予防・対症療法
抗EGFR抗体による低Mg血症の予防方法は確立されていない。低Mg血症はgrade 1〜2では臨床症状はほとんどなく、grade 3以上になって初めて自覚症状を伴うことが多い。そのため抗EGFR抗体による治療中は、定期的に血清中電解質のモニタリングを行い、低Mg血症が重篤化する前に対策を行うことが重要である(図2)6-9)。Mg補充療法は、低Mg血症の程度に応じて硫酸Mg補正液1 mEq/mL 20mLを生理食塩水100 mLに希釈し60分以上かけて投与する。高齢とOxaliplatin併用が抗EGFR抗体による低Mg血症のリスク因子であることが報告されており9)、高齢で不整脈の既往をもつ患者には十分注意する必要がある。
減量・中止基準
CetuximabとPanitumumabによる低Mg血症において、減量基準と中止基準は明確には定められていない。一般的にはgrade 2で減量、休薬を考慮し、grade 3以上で減量、休薬もしくは投与の中止を検討する。
Mgの生理
経口的に摂取されたMgは小腸で吸収され、吸収率は30〜50%とされている10,11)。吸収されたMgは、30%が蛋白結合型、15%が塩として、55%がフリーのイオン(Mg2+)で存在し、塩とフリーのイオンが糸球体から吸収される。排泄は主に腎臓から行われ、血清Mgの約70〜80%が糸球体より濾過される。濾過されたMgは近位尿細管にて15〜25%が、ヘンレ係蹄にて65〜75%が、遠位尿細管のTRPM6を介して5〜10%が吸収される2,10,11)。遠位尿細管におけるMgの再吸収量は少ないが、TRPM6は体内のMg濃度を微調整する上で重要な役割を担っていると考えられる。Mgは細胞内にも分布しており、血清Mg値の低下が必ずしもMg不足を反映していない場合がある。
Mg製剤による補正
Mg製剤による血清Mg値の補正に関するエビデンスは限られている9)。硫酸Mg補正液の静脈投与によって血清Mg値の補正を適宜行い、それでも改善を認めなければ抗EGFR抗体を休薬する。経口Mg製剤である酸化Mgや硫酸Mgによって、血清Mg値の補正を行う方法も知られているが、腸内におけるMgの吸収は微量であり、効果を認めることは少ない。大腸癌の治療においてCetuximabとPanitumumabはCPT-11や5-FUといった下痢の副作用を有する薬剤と併用するレジメンが多いため、経口Mg製剤を使用する際は下痢の副作用に十分注意する。
低Mg血症を引き起こす他の要因
ループ系利尿薬やサイアザイド系利尿薬、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの薬剤によっても血清Mg値が低下することがあるため、低Mg血症を認めた際は他の要因についても十分に検討する必要がある(表2)10,12)。特にPPIは消化器癌領域において消化器症状や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)服用に対して慢性的に使用されるケースも多い。そのためPPI使用の際は、血清Mg低下のリスクを考慮しながら継続使用する必要がある。その他の要因としては、アミノグリコシド系薬剤、副甲状腺機能低下症、高アルドステロン症などが挙げられる。
低Mg血症に随伴する電解質異常
血清Mgの低下により低カルシウム(Ca)血症、低カリウム(K)血症などの電解質異常を合併することがある(表3)13)。抗EGFR抗体による治療施行中は、Mg値だけでなく血清Ca値、血清K値も注意深くモニタリングすることが重要であり、電解質異常が認められた場合には、必要に応じ電解質補充を行う必要がある。血清Ca値の低下は血清Mg値低下により副甲状腺ホルモンの分泌抑制、腎臓における副甲状腺ホルモンの作用が減弱されることで引き起こされる。また低K血症は血清Mg値の低下により腎でのK再吸収が障害されることで引き起こされる。特に低Mg血症に伴う低K血症についてはMgを補正しない限り改善しないとされる10)。
References
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