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第6回 胃癌外科手術の変遷

5. 拡大手術

5.1 膵体尾脾合併切除

 3.3で述べたように、現在は、膵温存、脾摘によるD2リンパ節郭清が胃全摘を行う際の定型手術となっている。膵体尾部へ腫瘍が直接浸潤していて、合併切除でなければ根治切除ができない場合に、膵体尾脾合併切除が選択される。

5.2 大網・網嚢切除

 通常、深達度T3 (SS) 以深の腫瘍に対する定型手術では大網も切除される。また、胃後壁漿膜に腫瘍が露出した症例では、網嚢内の微小な播種病変を切除する目的で網嚢切除が行われることがある。
 大網・網嚢切除は腹膜播種や局所再発を減少させる目的で普及した。しかし、網嚢切除による手術時間の増加、術中出血量の増加、膵液瘻の発生増加などが懸念されており、網嚢切除を行わない施設が現在では多数派となってきている。
 深達度T3 (SS) 以深で根治切除可能な胃癌を対象に、標準治療である大網切除に対する大網・網嚢切除の優越性を検証する第III相試験 (JCOG1001試験) が現在進行中である39)

5.3 大動脈周囲リンパ節郭清

 1976年に癌研究会附属病院の大橋一郎らにより、転移陽性大動脈周囲リンパ節郭清後に5年生存した6例の報告がなされた40)。腹腔内リンパ節転移の終末点である大動脈周囲リンパ節の郭清により胃癌の治療成績は向上することを多くの外科医が確信し、日本の胃切除術では大動脈周囲リンパ節郭清が広く普及していった。しかし、深達度T3 (SS) の進行胃癌を対象として、D2リンパ節郭清に対するD2+大動脈周囲リンパ節郭清の優越性を検証した第III相試験 (JCOG9501試験) の結果は、研究者の予想に反して否定的なものであり、両群で生存期間に差を認めず41)、予防的な大動脈周囲リンパ節郭清の意義は否定された。現在の胃癌取扱い規約第14版において、大動脈周囲リンパ節転移は遠隔転移とされている。
 しかしながら、高度リンパ節転移を有する症例を対象に、術前補助化学療法後に胃切除術とD2+大動脈周囲リンパ節郭清を行ったところ、大動脈周囲リンパ節の郭清効果を認めたという報告がなされている42)。そのため、高度リンパ節転移症例に対する大動脈周囲リンパ節郭清は、今後も有用な治療法となる可能性がある。

5.4 開胸手術

 食道浸潤胃癌では、下部食道の切除だけでなく下縦隔リンパ節の郭清が必要である。そして、その郭清手技を確実に行うためには、左開胸を伴う手術操作が必要と考えられていた。しかし、縦隔リンパ節郭清を行っても縦隔リンパ節転移陽性例の予後が不良であることから、左開胸操作の必要性について疑問の声もあった。一方、手術機器の進歩により下縦隔内での吻合が経腹的操作でも安全に行えるようになった。そこで、食道浸潤3cm未満の進行胃癌を対象に、開腹経裂孔アプローチに対する左開胸開腹アプローチの優越性を検証する第III相試験 (JCOG9502試験) が行われた43)。この試験は、中間解析の時点で、左開胸アプローチが経裂孔アプローチを上回る可能性が低いことを指摘され、途中中止となった。有意差はないものの、左開胸アプローチが経裂孔アプローチよりも生存期間で劣るという結果であった。さらに、術後呼吸機能の低下やQOLの低下が左開胸アプローチで顕著であった。この結果を受けて現在、食道浸潤が3cm未満の胃癌では、経裂孔アプローチが推奨されている。なお、この臨床試験では経裂孔アプローチにおいても下縦隔リンパ節 (No.110) や大動脈周囲リンパ節 (No.16a2 lat) の郭清が行われている。

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