11月監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也
大腸癌
切除不能進行・再発大腸癌に対するmFOLFOX6+Bevacizumab vs. FOLFIRI+Bevacizumab(WJOG4407G試験)
Yamazaki K, et al.: Ann Oncol. 27(8): 1539-1546, 2016
切除不能進行・再発大腸癌に対してFOLFIRIとFOLFOXは投与順にかかわらずOSは同程度であることが第III相試験で示されており1)、両レジメンの抗腫瘍効果に差はないと考えられている。抗VEGF-A抗体薬のBevacizumab(Bev)はIFLとの併用でOS改善を認め2)、FOLFIRIとの併用ではさらなるOS改善を認めた3)。FOLFIRI+Bevは複数の臨床試験でPFS中央値10〜12ヵ月程度を示しているが4-6)、第III相試験で1st-lineにおける有効性は確認されていない。加えて、Bev はFOLFOX/CapOxとの併用でPFS改善を認め7)、Oxaliplatin(L-OHP)ベース化学療法+Bevは複数の臨床試験でPFS中央値9〜10ヵ月程度を示している8-10)。FOLFIRI+BevとFOLFOX/CapOx+Bevを直接比較した第III相試験はまだないが、現在、切除不能進行・再発大腸癌の1st-lineでは両レジメンが標準治療の1つとされている11-14)。一方、FOLFIRIとFOLFOXの毒性プロファイルは異なり、消化器毒性や脱毛はFOLFIRIで多く、末梢神経障害はL-OHP投与中止の要因となり長期にわたることがある15)。そこで、切除不能進行・再発大腸癌に対する1st-lineとして、FOLFIRI+BevのmFOLFOX6+Bevに対するPFSにおける非劣性及び長期QOLを検討する第III相試験として、WJOG4407G試験が行われた。
対象は20〜75歳、ECOG PS 0/1、切除不能と確認された進行・再発大腸癌患者で、再発の180日以上前に完遂したL-OHP以外の術後補助化学療法は許容した。
対象患者は、施設、術後補助化学療法歴、肝限局転移により層別化され、FOLFIRI+Bev群(FOLFIRI: Irinotecan 150mg/m2+l-LV 200mg/m2+5-FU bolus 400mg/m2+5-FU ci 2,400mg/m2、Bev: 5mg/kg)とmFOLFOX6+Bev群(Irinotecanの替わりにL-OHP 85mg/m2を用いる以外はFOLFIRI+Bevと同じ)に1:1で無作為化された。
主要評価項目はPFS、副次評価項目はOS、TTF(time to treatment failure)、奏効率、治癒切除を受けた患者の割合、有害事象、QOLである。既報からPFS中央値をFOLFIRI+Bevで11ヵ月、mFOLFOX6+Bevで10ヵ月と仮定し(ハザード比0.9)、ハザード比の非劣性マージンは1.25に設定した。登録期間24ヵ月、追跡期間18ヵ月、片側α=0.025、検出力85%で、必要症例数は各群200例、PFSイベントは323イベントが見込まれた。
2008年9月〜2012年1月の間に、日本の43施設から402例が登録され、FOLFIRI+Bev群202例、mFOLFOX6+Bev群200例に無作為化されたが、FOLFIRI+Bev群5例、mFOLFOX6+Bev群2例は適格規準を満たしていなかったため主要評価項目の解析からは除外された。
2013年7月6日をカットオフとした主要PFS解析(追跡期間中央値:FOLFIRI+Bev群29.3ヵ月、mFOLFOX6+Bev群32.6ヵ月、PFSイベント:312イベント)において、PFS中央値はFOLFIRI+Bev群12.1ヵ月、mFOLFOX6+Bev群10.7ヵ月であり(HR=0.905, 95% CI: 0.723-1.133)、ハザード比の信頼区間の上限は非劣性マージンの1.25を下回った(非劣性p=0.003, 優越性p=0.427)。そして、最終OS解析(追跡期間中央値:FOLFIRI+Bev群51.9ヵ月、mFOLFOX6+Bev群50.8ヵ月)において、OS中央値はFOLFIRI+Bev群31.4ヵ月、mFOLFOX6+Bev群30.1ヵ月であった(HR=0.990, 95% CI: 0.785-1.249, 優越性p=0.730)。また、事前に計画されたPFSのサブグループ解析では、術後補助化学療法の治療歴のみが治療効果と交互作用を認めた。測定可能病変を有する患者の奏効率は、FOLFIRI+Bev群64%、mFOLFOX6+Bev群62%であり(p=0.757)、FOLFIRI+Bev群10%、mFOLFOX6+Bev群9%は切除可能となり治癒切除が行われた(p=0.736)。
FOLFIRI+Bev群とmFOLFOX6+Bev群の治療中止理由は、病勢進行(52%、45%)、有害事象(27%、33%)、切除移行(12%、10%)、患者や担当医の決定(9%、11%)であった。治療サイクル中央値は、FOLFIRI+Bev群15.0サイクル、mFOLFOX6+Bev群12.5サイクル、TTF中央値はそれぞれ8.5ヵ月、7.3ヵ月、Irinotecan(CPT-11)とL-OHP中止までの期間中央値は8.5ヵ月、5.1ヵ月、Bev中止までの期間中央値は7.4ヵ月、6.4ヵ月であった。また、次治療におけるL-OHPとCPT-11のクロスオーバーはFOLFIRI+Bev群63%、mFOLFOX6+Bev群62%、Bev継続治療はそれぞれ51%、55%、抗EGFR抗体薬投与は29%、30%であった。
Grade 3以上の有害事象は、白血球減少、好中球減少はFOLFIRI+Bev群で有意に多く、末梢神経障害はmFOLFOX6+Bev群のみに認められた(22%)。なお、FOLFIRI+Bev群で1例の治療関連死(消化管穿孔)が認められたが、Bevに関連する新しい安全性の問題はみられなかった。
QOL解析では、mFOLFOX6+Bev群のFACT/GOG-Ntx曲線はFOLFIRI+Bev群に対して初回評価(3ヵ月後)から下回り、QOL最終評価(18ヵ月後)まで離れ続けた(p<0.001)。FACT-C(TOI-PFC)では両群に有意差は認めなかったものの(p=0.296)、FOLFIRI+Bev群でやや良好な傾向がみられた。
以上のように、切除不能進行・再発大腸癌に対する1st-lineとして、FOLFIRI+BevはmFOLFOX6+Bevに対してPFSで非劣性を認め、良好なQOLプロファイルを示した。
監訳者コメント:
FOLFIRI+Bev療法とFOLFOX+Bev療法を直接比較した初の第III相試験
FOLFOX+Bev療法は1st-lineのプラットフォームとして多くの臨床試験で採用されているが、本試験立案当時はFOLFIRI+Bev療法を採用した大規模なRCTは少なかったため、FOLFIRI+Bev療法の第III相試験による臨床データが注目されていた。結果として主要評価項目であるPFSの非劣性が示され、OS、奏効率もFOLFIRI+Bev療法で良好な結果であった。また、QOL解析でも一貫して良好な傾向を示した。
2016年1月の消化器癌シンポジウムにて発表されたMAVERICC試験は無作為化第II相試験であるものの、本試験と同じ比較デザインであり全症例数が376例と大規模なものであった。PFS中央値がFOLFIRI+Bev群12.6ヵ月、mFOLFOX6+Bev群10.1か月、HR=0.79(95% CI: 0.61-1.01)と示され、またOSはそれぞれ27.5ヵ月と23.9ヵ月、HR=0.76(95% CI: 0.56-1.04)であり16)、FOLFIRI+Bevにfavorな傾向にあることから、本試験結果を裏付けている。
特筆すべきは本試験のOSは両群ともに30ヵ月を達成したことである。ほぼ同時期に本邦で行われていたSOFT試験(SOX+Bev療法 vs. mFOLFOX6+Bev療法)最終解析におけるMSTも29.6ヵ月 vs. 29.7ヵ月であった17)。いずれもRAS変異の有無を問わないall comerの試験結果であることから、本邦の大腸癌治療は欧米と遜色ないものであることが改めて示されたことになる。現在WJOGにおいて様々な付随研究が行われており、その結果が期待される。
最後に、editorialでDr. Sobreroが「A tribute to biologics in advenced colorectal cancer treatment」と題して本試験を絶賛されていたことは18)、日本人研究者として大変誇らしく思う。
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監訳・コメント:埼玉県立がんセンター 消化器内科 科長兼副部長 原 浩樹
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