PolymorphismがCPT-11の毒性に影響を与える
CPT-11の毒性について伺いたいと思います。本試験の結果が報告される前から、先生はCPT-11 regimenの一部できわめて毒性が高いことを警告されていましたね。
はい。CPT-11の毒性に関する当時の観察結果について、今では説明ができるようになりました。今回のASCOでもUGT1A1 polymorphismに関するポスターが多数発表されていますが、CPT-11の毒性はおそらく、SN38(CPT-11の活性型)の排泄に関与するpolymorphismに基づくと考えられます。
SN38の排泄はglucuronyltransferase(グルクロン酸転移酵素)により行われますが、UGT1A1 polymorphismにより各患者の排泄能は異なります。米国で最も一般的なUGT1A1 の遺伝子型(genotype)は6/6 型で、40%前後は6/7 型、7/7 型は10%前後に認められます。
白人系で10%前後、アジア系で2%が7/7 型のようですね。7/7型 の患者にはジルベール症候群といった問題があります。
その通りです。ジルベール症候群の患者では抱合型ビリルビン値が上昇します。これはビリルビンのグルクロン酸抱合が効率よく行われていないことを示しています。SN38についても同様であり、このため高濃度のSN38が長時間体内に存在することになります。
N9741では7/7 型の患者を除外しなかったのですか。
はい。試験進行中には、この点はまだ明らかとなっていませんでした。しかし今回のASCOでMatthew Goetzが行ったポスター発表では、異なるgenotypeを対象にしたL-OHP、CPT-11、capecitabineのphase I dose escalation試験の結果が報告されています(ASCO 2005 ♯2014)。
この試験では、当初の設定用量と比較して6/6 型患者には高用量が投与可能であり、6/7 型にはおおよそ適量でしたが、7/7 型患者には減量する必要がありました。こうした点は分子遺伝学的手法が利用できるようになるまで分かりませんでしたが、現在ではかなり解明できていると思います。
IFL群で高い死亡率
IFL regimenを行った患者ではどのような結果となりましたか。
IFLで問題となっていた毒性は下痢、悪心、嘔吐であり、それからおそらくは敗血症をもたらすbowel-blood barrier損傷に関連する、好中球減少でした。
加えて今回、LV/5-FU+CPT-11併用に関連する血栓症候群も認められました。これは以前は明らかになっていなかったもので、Mace Rothenbergが報告を行っています(J Clin Oncol. 19: 3801, 2001)。Rapid toxicity monitoring systemにおいて、60日間の死亡率はFOLFOX 4群およびIROX群で1.1%であったのに対し、IFL群では約3.5%でした。
かなり高い数値ですね。
ええ、とても高い数値です。Rapid toxicity monitoring systemによって、この事実を特定でき、解明が必要となったわけです。もちろん、この時点ではIFLは米国におけるfirst line regimenであり、本試験で早期に予想外の高い死亡率がみられたことには少なからず驚きました。結腸癌は膵臓癌ほど進行が速くないため、phase III 試験に参加できるような状態の結腸癌患者のほとんどは、60日間で死亡することはないと考えていました。
一方、Leonard Saltzが昨年のASCOで発表したCALGB C89803(ASCO 2004 ♯3500)では、補助化学療法としてRoswell Park regimenによるbolus LV/5-FUと、IFL regimenによるLV/5-FU+CPT-11が比較されました。我々はこの試験に参加していましたが、200例前後を検討した時点で、患者の死亡率は約6%でした。
CALGB C89803におけるIFL群全体での治療関連死は2.8%でしたね。
そうです。この結果からIFLに関する毒性上の懸念が出てきました。Dr. Rothenbergがトップを務める独立調査委員会が、N9741とCALGB C89803の試験のデータを検討した結果、IFL群において死亡の増加が認められ、この原因は2つの症候群、つまり血栓塞栓と敗血症に分類できました。
現在では、重度ないし致命的な毒性を示した患者のほとんどはUGT1A1 7/7 genotypeの持ち主であろうと思われます。残念ながらそれを立証するための生物学的検体はないので、仮説に留まっていますが。
UGT1A1 をすべてチェックするのには費用がかかりすぎますしね。
その後、我々は患者に血液の提供を依頼し、結局、登録患者1,700例のうち約500例については血液検体を集めることができました。これを利用し、Howard McLeodが一昨年のASCOで、UGT1A1 polymorphismがCPT-11の活性および毒性を解明する因子であることを示すデータを発表したのです(ASCO 2003 #1013)。
DNAを用いた様々な検討
他にも興味深いデータが発表されています。昨年Jeff Sloanは、葉酸の代謝と治療前の患者のQOLとの相関について報告しています(ASCO 2004 ♯5)。葉酸代謝に関わる遺伝子のpolymorphismは、患者の癌診断時の健康状態と相関していました。
患者のDNAと血漿検体を保存しているため、試験をさかのぼり、ゲノムを調べて数多くの興味深い調査を進めることができます。我々は当初17種の遺伝子を選択しましたが、もちろんDNAがあれば、最新で高性能のハイスループット装置を用いた様々な検査が可能です。
体細胞からUGT1A1 のDNA分析をする上で問題はありませんでしたか。GCPや法律上の問題はどうでしょうか。
我々の調査ではすべての患者で生検をしているわけではないので、遺伝子構成の検討には限界がありました。GCPについては、調査に携わったHoward McLeodがこの件に精通しているうえに、ヒトゲノムプロジェクトのプロジェクトツールがあったことから、DNA塩基配列決定に最高レベルの装置を活用することができました。患者さんにはインフォームド・コンセントに署名してもらいましたので、法律上の問題もありませんでした。残念ながら1,700例全例のDNAは得られませんでしたが。
もう1つ、我々が行った興味深い試みは、IFL regimenの高い毒性が判明した時点で用量を減量したことです。CPT-11を125から100mg/m2に、5-FUを500から400mg/m2に減量したところ、低用量IFLはIFL原法と同じ有効性を示しながら、毒性は格段に低いことが明らかとなりました。
実はCPT-11の投与量の中央値を調べた結果、最初のサイクル(6週間)では中央値が500mg/m2(125mg/m2×4回投与)となるはずが、実際の投与量はわずか425mg/m2でした。そこで週1回100mg/m2を6週中4週投与するよう変更したところ、実際の投与量にきわめて近い値となり、治療1、2週目に強い副作用を示す患者はいませんでした。
しかし、データ監視委員会は今回の比較検討を早期に中止させました。低用量IFLと比較しても、FOLFOX 4が優れていたためです。
米国では患者の多くにL-OHP regimenが実施されている
米国におけるIFL、FOLFOX、その他LV/5-FU+CPT-11持続静注などを取り巻く現在の状況を教えてください。
現在は、IFL regimenを開発したDr. Saltz自身も、この治療を行っていません。ほとんどの医師がbolus LV/5-FU+CPT-11の併用を行わなくなっています。LV/5-FU+CPT-11 regimenを採用している医師は、infusional LV/5-FUFOLFIRIを実施しています。
米国でもそうなのですか。
そうです。大多数の患者では、first lineとしてL-OHP regimenが行われているようです。FOLFOXが多いのですが、L-OHPを併用したcapecitabine regimen(CapOx[XELOX])を受けている患者も少なくありません。
Capecitabineは米国でも認められつつあるのですね。
認知度は高くなりつつあります。それでも市場調査によれば、capecitabineをベースとした治療をfirst lineとしている患者はわずか15〜20%で、infusional LV/5-FUベースの患者が大半です。
CapOxは米国のスタンダードな治療の1つとなっているのですね。
はい。しかし現在までのところ、このregimenに関するphase II のデータは1件だけです。今回phase III データがいくつか発表されることになっていますが、受け入れ期間や追跡期間が終了していないことを考えると、中間報告だと思われます。
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