GI-pedia|大腸癌のトピックに関するエビデンスや情報をまとめ、時系列などに整理して紹介します。

第6回 胃癌外科手術の変遷

4. 縮小手術

4.1 リンパ節郭清の縮小

 胃癌の定型手術におけるリンパ節郭清範囲はD2郭清であるが、早期胃癌には郭清範囲の縮小が推奨されている。近年、検診の普及や内視鏡診断の進歩などにより早期胃癌の割合は増加している。2群リンパ節 (胃癌取扱い規約第13版における) 転移がない早期胃癌の予後は非常に良好であるため、すべての早期胃癌に定型手術を行うことは過大侵襲であると考えられるようになった。そして、2001年公刊の胃癌治療ガイドラインではじめて縮小手術が提唱された。現在の胃癌治療ガイドライン第3版でも、リンパ節転移のない早期胃癌はD1+郭清の適応となり、さらに、分化型で1.5cm以下の腫瘍の場合はD1郭清の適応と記載されている。

4.2 切除範囲の縮小

 残胃機能を温存して術後の良好なQuality of Life (QOL)を保つために、早期胃癌に対する切除範囲の縮小が検討されるようになった。切除範囲の縮小は、術前診断でリンパ節転移を認めない早期胃癌が適応となる。

4.2.1 噴門側胃切除術
図9
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 1897年、Mikuliczによって噴門側胃切除術の最初の報告がなされた。噴門側胃切除術は、胃上部にある早期胃癌に対して口側の胃を切除する術式である (図9)。噴門機能として逆流防止に働いている、下部食道括約筋 (LES)、横隔膜脚、横隔膜食道靱帯、His角を喪失する術式であり、逆流性食道炎の発生が術後のQOLに大きく影響する。逆流性食道炎の予防には、胃を十分に残して残胃の貯留能を確保することが重要で、50%以上の胃を温存できる場合にこの術式の適応となる。また、迷走神経の肝枝、幽門枝、腹腔枝を温存して良好な胃排泄能を保つことも重要である。食事摂取量や術後の体重減少などの面で胃全摘術よりも優れていると考えられているが、縮小手術として機能温存を目指した術式であり、術後愁訴の軽減のための工夫が必要と考えられる。一方、欧米や韓国では、利点が明確ではないとの考えから噴門側胃切除術を施行することは少なく、胃全摘術を選択することが多い。
 この術式で頻度の高い術後合併症には、逆流性食道炎と吻合部狭窄がある。また、胃癌の好発部位である幽門前庭部が温存されているため、残胃癌の発生に注意を払う必要があり、長期間に渡る定期的な内視鏡検査でのフォローアップが重要である。

4.2.2 幽門保存胃切除術
図10
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 1966年、東北大学の槇哲夫らは、良性潰瘍に対する術式として幽門保存胃切除術を報告した38)。現在では、リンパ節郭清を伴う幽門保存胃切除術が胃癌に対して行われており、胃中部にある早期胃癌で、遠位側縁が幽門から4cm以上離れているものが適応となる (図10)。幽門部の血流を温存するために、幽門下動静脈、右胃動静脈を温存する。また、迷走神経の肝枝、幽門枝 (前幹)、腹腔枝 (後幹) を温存することも重要である。
 幽門保存胃切除術では、ダンピング症候群の発生が少なく、十二指腸液の逆流が少ないことが知られている。また、迷走神経幽門枝を温存することで、術後胆石の発生を抑えられるとされている。一方、短所として、胃排出能の低下により食物残渣の胃内停滞や逆流症状を認めることがある。そのため、食道裂孔ヘルニアや逆流性食道炎を術前に認める症例では、この術式は適応とならない。

4.3 迷走神経温存手術

 術後の機能保持の観点から迷走神経温存の術式が検討されている。ただし、進行癌では迷走神経温存よりもリンパ節郭清を優先する。迷走神経肝枝、幽門枝、腹腔枝を温存することにより、術後胆石発生の減少、下痢の頻度の軽減、術後体重減少の早期回復などが期待できる。

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