坂本(以下太字):今回の「Big Oncologistに聞く」では、米国オーランドで開催されたASCO 2005に合わせ、米国North Carolina大学のGoldberg先生をお迎えしました。先生には、日本の若い医師や臨床腫瘍専門医に向け、いかにして優れた臨床試験を実施するかについて語っていただきます。
Intergroup trial N9741における試験デザインの変遷
まずは先生の手がけられた最も著明な臨床試験である、進行結腸直腸癌を対象としたIntergroup trial N9741(以下N9741)についてお尋ねします。特にN9741の途中で何度かregimenを変更された理由についてお聞かせください。
N9741の歴史はとても複雑です。この「N9741」というタイトルは、本試験のコンセプトを最初に米国National Cancer Institute(NCI)に提出したのが1997年であったことからつけられました。当初この試験はLV/5-FU+CPT-11併用の有効性を検討することを目的とし、L-OHPはまったくregimenに含まれていませんでした。CPT-11(bolusないしinfusion)を用いた3種のregimenと、従来標準治療とされてきたLV/5-FU単独治療の4 armを設定していたのです。
しかし1999年、フランスのAimery de GramontらのグループおよびFrancis Leviらのグループが、LV/5-FU+L-OHP併用投与に大きな期待がもてるとする報告を発表しました。その奏効率(RR)は50%で、これは進行結腸直腸癌では聞いたことのないほど高い数値でした。私は米国の臨床試験にL-OHPを組み入れたいと思い、NCIも同じ考えでした。その時点で、米国における進行結腸直腸癌の試験はN9741だけでしたので、試験デザインに変更を加え、L-OHP投与を組み入れたわけです。
AIO-styleの CPT-11 併用regimenを断念し、3つのL-OHP regimen、すなわちFOLFOX 4などのLV/5-FU+L-OHP regimenを追加した結果、当初4 armであった試験は6 armとなりました。
Regimen変更について、異論はありませんでしたか。
我々はNCIと十分な協力体制を組んでおり、彼らもL-OHPが将来性の高い薬剤であり、米国の臨床試験に速やかに組み入れるのがベストだと強く感じていたようです。 L-OHPはFDAの抗腫瘍剤諮問委員会で検討されたのですが、結局、米国内での承認が却下されていました。そのため、米国でL-OHPを利用するための唯一のアクセスルートは臨床試験だったのです。
なぜL-OHPは米国で承認を得られなかったのですか。
私はちょうどその会議の場にいましたが、理由はLV/5-FU+L-OHPがLV/5-FU単独を有意に上回るOSを示さないことでした。RRやTTPは優れているとされましたが、統計学的検出力が不足していたため、承認するにはデータが十分ではないと判断されたわけです。
その時点でL-OHPの毒性に対する懸念はなかったのですか。
毒性に対する懸念もありました。本剤は米国の腫瘍専門医がまったく使用したことのないものでしたし、誰もが神経毒性を心配していたと思います。
迅速な毒性モニタリングの結果から2 armを中止に
6 armとなった後、我々は「rapid toxicity information program」というプログラムを導入し、grade 4または致死的な毒性が認められた場合には、該当症例につき1頁程度のデータ資料を作成しFAX送信するよう各施設に要請しました。FAXが届くとデータは夜間のうちにデータベースに登録され、翌日にはe-mailで統計担当スタッフと私に連絡が入りました。そのe-mailには、毒性が認められたarmについての累積情報も含まれていました。
こうした迅速なモニタリングシステムの結果、bolus LV/5-FUにCPT-11ないしL-OHPを組み合わせた2 armで、死亡や入院件数が驚くほど高いことが明らかとなりました。そのため6 armのうち、これらの2 armはきわめて早い段階で中止しました。基本的には、LV/5-FUをL-OHPかCPT-11と併用する場合、infusional regimenでLV/5-FUを投与するほうが望ましいというのが我々の結論です。
N9741は当初の4 arm構成から、AIO-styleのCPT-11 regimenを中止し、またL-OHP regimenを3つ加えて6 armとなり、その後bolus LV/5-FUにL-OHPないしCPT-11を併用する2 armを中止したのですね。
実はもう1つのregimenも除外していたため、N9741は最終的に3 armとなりました。
6 arm構成の時点では、[i] IFL(Saltz)、[ii] Mayo regimen+CPT-11併用、[iii] 標準的なMayo regimen、[iv] Mayo regimen+L-OHP併用、[v] FOLFOX 4、[vi] IROX(CPT-11/L-OHP併用LV/5-FU非投与regimen=Wasserman regimen)、となっていました。
このうち、[iii]のMayo regimenについては、2種類(SaltzおよびDouillard)の試験によりLV/5-FU+CPT-11がLV/5-FU単独(Mayo regimen)よりも優位性があることが実証されたため、除外しました。その後、先ほど述べたように毒性に対する懸念のため、2種のLV/5-FU bolus regimen([ii]および[iv])を中止したのです。
その結果、皆さんの目によく触れるのは、対照armとした[i] IFL、実験armとした[v] FOLFOX 4および[vi] IROXの3 armです。この3 armを比較した結果は、「Journal of Clinical Oncology」の2004年1月号(2004; 22: 23)に掲載されています。
米国でも first line治療となったFOLFOX
驚くべきことに、FOLFOX 4は米国でも進行結腸直腸癌の主要なfirst line治療となっています。これは2〜3年前、先生がASCOで発表された本試験の結果が始まりとなりました。
そうです。米国では現在、我々の試験結果に基づき、FOLFOXが転移性結腸直腸癌のfirst line治療として承認を得ています。N9741の結果、FOLFOXのOS中央値は19.5ヵ月、IFLでは15.0ヵ月前後でした。IROXではちょうど中間の17.4ヵ月でした。
FOLFOXには、毒性からみても利点がありました。FOLFOX regimenでは好中球減少が高頻度にみられましたが、通常、合併症を伴うことがなく、発熱を伴う好中球減少には至りませんでした。
これはG-CSF療法により緩和されますね。
その通りです。もちろん、神経障害というやっかいな副作用により治療が制限される可能性もありますが。今年のASCOでは、L-OHPによる神経毒性とある種の酵素に関するpolymorphismとの関連について、研究スタッフのAxel Grotheyが報告する予定です(ASCO 2005 ♯3509)。
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