施設で行われることが多く、試験実施のクオリティも高く、データの質も非常に高いレベルに担保されています。一方、第III相試験では参加施設の裾野が広がり、データの質だけでなく、治療プロトコルの遵守やコンプライアンスなど、さまざまな要因でその質の確保が難しくなります。例えばPFSを評価するために行う画像の撮影時期や間隔が守られないと、本来ある群間差が検出されないことも起こりえます。 坂本: COIN試験に類似した試験として、FOLFOX ± Panitumumabの有効性を検討した第III相試験であるPRIME試験が挙げられますが、こちらはpositiveな結果が得られています。朴先生はこの結果をどのように解釈されていますか。 朴: PRIME試験は、世界の各地域で選ばれた病院によって実施されたことで、質の高い結果が得られたと考えられます。一方、COIN試験はcommunity practiceに近いため、他の同様の試験と比べて全体的に成績が悪い傾向にあります。CetuximabとPanitumumabはともに抗EGFR抗体薬なので、両薬剤の試験を総合的に解釈する必要があると思います。昨年発表されたESMOのガイドラインには1st-lineとしてFOLFOX + Cetuximabが記載されていますが、これはOPUS試験やPRIME試験などを合わせて判断されたのでしょう。
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