Conversion therapyとしての抗VEGF抗体薬と抗EGFR抗体薬の有用性
掛地 吉弘先生
掛地:
大腸癌化学療法の進歩にもかかわらず、肝転移を有する大腸癌患者に対しては、現在でも肝切除術が治癒を望める唯一の治療法です。しかし、切除可能となる患者は10〜20%程度に過ぎません。肝切除できた場合の5年生存率は30〜40%ですが、切除できなかった場合はわずか1〜2%です6)。
切除不能進行・再発大腸癌に関する欧州のワーキンググループのコンセンサスでは、大腸癌の肝転移に対しては、切除可能でも切除不能でも、ほとんどのケースで最初に全身化学療法を行うことを推奨しています7) 。化学療法の奏効率と切除率には有意な相関がみられていますが、癌の遺残がないR0切除率とは有意な相関を認めていません8)。
TournigandらのV308試験によると、1st-lineでFOLFOXを用いた場合の肝切除術率は21%でしたが、FOLFIRIの場合は9%でした9)。Oxaliplatin (L-OHP) は類洞拡張 (blue liver)、CPT-11は脂肪肝 (yellow liver) を引き起こすことが知られているため、我々外科医はこうした肝障害にも注意を払う必要があります。さらに術後90日間の死亡率にも注意を払う必要があり10)、CPT-11に起因する脂肪性肝炎では15%の患者が肝不全となる可能性があります。
しかし、BevacizumabとCetuximabのどちらが優れているかを直接比較したデータはまだありません。両剤のconversion率と術前補助化学療法における奏効率はほぼ同等です。また、第III相試験における切除不能な肝転移患者のR0切除率もほぼ同等と考えられます11-13) (図3)。ただ、第II相試験ではありますが、切除不能肝転移のみの患者を対象としたCELIM試験では、FOLFOX + Cetuximabの術前投与により、KRAS 野生型患者では37.7%と極めて高いR0切除率が示されました14)。
さて、我々九州大学を中心とした臨床研究グループ (KSCC) では、現在、肝転移のみを有する切除不能大腸癌患者に対する術前補助化学療法の第II相試験を2つ実施しています (図4)。ひとつはmFOLFOX6 + Bevacizumabを用いた試験で15)、もうひとつはSOX (S-1 + L-OHP) + Cetuximabを用いた試験です16)。前者は40例の登録が終わり、後者は症例登録中です。
2つの症例をお示ししたいと思います。1例目は50歳の男性で、1年前にstage II のS状結腸癌と診断され、切除手術を受けました。その後、MRIで多くの肝転移巣が確認されましたが、XELOX + Bevacizumabの投与によりほとんどの肝転移巣が消失し、腫瘍マーカーの値もコントロールされたため、部分肝切除術およびMicroTase凝固療法を施行しました。
2例目は45歳の男性です。肝転移を伴ったS状結腸癌でKRAS 遺伝子野生型です。S状結腸は完全に閉塞しており、肝臓の第6区域に肝転移巣が確認されました。本症例では横行結腸人工肛門形成術を施行した後にXELOXを行いましたが、原発巣が出血していたためBevacizumabは併用しませんでした。しかし、原発巣も転移巣もコントロールできず、CEA値の上昇が認められたため、S-1 + CPT-11 + Cetuximabに変更したところ、病変はコントロールされ、CEA値も低下しました。近日中に肝切除を行う予定です。