坂本:直腸癌に対する術前化学療法は、佐藤先生がおっしゃるように世界的にはLV/5-FU併用ではなく持続静注5-FU単独とされています。
佐藤:基本的に、術前は放射線療法のみで、化学療法は行わなくてよいと考えています。その理由は、術前放射線療法に比べ術前化学放射線療法では重篤な副作用の頻度がかなり高くなることです。ただし、効果を上げるために化学療法の併用も考慮します。患者さんの状態をみて、敢えて化学療法を併用する場合には、あまり副作用の強くない持続静注5-FUを選択し、問題があるようであれば放射線療法を優先して化学療法を中止するか減量します。
大村:この症例を設定するにあたって、坂本先生が想定されているのは局所再発のリスクですよね。
坂本:はい。基本的には局所再発に対してどう対処するかという問題を念頭に本症例を設定しました。
大村:先ほど瀧内先生が言及された、放射線療法後のTMEとTME単独を比較したDutch trialでは、局所再発は改善されましたが生存率は改善されていません。しかし、生存率に差がないからといってその治療法に価値がないかというと、必ずしもそうではない。局所再発はQOLを損ないますし、疼痛の問題もありますから。この点で術前放射線療法には意義があると思います。
久保田: 佐藤先生は、術前放射線療法の照射線量はどのくらいをお考えですか。
佐藤:総線量40〜50Gyです。
久保田: 40Gyと50Gyでは考え方が異なるようです。“intent-on-treat”といって根治的な放射線療法を行う場合は50Gyまで照射しますが、“intent-off-rate”といって術前補助療法の場合は40Gyまでとするという考え方です。
坂本:5年OSや局所再発率が改善されたSwedish Rectal Cancer trial(Swedish Rectal Cancer Trial. N Engl J Med 1997; 336: 980-987)の照射線量は25Gyですからね。
佐藤:ところで、放射線の手術に対する影響という点で、側方郭清についてはいかがでしょう。われわれの施設の外科医に、術前の化学放射線療法を行った場合、郭清はしにくいかと尋ねたら、「たぶん郭清しにくいと思う」との答えでした。そうすると、安易に術前放射線療法を選択することはできません。
大村:直腸癌の場合、術前放射線療法の影響で剥離面が仙骨側に偏ると、出血量が増えることも考えられます。
佐藤:一方で術後の放射線治療は副作用の頻度が高く、膀胱に照射して瘻孔を起こすなど、副作用が5%くらいにみられるとも言われますね。
坂本:癒着もみられます。術後放射線療法では必ず何らかの副作用が発現しますね。