瀧内:本症例のような直腸癌の治療はきわめてcontroversialな状態です。アメリカの場合は放射線治療医の力が強いため、放射線は外せないという事情があって、そこから治療戦略が立てられます。以前は術後に施行していましたが、有効性の限界に達したということで、いまや術前しかないという状況です。日本の場合は、直腸癌だけでなく胃癌についても、放射線療法を導入する余地が残されていると思います。放射線療法は、今後、検討すべき選択肢の1つです。
佐藤:ステージIIIAまでは手術単独の生存期間が優れるので術前放射線療法は原則的には不要かとも考えます。しかし、熟練した放射線治療医が副作用の出現を抑えて腫瘍をどんどん縮小させて、その後外科医が切除するという治療現場を目の当たりにしたことがあり、そうなると放射線療法も捨てがたいと思えてきます。
坂本:最近の放射線治療機器は、コンピュータ化によって正確に照射野を決められるようになったのであまり熟練を必要としないのですが、外科医よりも放射線治療医のほうが熟練者と非熟練者の差が大きいといわれます。しかし瀧内先生がおっしゃるように、今後、特に術前の放射線療法は、常に念頭に置く必要があると考えます。
佐藤:術前化学放射線療法の化学療法regimenは、5-FU単独とLV/5-FUではいずれがよいのか判然としませんね。
坂本:結腸癌では5-FU単独よりもLV/5-FUが明らかに優れるというエビデンスがあり、標準治療となっているのに対し、直腸癌では依然として持続静注5-FU単独が用いられているのが現状です。
佐藤:一般に放射線療法の治療期間は長くないのですが、これに対し化学療法はどのように併用すべきでしょう。
坂本:術前化学放射線療法の期間は大きな問題です。例えば、化学放射線療法を2ヵ月施行するのか、それともLV/5-FUとの併用で放射線を5Gy×5日間で25Gyを照射してすぐに手術を行うのか。いずれがよいかは明らかにされていません。
久保田:LV/5-FUをde Gramont regimenあるいはRoswell Park regimenで実施するという方法もあります。
大村:われわれの施設ではRoswell Park regimenを用い、放射線は2Gy×5日を照射しています。LV/5-FUは、Roswell Park regimenよりもsLV5FU2のほうが効果は高いと思いますが、その施行を控えているところです。
坂本:直腸癌に対しても、LV/5-FUは持続静注のほうが有効との見方もありますね。本日のお話からもわかるように、直腸癌に対する術前化学放射線療法については多くの課題が残されています。日本独自のエビデンスが発信できるよう、今後も積極的に検討を続けていくべきと考えます。どうもありがとうございました。