レジメン講座 | 抗癌剤併用レジメンの投与法を解説します。

S-1単剤

*S-1の用量は体表面積(m2)により調整
<1.25m2=80mg分2; 1.25m2−<1.50m2=100mg分2; ≧1.50m2=120mg分2

Boku N, et al.: Lancet Oncol. 10(11): 1063-1069, 2009
Sasako M, et al.: J Clin Oncol. 29(33): 4387-4393, 2011

S-1単剤レジメンは、S-1を28日間内服後14日間の休止期間を経て、投与を繰り返す。切除不能・進行胃癌の1stラインの標準治療はS-1を含むフッ化ピリミジン製剤と白金製剤の併用療法であるが、白金製剤が投与できない場合や全身状態不良の症例で考慮される、条件付きで推奨される治療法である。また、ACTS-GC試験2)において、手術単独療法と比較してS-1単剤1年間内服による術後補助化学療法が、死亡ならびに再発リスクを低下させたことから、根治切除を行ったStage II/III胃癌に対する術後補助化学療法の標準治療の一つである。

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◆JCOG9912試験1)

切除不能または再発胃癌における、1次治療としての5-FU単剤群(n=234)に対するCPT-11+CDDP群の優越性、および、S-1単剤(n=234)の非劣性を検証した第III相試験である。全生存期間(OS)中央値は5-FU単剤群10.8ヵ月に対し、S-1単剤群は11.4ヵ月であり、非劣性が証明された(HR=0.83、非劣性のp<0.0005)。標的病変を有する症例における奏効割合(ORR)は28%であった。一方で、Grade 3以上の有害事象は食欲不振12%、下痢8%、好中球減少/白血球減少6%/1%であった。

◆ACTS-GC試験2)

胃切除術およびD2以上のリンパ節郭清術後に根治が得られたpStage II/IIIA/IIIB症例における、手術単独群(n=530)に対するS-1単剤1年内服群(n=529)の有効性を検証した第III相試験である。

■有効性

JCOG9912試験1)において、標的病変を有する症例におけるORRは5-FU群の9%に対してS-1群は28%であった。無増悪生存期間(PFS)の中央値は、5-FU群の2.9ヵ月に対してS-1群は4.2ヵ月であり良好な成績であった(HR=0.77、p=0.0027)。OS中央値についても5-FU群の10.8ヵ月に対してS-1群は11.4ヵ月であり、非劣性が示されることとなった(HR=0.83、非劣性のp=0.0005)。
ACTS-GC試験2)において、主要評価項目である5年生存(OS)割合は、手術単独群の61.1%に対してS-1群では71.7%(HR=0.669、95% CI: 0.540-0.828)であり、S-1群では死亡リスクが有意に低下していた。副次評価項目である5年無再発(RFS)生存割合に関しても、手術単独群の53.1%に対してS-1群では65.4%(HR=0.653、95% CI: 0.537-0.793)であり、生存期間と同様に有意な低下が認められた。

JCOG9912試験 5-FU群 S-1群 HR
(95% CI)
P値
ORR 9% 28% - -
PFS 2.9ヵ月 4.2ヵ月 0.77
(0.64-0.93)
0.0027
OS 10.8ヵ月 11.4ヵ月 0.83
(0.68-1.01)
優越性の検定p=0.0336
非劣性の検定p=0.0005
ACTS-GC試験 手術単独群 S-1群 HR(95% CI)
5年OS割合 61.1% 71.7% 0.669
(0.540-0.828)
5年RFS割合 53.1% 65.4% 0.653
(0.537-0.793)

■安全性

JCOG9912試験1)におけるGrade 3以上の有害事象は、S-1群では下痢の頻度が5-FU群に比して高かった(8% vs. 1%未満)。好中球減少の頻度は5-FU群1%に対し、S-1群6%、発熱性好中球減少症はいずれの群でも0%であった。S-1は5-FUの前駆体であるTegafurと、Tegafurの代謝酵素であるDPDの阻害剤であるGimeracilと、5-FUから腸管を保護するOteracil potassiumとの合剤である。腎機能低下により、Gimeracilの代謝が阻害されると、結果として5-FUの血中濃度が高くなるため、腎機能低下例では減量が必要である。高齢者や、経口摂取不良患者においては、状態の変化に特に注意が必要である。
ACTS-GC試験2)におけるGrade 3以上の有害事象は、S-1群において食欲不振6%を認めたが、それ以外はすべて5%未満であり忍容性は比較的良好であった。ただ、12ヵ月内服を完遂した症例は65.8%であり、多くの患者さんで減量、および休薬が必要なことに留意すべきである。

JCOG9912試験1)の結果より、S-1単剤は切除不能または再発胃癌に対して効果が期待でき、内服できる利便性や、有害事象が比較的少ないことから、白金製剤の使用が難しい患者の治療選択肢となる。
ACTS-GC試験2)の結果より、D2以上のリンパ節郭清を伴う胃切除術後に根治が得られたStage II/IIIA/IIIB切除胃癌においては、術後補助化学療法としてS-1単剤は標準治療のひとつと考えられる。なお、Stage III胃癌症例については、JACCRO GC-07試験(START-2試験)4)の結果、S-1に対してDS(S-1+Docetaxel)療法の優越性が証明されたため、状況に応じてDS療法も考慮される。

レジメン解説執筆:国立がん研究センター中央病院 内視鏡科 伊藤 卓彦 先生

References

  • 1) Boku N, et al.: Lancet Oncol. 10(11): 1063-1069, 2009[PubMed
  • 2) Sasako M, et al.: J Clin Oncol. 29(33): 4387-4393, 2011[PubMed][論文紹介
  • 3) Koizumi W, et al.: Lancet Oncol. 9(3): 215-221, 2008[PubMed][論文紹介
  • 4) Yoshida K, et al.: J Clin Oncol. 37(15): 1296-1304, 2019[PubMed
関連リンク
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