瀧内: 日本ではBRiTE25) の結果に基づき、約半数の医師がBBPを行っているともいわれますが、ここでKopetz先生にBBPについてのお考えをレクチャーしていただきたいと思います。
臨床的および生物学的観点からBBP (Bevacizumab beyond progression) を考える
Scott Kopetz先生
■エビデンスの観点からみたBBP
Kopetz: 私はBBPを2つの観点から論じたいと思います。ひとつはエビデンスの観点から、もうひとつは生物学的観点からです。これからお話しするBBPに関する仮説は、血管新生阻害剤が単剤では効果がないといういくつかのデータと、BRITEとARIESという2つの観察研究において、Bevacizumabを含む治療によりPDとなった後も、Bevacizumabに耐性を示さなかった患者がいるというデータに基づいています25, 27)。
エビデンスの面から論じる際に、まず理解しておかなければならないことは、BRiTEはFDAの要請により、有害事象をモニターするために行われた観察研究だということです。BRiTEは有効性を検討する目的でデザインされておらず、腫瘍の進行形式――例えば進行の速さや、どの時点で急速に進行し始めたのかといった情報がほとんどありません。また、初回PD後にすべての治療を中止してしまった患者もいれば、Bevacizumabを使い続けている患者もいます。有害事象をモニターするための観察研究で、患者背景もまったくバラバラとなると、有効性のデータが臨床的にどれほどの意義をもつのか疑問です。
BRiTEの結果で印象的だったのは、2nd-lineでBBPを行わなかった群の初回PD後のOS中央値が9.5ヵ月であったのに対し、BBPを行った群では19.2ヵ月だったことです25)。Bevacizumabの無作為化比較第III相試験で、1年近く差がついた試験は存在しません。これは予想を遥かに上回る結果であり、何らかのバイアスがかかっていることが示唆されます (表4)。例えば、BBPが行える患者はPSが良好で、1sl-line治療に対する忍容性も良好な患者であったと考えられます。また、BBP群のなかには1st-line治療を12ヵ月以上続けていた極めて奏効期間の長い患者もいました。PDの判断も医師によってばらつきがあります。したがって、BRiTEの結果は参考にはなりますが、仮説に過ぎません。
現在、BBPを検証する前向きの無作為化比較試験であるAIO 0504試験28) が進行中ですので、この試験の結果が出るまで、BBPが本当に有用か否かに対する回答は待っていただきたいと思います。
■生物学的観点からみたBBP
次は、生物学的な観点からBBPについて考えたいと思います。血管新生阻害剤には耐性がみられることが知られていますが、腫瘍は血管新生なしには数ミリたりとも増大することはできません。
血管新生の機序にはさまざまな因子が関与しています。我々はBevacizumabによる治療がPDとなる前に耐性が獲得され、これらの因子による血管新生が活性化するのではないかという仮説 (図12) をもとに研究を行いました。
1st-line治療としてFOLFIRI + Bevacizumabを投与した患者を対象に、VEGFとその他のVEGFリガンド (図13) の血清中濃度を測定した結果、PlGFとbFGFは、PD直前にベースライン時に比べて有意に高値を示しました29)。このことは、PDとなった場合、Bevacizumabが阻害するVEGF-Aとは別のサイトカインが腫瘍血管の増加をもたらしていることを示唆しています。つまり、PD後にBevacizumabの投与を続けても、十分な効果が得られない可能性があるのです。
Bevacizumab 併用レジメンでPDとなった患者の2nd-line治療は、KRAS 遺伝子野生型患者では抗EGFR抗体薬併用レジメンの選択肢がいくつかありますが、KRAS
遺伝子変異型はFOLFIRI単独またはFOLFOX単独に限られます (図14)。
現時点では、血管新生阻害剤の耐性は臨床的にも生物学的にも定義するのが困難です。Bevacizumab継続投与のベネフィットが得られる患者を評価する前向きな試験が必要です。