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第2回 大腸癌化学療法の変遷(結腸癌に対する術後補助化学療法)

5. 至適治療期間 佐藤武郎先生 北里大学医学部 外科学

5.1 欧米における至適治療期間の検討
図1A 結腸癌術後補助化学療法の治療期間の変遷
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表1A 至適治療期間を検討した無作為化比較試験
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 1990年代初頭、結腸癌の術後補助化学療法は5-FU/LEVの12ヵ月投与が中心であったが、試験やレジメンの投与スケジュールによるばらつきもあり、治療期間に対するコンセンサスは確立されていなかった。
 そのような状況下で、術後補助化学療法の至適治療期間にひとつの答えを出したのが、1998年のO’Connellらの報告58)である。ハイリスク結腸癌患者915例を対象に、5-FUに対するbiochemical modulator 2剤 (LEV, LV) 併用の効果と治療期間 (6ヵ月 vs. 12ヵ月) の2×2要因デザインを用いて検討が行われた。その結果、6ヵ月群と12ヵ月群の生存に有意な差は認められず、至適治療期間は6ヵ月と考えられるようになった。さらに、2003年に報告されたGERCORの試験においても、de Gramont レジメンの効果と治療期間 (24週 vs. 36週) を検討する2×2の要因デザインが用いられた。その結果、24週群と36週群で再発や生存に有意差は認められなかった20)
 以降、結腸癌術後補助化学療法においては、3〜12ヵ月のさまざまな期間の治療法が検討された。SAFFA試験 (Saini A, et al., 2003; Chau I, et al., 2005) 59, 60)では、治癒切除後の大腸癌患者を対象に6ヵ月のMayoレジメンと12週の5-FU持続静注 (PVI) を比較した結果、RFSおよび OSに差は認められず (5年RFS: 66.7% vs. 73.3%、5年OS: 71.5% vs. 75.7%)、有害事象はいずれも12週PVI群で軽度であった。なお、両群の5-FU総投与量はほぼ同量になるよう設定された。一方で、米国のMedicareを利用している高齢stage III結腸癌患者を対象に行われた解析では、術後補助化学療法の治療期間が5〜7ヵ月の群は、1〜4ヵ月の群と比較して生存が良好であると報告されている61)

表7 IDEAの解析対象
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 英国では2008年より、XELOX/FOLFOX 3ヵ月群と同6ヵ月群を比較・検討する大規模無作為化比較試験 (SCOT試験) が開始された。現在、SCOT試験は欧米の主要研究グループによる至適治療期間を検討するメタアナリシスプロジェクト“IDEA”に参加しており (表7)、新たにHellenic Oncology Research Group (HORG) の参加が発表された (2011年3月時点) 62)

5.2 日本の状況

 本邦の大腸癌治療ガイドラインでは、術後補助化学療法の期間については確定的な結論は得られていないが、現在のところ5-FUベースの補助化学療法は6ヵ月投与が標準的であると記載されている。現在、がん集学的治療研究財団 (JFMC) で、JFMC 33-0502試験 (UFT/LV [6ヵ月 vs. 12ヵ月])、JFMC 37-0801試験 (Capecitabine [6ヵ月 vs. 18ヵ月]) の2つの大規模臨床試験が行われており、症例登録が終了した。本邦から術後補助化学療法の至適治療期間に関するエビデンスが発信されることとなる。また、JOIN試験 (stage II / stage III結腸癌治癒切除例に対する術後補助化学療法としてのmFOLFOX6療法の忍容性に関する検討およびL-OHPの安全性指標に関する策定研究) やGENIUS試験 (大腸癌におけるL-OHPの末梢神経障害に対する漢方薬: 牛車腎気丸の有用性に関する多施設共同二重盲検ランダム化比較検証試験 [臨床第III相試験]) などのL-OHP併用レジメンの臨床試験が実施されており、これらの症例集積と結果が待たれる。

5.3 今後の展望

 MOSAIC試験NSABP C-07試験において、stage III結腸癌のL-OHP併用レジメンの有用性は明らかになっている。このためstage III症例では、L-OHPの併用が可能な症例では全例に使うことがEBMである。しかし一方で、L-OHPによる神経毒性にも注目しなくてはならない。MOSAIC試験において、L-OHP投与群では治療終了後4年の時点で15%程度の患者にGrade 1/2の神経毒性が残存するとのデータが示されている。すなわち、4%の患者さんを助けるために、15%の患者さんに神経毒性を残してしまうこととなる。術後補助化学療法の最大の目的はDFSの延長ではなくOSを延ばすことであり、かつ、QOLの高い生存である。Stage IIIのなかにも、L-OHPの上乗せの意義が大きい症例と小さい症例がある。元来L-OHP併用を必要としない症例に対する過剰な治療と、L-OHP併用レジメンを用いても根治に導けない症例に対する無駄な治療をどのように省き、効果のある症例に対しては、どのように有害事象を減らしてQOLの高い生存を与えるかを導く必要がある。したがって、JOIN試験やGENIUS試験など、効果予測や神経毒性の予防を検討する試験が重要と考える。また、L-OHP併用レジメンの治療期間の短縮を検討するSCOT試験等の結果が待たれる。

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