FLOX regimenの利点
今回のASCOでは、Dr. Wolmarkによりbolus LV/5-FU+L-OHP(FLOX regimen)がRoswell Park regimenよりも優れているとの報告が行われていますね(NSABP C-07、ASCO 2005 ♯LBA3500)。米国における状況は変わりつつあると思われますか。
その可能性がとても高いと思います。C-07試験ではMOSAIC試験と同程度の差が出ており、Roswell Park regimen に比較し、FLOX regimenの3年DFSは4.9%高くなっています(71.6% vs. 76.5%)。しかしOSデータについてはまだ最終的な結果が出ていません。
FLOX regimenには利点がいくつかあります。なかでも、L-OHPの投与量が、3サイクル(6ヵ月間)でわずか765mg/m2前後であるという点が重要です。de Gramont-styleのFOLFOX 4の場合、上記の3サイクルと同様に6ヵ月間投与すると、85mg/m2を隔週、12サイクルとなり、最終的には投与量が1,000mg/m2を超えます。感覚神経障害という問題があるため、少ない投与量ですみ、神経障害の残存が小さいのであれば、FLOX regimenのほうがよいといえるかもしれませんね。
患者さんにportを挿入する必要もないですね。
その通りです。ですから、米国の腫瘍専門医が補助化学療法のFLOXデータをみて、「進行癌患者にFLOXを始めてみたい」と考える可能性は高いと思っています。米国ではinfusionよりもbolus投与が好まれますから。
はるかに簡便ですからね。
患者さんも、2日間もポンプを携帯したいと思っていないでしょう。C-07試験は、米国の治療パターンを変える可能性を秘めているといえるでしょう。
現在、LV/5-FU に対するL-OHPベースの補助化学療法の優位性を確認するために、2件の大規模な無作為化試験が計画されていることも、とても喜ばしいニュースです。
LV/5-FU+L-OHP療法はstage III〜IVの標準療法
先生は、補助化学療法、そして進行癌という観点からみて、LV/5-FU+L-OHP療法は欧州同様、米国でも標準化学療法となるべきとお考えなのですね。
そう考えています。Stage IVと同様、stage III でも標準治療となるべきでしょう。Stage II の結腸癌でも標準治療とするべきかどうかは重要な問題であり、はっきりとした答えが出ていません。ご存知のようにASCOでは、stage II の患者にはルーチンベースで治療しないよう勧告を出しています。
MOSAIC試験やQUASAR試験の結果が出ていてもそうですね。
はい。昨年報告されたQUASAR試験では、約3,000例のstage II 患者を術後補助化学療法施行群と手術単独群に無作為に割り付けていました(ASCO 2004 ♯3501)。
術後補助化学療法施行群のほうが優れているという結果でしたが、大きな差ではありませんでした。
その通りです。ですから私はまだ、stage II 患者へのアドバイスをケースバイケースとしています。患者さんにはデータを見せて説明しますが、「わずかな利益のためにでも化学療法を受けたい」という患者さんもいれば、OS 2%の違いのために6ヵ月間にわたる化学療法を受けたくないと考える患者さんもいるでしょう。
簡便なmodified FOLFOX 6
実際の治療にあたり、FOLFOX 4 regimenの場合、どのようなスケジュールを立てていますか。またportを挿入しているのでしょうか。
私は、患者にはみなportを挿入しています。実は私はもうFOLFOX 4は行っておらず、modified FOLFOX 6(mFOLFOX 6)を採用しています。LV/5-FUのbolus投与は高頻度の好中球減少と関連があると考えているため、行っていないのです。
他にde Gramontのregimenと異なる点は、毒性を考慮し、L-OHPの用量を100mg/m2FOLFOX 6での用量)や130mg/m2FOLFOX 7での用量)ではなく85mg/m2としているところです。L-OHPのdose intensityがそれほど重要であるとの実際のデータはないですし、私は基本的には患者ごとに許容できる累積投与量があると考えています。ですから、高用量を投与して中止となるよりは、低用量を時間をかけて投与するregimenを採用しています。
高用量を用い、その後中止するregimenを用いた試験もありましたね。
de Gramontが行ったOPTIMOX試験ですね(ASCO 2004 ♯3525)。ここでは、いわゆる「ストップ・アンド・ゴー」アプローチを採用し、L-OHP 130mg/m2を用いるFOLFOX 7を6サイクル行った後、L-OHP投与を中止してsLV5FU2を続けました。一部の患者では、増悪を認めればL-OHP投与を再開しました。
ここで問題となったのは、こうした治療法が腫瘍専門医にとってもかなり施行が難しいアプローチであるという点です。熟練スタッフが集まったこの研究グループ(GERCOR)でさえ、ごくわずかなケースにおいてプロトコル規定通りの投与再開を行っただけでした。
なるほど。先生がmFOLFOX 6を採用されているのはとても理にかなっていますね。施行しやすく、1日で実施でき、病院に2日間留まる必要がないわけですから。患者さんが自分で抜針できるのでしょうし、米国ではより現実に沿っていますね。
そうです。我々が患者を入院させることはめったにありません。ほとんどの患者がベルトに携帯ポンプを取り付けて帰宅します。看護師が訪問し、infusionカテーテルを抜いてラインを洗浄し、ポンプをオフにする方法がよく行われています。
Bevacizumab、cetuximabの有効性を検討する新たな試験
最後になりますが、結腸直腸癌、とりわけ進行結腸直腸癌における臨床試験の今後の展望をお教えください。
私はCALGBのGI委員会会長として、米国でこの夏にスタートする Intergroup trial CALGB/SWOG 80405(以下80405)を取りまとめています。
実は2004年には、生物製剤の併用を検討する2件の試験がスタートすることになっていました。1つめはbevacizumab 併用ないし非併用にてFOLFOXとCapOxの比較を行うSWOGの試験ですが、これは本格的にスタートしていません。Dr. Hurwitzの試験データの報告を受けて、被験者の誰もbevacizumab非投与armに割り付けられることを望まなかったためです。
Factorial designの試験でしたね。
その通りです。一方CALGBで実施した試験は、cetuximab 併用または非併用にてFOLFOXとFOLFIRIを比較するものでした。この試験は受け入れがかなりスムーズに進んでいましたが、ここでもcetuximabの投与を受けない患者が出るなどの問題がありました。そこでSWOGとCALGBは、合同でこの2つの試験を1つにまとめ、進行結腸直腸癌を対象とする新たな試験80405として承認を受けました。この試験はまもなくスタートする予定です。
この試験では、医師が化学療法のプラットフォームとしてFOLFOXかFOLFIRIを選択できます。私がこうした方法を提案した理由は、FOLFOX 6とFOLFIRIをクロスオーバー法で比較したDr. Tournigandらの試験(J Clin Oncol 2004; 22: 229)にあります。この試験における両regimenのOSの差はp=0.99であり、対象患者はわずか240例ほどでしたが、どんなに多くの患者を割り付けても有意差が出る可能性はきわめて低いと考えられたのです。
また、患者の一部が補助化学療法としてFOLFOX療法を実施される点も問題でした。通常、L-OHP投与歴があり神経障害の残存を認めた患者の場合、医師は進行癌のfirst line治療としてFOLFIRIを選択するでしょう。しかし、本試験でこうした患者が再度L-OHP投与armに振り分けられて神経障害のために脱落することになれば、試験の目的を達することができなくなります。加えて、米国ではCPT-11派の医師がいる一方、L-OHP派もいるため、医師の選択に任せようと考えたのです。
そこで本試験は、FOLFOXないしFOLFIRIをベースに、3パターンの生物製剤の選択肢(cetuximab、bevacizumab、2剤の併用)に振り分ける3 armの無作為化試験となりました。最も重要なポイントは、生物製剤が化学療法にもたらすプラス作用はどのようなものであるかということです。今回の新たな試験は、その点を検討するデザインとなっています。
本日はお忙しいところ、色々と貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。
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