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第3回 大腸癌のバイオマーカー1. 総論

 

1.1 バイオマーカーとは

 バイオマーカーとは、“A characteristic that is objectively measured and evaluated as an indicator of normal biological processes, pathogenic processes, or pharmacologic responses to a therapeutic intervention (正常の生物学的過程、発病過程、治療介入による薬理学的反応における客観的に測定・評価可能な指標)”と定義されている1)
 (がん) 薬物療法領域におけるバイオマーカーの役割は大きく2つに分けられる。ひとつは、特に分子標的治療薬において、創薬の段階から有効性・安全性を予測できるバイオマーカーを活用し、理論的・効率的・迅速な新薬開発を行うことである。もうひとつは、臨床において、予後や治療効果、副作用を予測するバイオマーカーを活用し、患者ごとに治療法を選択する個別化医療を行うことである。

1.2 Prognostic biomarkerとpredictive biomarker
図1
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 Prognostic biomarker (予後バイオマーカー) は、治療の有無にかかわらず予後に影響を及ぼす因子であり、例えば手術後のがんの再発リスクを予測することで、化学療法や放射線療法などの周術期補助療法を開発・導入する対象を選択する際に活用される。
 一方、predictive biomarker (効果予測バイオマーカー) は、薬剤等の治療に対する有効性や副作用を予測する因子であり、分子標的治療薬などの抗癌剤の開発や使用症例の選択に活用できる。
 バイオマーカーの評価に際しては、単一治療群でバイオマーカー (+) と (−) の集団を比較して予後に差を認めた場合、そのマーカーが予後因子なのか効果予測因子なのか判断できない点や、prognostic / predictive両方の特性を有するバイオマーカーも存在する点を留意しておく必要がある2)

1.3 バイオマーカーのエビデンスレベル
表1 バイオマーカー研究におけるエビデンスレベル (Hayes, et al., 1996)
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 米国FDA (Food and Drug Administration) は、バイオマーカーを確実性のエビデンスレベルに応じて、known valid、probable valid、exploratoryのクラスに分けている3)
 乳癌におけるTrastuzumab使用時のHER2検査やGISTにおけるImatinib使用時のc-kit遺伝子検査は、測定系が確立され、測定結果の臨床的意義が医学・科学コミュニティにおいて広く合意されているknown valid biomarkerであり、使用前の測定が必須と考えられている。一方、広く合意に達していないものがprobable valid、臨床的意義が示唆されているが再現性等は未確認のものがexploratoryに分類される。Probable validおよびexploratory markerがどのような条件を満たせばknown validとなるかは明確には定義されていないが、レベルの高いエビデンスの積み重ねを経て、known validと認知される。
 バイオマーカー研究におけるエビデンスレベル分類については種々の提案があるが4, 5) (表1)、マーカーを用いた無作為化比較試験 (Randomized controlled trial: RCT) >マーカーを用いないRCTの後解析>非RCT前向き試験の後解析、の順に高いエビデンスレベルとなる。

1-4 バイオマーカーを用いた臨床試験のデザイン
図2 バイオマーカーを用いた臨床試験のデザイン
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 バイオマーカーを検証する研究を行う際には、マーカーの測定方法や精度・診断能が確立されているかどうかについて留意する必要がある。マーカーを用いたRCTとしては、以下のデザインが考えられている6, 7) (図2)。いずれも前向きにマーカーを検証できるため、得られるエビデンスレベルは高いが、仮説の検証に必要な症例数を算出すると膨大になることが多い。

1) Targeted design (Enrichment design)
 マーカーを測定し、(+) の患者だけをランダム化して行う。測定法が確立され、効果の期待される集団が想定できる場合に有用であるが、マーカーが (−) の患者への治療効果に関する情報は得られない。

2) All-comers design
 マーカーを測定するが、その結果にかかわらず、標準治療群と試験治療群にランダム化される。測定法が確立されておらず、効果のある集団も不明の場合に有用である。このデザインは、最初にマーカーを測定しないで試験終了後に探索的にマーカーを測定する場合 (後ろ向き) と異なり、前向きRCTに基づいた結果として扱うことができる。

3) Hybrid design
 マーカーを測定して2群以上に分け、それぞれの群で治療法を決定する。マーカーが (+) の患者はランダム化して試験治療群と標準治療群に割り付け、(−) の患者は標準治療群に割り付ける。(+) と (−) の患者では、標準治療の内容が異なる場合もある (参照: 2.2 18q LOH / ECOG5202試験) 。マーカーの測定法が確立している際に、群別の治療法を細かく決定するのに適したデザインである。

目次へ 2. 術後補助化学療法におけるバイオマーカー
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