副作用対策講座 |

倦怠感  監修:室圭先生(愛知県がんセンター中央病院)
対策

 1次性倦怠感は腫瘍自体による症状が主であるため、基本的には対症療法が中心となる。一方で2次性倦怠感は電解質異常や薬剤性、貧血、抑うつ、睡眠障害等が原因であるため、それらの補正や中止、治療により症状改善が図れる可能性がある。例えば、化学療法に起因する嘔吐や下痢等による電解質異常では制吐剤や止瀉薬の使用、および電解質補正等により症状が改善される可能性があり、また、薬物療法に加え、環境整備やNST等のチーム介入により改善できる因子も存在する。一方で、抗うつ剤や睡眠障害を改善させるための睡眠導入剤、睡眠薬等はそれ自体が倦怠感を引き起こす可能性があるため、安易な使用には注意が必要である。CRFの原因が睡眠障害である場合には、CRFの改善を目的とした睡眠障害の改善に対する非薬物療法も報告12)されており、リラグゼーションや適度な運動等を併せて取り入れることが睡眠障害の軽減につながり結果的にCRFの軽減につながる。
 CRFに対する薬物療法としては精神刺激薬であるメチルフェニデート13)やペモリン14)、デキサメタゾン等のステロイド15)の使用が海外を中心に報告されている。メチルフェニデートは倦怠感が強いほどその有効性は高いとの報告16)もあり、緩和ケア病棟や多くの緩和ケア医にも使用されてきた薬剤であるが、本邦ではナルコレプシーにのみ適応となっており、CRFに対する適応はない。また、適応による流通制限もありCRFに対して安易に適応し難い状況である。ペモリンは適応外(本邦での適応は軽症うつ病、抑うつ神経症、ナルコレプシー)となるが、本邦でも使用可能な精神刺激薬である。しかし、メチルフェニデートほどの効力はなく、また、肝障害の発現には注意が必要である。ステロイドに関しては本邦でもCRFに対して広く経験的に用いられている。一般的にはベタメタゾン(リンデロン®)注を4mg/日程度で開始し、効果がなければ数日で中止、効果が得られれば効果の得られる最低用量まで漸減して継続といった方法が実臨床では用いられているが、その投与量や投与期間については確立されておらず、長期投与における比較試験でのエビデンスはない。一方、漢方薬である補中益気湯や十全大補湯のCRFに対する有効性も報告17,18)されているが、エビデンスとして確立したものではない。また、マルチビタミン等のサプリメントの効果に関してはCRFに対するその有用性は示されていない19)

管理のポイント

 CRFは患者主観的な症状であり、医療従事者による客観的な評価が困難であることが多い。また、その症状の存在が当たり前であるという前提からくる先入観や、消化器症状や疼痛などの一般的な症状に注意が集中する結果、軽視され、過小評価されていたとするいきさつもあるため、評価時には注意を払いたい。そして、診察時に主治医に自らのCRFに関する訴えをしない患者も多い20)。従って、CRFの評価時には患者に対してその存在を前提とした聴取を行う必要がある。その評価方法としてさまざまな評価ツールが存在し、症状の有無や程度のみを示すものから、CRFが患者の身体面や精神面に与える影響を評価するためのものもある。前者にはSymptom Assessment Scale(SAS)21)やBrief Fatigue Inventory(BFI)22)、後者にはPiper Fatigue Scale(PFS)23)や、Cancer Fatigue Scale(CFS)24)等が挙げられる。また、CTCAEにおけるGradingやVisual Analog Scale(VAS)でも評価は可能である。それぞれの評価ツールの特性を考慮し、症状や評価の目的に合わせて評価ツールを使い分けることで、より正確、かつ効果的にCRFの評価を行っていくことがポイントである。

References

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