治療戦略の巻 大腸癌分子標的治療編
第6回 治療戦略の巻 2010年12月10日 ホテルラフォーレ東京にて
3. 応用編

副作用の管理がしやすい抗VEGF抗体、切れ味のよい抗EGFR抗体

辻先生 佐藤 分子標的治療薬の主要なレジメンとしては、(1) L-OHPベース (FOLFOX/XELOX) + Bevacizumab、(2) L-OHPベース + 抗EGFR抗体、(3) FOLFIRI + Bevacizumab、(4) FOLFIRI + 抗EGFR抗体という4種類があるわけですが、これらはどのような特性があるのでしょうか。

 抗EGFR抗体は、副作用の面ではFOLFIRIと併用したほうがよいように思います。FOLFOXと併用すると、L-OHPによる神経毒性と抗EGFR抗体による皮膚障害が重なって、コンプライアンスが悪くなる印象があります。こういった状況を考慮して、1st-lineで使う場合には、比較的若年で十分なセルフケアの可能な方などに、病状にあわせてお勧めしています。

佐藤 L-OHPベースにBevacizumabを併用するのと、抗EGFR抗体を併用するのとでは、どのような違いがありますか。

 Bevacizumabには注意が必要な毒性もありますが、頻度はそれほど高くないため、問題なく施行できることが多いです。一方、抗EGFR抗体との併用は、毒性に対するケアや対策を実施し、注意深く行う必要があると思います。

佐藤 効果の面も含めるといかがでしょうか。

吉野 直接比較の試験成績がないので、現時点ではわからないですね。未治療のKRAS 野生型患者をFOLFIRI + Bevacizumab群とFOLFIRI + Cetuximab群に分けて比較したFIRE-3試験10) の結果が近い将来、国際学会で発表予定ですので、そこで初めて明らかになると思います。過去の試験結果を横断的に並べると、1st-lineでFOLFOXまたはFOLFIRIとBevacizumab併用のPFSが10〜12ヵ月程度、抗EGFR抗体併用では8〜10ヵ月弱です。若干の差があるようですが、横断的なので有効性はほぼ同等と考え、1st-lineでは毒性がより軽いほうを選ぶというのが現状です。

佐藤 では、抗EGFR抗体の位置づけ、あるいはメリットは何だと思われますか。

加藤 3rd-lineでは抗EGFR抗体単独で使用していますが、非常に使いやすいです。QOLも比較的保たれるので、PDで治療を中止するというよりは、可能な限り継続することが多いですね。さまざまな治療を受けて、全身状態の悪化した患者さんに単独で使用すると、皮膚障害以外に大きな副作用がないため、非常に喜ばれます。

佐藤 当院で診ている患者さんも、似たような感想をおっしゃっていますね。

 私も同じような印象です。2nd-line、3rd-lineでの使用が多いのですが、特に3rd-line以降では、従来有効な治療手段がなかった状況下で非常に有用ですし、治療関連死につながりかねない重篤な副作用もないので本当に助かります。基本的には当院では、3rd-lineではCPT-11 + Cetuximabの併用ですが、CPT-11の副作用がつらい方などにはPanitumumab、Cetuximab単独でも使用します。

佐藤 抗EGFR抗体は奏効率が高く、切れ味がよいという表現をされることもありますが、実際はいかがでしょうか。

吉野 それは間違いないと思います。1st-lineで抗EGFR抗体を使って手術ができるようになるのがベストですが、手術できなかった方にとっては、1st-lineは長く続く治療ですから、皮膚障害と長く付き合うのは難しい面もあります。
 簡単に言えば、抗EGFR抗体は短期勝負の薬だと私は考えています。例えば、術前補助化学療法 (neoadjuvant chemotherapy) は期間が限られているので、切れ味のよい抗EGFR抗体が適していると思いますし、先生方がおっしゃるような後ろのラインでの使用にもよいと思います。また、PS (performance status) の悪い方は1st-lineの施行期間が短いことが多いので、最初から単剤で投与します。

高橋 私も同様の位置づけですね。切除可能な症例に対し、抗EGFR抗体を短期間使用するという戦略はよいと思います。また、1st-line、2nd-lineと治療を続けてきて、これ以上引っ張るのは難しいかなというときに、3rd-lineで抗EGFR抗体を使うと、QOLが改善しますし、腫瘍マーカーが下がってくることもあります。

佐藤 抗EGFR抗体の位置づけとして短期勝負というお話が出ましたが、つまりは短期間の投与でも効果が得られる、それだけの抗腫瘍効果を有しているともいえます。術前補助化学療法や3rd-line、あるいは1st-lineでもPSが悪かったり、腫瘍の増殖スピードが速かったりして、ゆっくりと5剤を使いきるような治療が難しい場合など。こうした短期勝負が必要な場合には、抗EGFR抗体が有用であるということですね。

Conversion therapy

佐藤 治療の目的は延命とQOLに尽きるわけですが、昨今、延命に関してはconversion therapyが話題になっています。切除不能の転移巣があっても、分子標的治療薬を含めた化学療法が奏効し、R0切除に持ち込める症例が出てきて、延命につながっているわけです。
 このように、病巣がもう少し小さくなれば切除ができそうな症例に対し、化学療法で病巣を小さくして切除手術に持ち込もうという治療法を“conversion therapy”と呼び、切除可能な症例に対して行われる術前補助化学療法とは区別されています11) (図4)。この点について、外科の先生方のご意見をお聞かせください。

高橋 Conversion therapyは肝転移を有する症例に行われることが多いのですが、肝転移に関していえば、2割程度が切除可能な状況に持ち込めるようになってきています12)。しかし、どのような状態になったら切除してよいのか、統一した基準がないことが問題です。施設によって切除可能の判断が異なるため、同じ状態でも切除できる施設とできない施設が出てきます。今後は外科医と内科医を含めた多職種のチームをつくり、特に肝臓外科医がイニシアティブを取りながら対応していく必要があります。そのなかで、conversion (=切除) を見据えた薬剤選択も考えていかなければなりません。

佐藤 Conversion therapyでは、そうした「切れるか、切れないか」というグレーゾーンが問題になりますね。

高橋 Conversionが可能かどうかは、がんがどのように分布しているかで決まります。3本ある肝静脈の本幹に浸潤あるいは接していれば、縮小したとしても切除は困難です。一方、腫瘍が大きくても肝静脈を圧迫しているだけなら、縮小することで部分切除できる可能性があります。画像診断と肝切除の経験を積まなければ、その判断は難しいと思います。

佐藤 内科の先生方は、外科との連携はいかがですか。

吉野 肝転移の切除に関する統一基準はなく、外科医一人ひとりが各自の基準で判断するわけですから、CT画像を外科医に見せて判断してもらうのが一番です。

 当院では定期的に外科と併診しているので、切除については外科医が最終的には判断しています。日常診療では内科から外科に相談するばかりでなく、CTの確認後、「切除できそうだ」と外科診察時に相談されることもよくあります。

佐藤 グレーゾーンに関しては外科医との連携が必須ということですね。では、conversionを狙う場合は、どのようなレジメンを選択されますか。

加藤 なかなか狙うのは難しいですね。実際、切除可能となる症例は10%前後13)に過ぎませんから、むしろ切除できなかった場合に不利益とならないように考えています。切除を狙える症例かどうかがわからないので、まずはBevacizumabを併用しています。

高橋 当院もFOLFOX + Bevacizumabが基本になっています。ただ、Bevacizumabは切除前に一定の休薬期間が必要です。実は、その間に腫瘍マーカーが上がってきて、結構痛い目に遭った症例を経験したことがあります。

吉野 結局のところ、conversionができた症例の治療前の姿はまだ検証されていないのが問題です。どのような症例でconversionができたのか、またconversionを狙ってレジメン選択をしたけれど、conversionができた症例とできなかった症例ではどこが違うのか、きちんと検証する必要があります。
 肝転移に限局した症例の一部でconversionができることは想定がつきます。その一部というのは、切除できるかどうかで、外科医の意見が割れるような症例です。このような症例に対し、我々が最適と考えているのは、FOLFOXまたはFOLFIRIと抗EGFR抗体の併用です。抗EGFR抗体を併用すると奏効率が高くなり、奏効率が高いものほどR0切除率が高いからです。抗EGFR抗体は2ヵ月ぐらいで奏効を伸ばす症例があるので、2ヵ月ごとにCTを撮り、手術に移行すればよいのです。

佐藤 抗EGFR抗体は術前に休薬する必要がないので、高橋先生が指摘されたBevacizumabの問題点も解決できるわけですね。

   
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