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1月
監修:静岡県立静岡がんセンター 大腸外科 部長 絹笠 祐介

大腸癌

局所進行直腸癌に対するmFOLFOX6±放射線療法 vs. 5-FU/LV+放射線療法(FOWARC試験)


Deng Y, et al.: J Clin Oncol. 34(27): 3300-3307, 2016

 欧米ではstage II/III直腸癌患者の標準治療として、フッ化ピリミジン系製剤による術前化学放射線療法+全直腸間膜切除術(TME)+フッ化ピリミジン系製剤ベースの術後補助化学療法が推奨されており1-3)、局所再発率5〜10%が達成されている。しかし、10年追跡においても手術単独4)または術後放射線療法5)と比較してDFS(disease-free survival)およびOSの改善は認めておらず、約30%で遠隔転移を認め、3年DFS割合は70%に低下しており、より有効な治療法が必要である。

 Stage III結腸癌患者では5-FUとOxaliplatin(L-OHP)併用によりOS改善が認められており、stage II/III直腸癌患者でも術後補助化学療法として推奨されている。しかし、術前療法におけるデータは確定的ではなく、術前療法においてL-OHPを併用していた試験のうち6-11)、OSベネフィットを認めたのはCAO/ARO/AIO-04試験9,10)のみであった。

 TME施行において、放射線療法のOSベネフィットの結論は示されておらず、安全性に対する懸念がある12-15)。術前化学療法は有望な結果を示しているものの、そのデータは小規模試験に限られている16-19)

 そこで、局所進行直腸癌患者に対して、5-FUによる術前化学放射線療法+TME+5-FUによる術後補助化学療法と、周術期mFOLFOX6±放射線療法の有効性と安全性を比較した多施設共同オープンラベル無作為化第III相試験(FOWARC試験)が行われた。

 対象は18〜75歳、ECOG PS 0/1で、治癒的切除可能と考えられたstage II(T3-4N0)/III(T1-4N1-2)直腸癌患者であった。

 対象患者は、術前化学放射線療法(LV5FU2: 5サイクル、放射線療法: 46-50.4Gy)+TME+術後補助化学療法(LV5FU2: 7サイクル)を行う群(5-FU-RT群)、術前化学放射線療法(mFOLFOX6: 5サイクル、放射線療法: 46-50.4Gy)+TME+術後補助化学療法(mFOLFOX6: 7サイクル)を行う群(mFOLFOX6-RT群)、術前化学療法(mFOLFOX6: 4-6サイクル)+TME+術後補助化学療法(mFOLFOX6: 6-8サイクル)を行う群(mFOLFOX6群)に1:1:1で無作為化された。

 主要評価項目は 3年DFSであり、副次評価項目は、奏効率、pCR、R0切除率、肛門温存手術を受けた患者の割合、局所再発、OS、RFS(relapse-free survival)、QOL、安全性である。3年DFSにおいて、5-FU-RT群60%からmFOLFOX6-RT群、mFOLFOX6群のいずれも75%に改善すると仮定し、両側α=2.5%、検出力81%で、必要症例数は各群165例であった。本報告は、主にpCRと毒性について評価した初回結果である。

 2010年6月9日〜2015年2月15日の間に中国の15施設から495例が登録され、12例が同意撤回したため、適格症例は、5-FU-RT群158例、mFOLFOX6-RT群162例、mFOLFOX6群163例であった。患者背景は3群間で同様であった。

 術前療法と手術を受けた患者数は、5-FU-RT群がそれぞれ158例中155例、141例、mFOLFOX6-RT群が162例中158例、149例、mFOLFOX6群が163例中163例、152例であった。また、術前化学放射線療法完遂からTMEまでの期間中央値は、5-FU-RT群53日、mFOLFOX6-RT群52日であった。手術を受けた患者のうち肛門温存手術を受けた患者の割合は、5-FU-RT群84.4%、mFOLFOX6-RT群87.2%、mFOLFOX6群89.5%と同程度であった。なお、5-FU-RT群で1例の術後60日以内死亡を認め、縫合不全および局所感染を有する症例は放射線療法を受けた症例でより多かった。

 pCR率は、5-FU-RT群14.0%、mFOLFOX6-RT群27.5%、mFOLFOX6群6.6%であり、mFOLFOX6-RT群は5-FU-RT群と比べて有意に高率であった(OR=0.428, 95% CI: 0.237-0.776, p=0.005)。さらに、mFOLFOX6-RT群ではypStage 0/I率、腫瘍縮小grade(TRG) 0/1率がより高率であった。リンパ節陰性は5-FU-RT群80.1%、mFOLFOX6-RT群87.4%、mFOLFOX6群73.5%であり、mFOLFOX6-RT群では陽性リンパ節数平均値は少なかった。なお、AV 5cm以内の下部直腸癌のサブグループにおいても同様の傾向が認められた。

 術後補助化学療法を受けなかった患者は、5-FU-RT群25例(17.7%)、mFOLFOX6-RT群15例(10.1%)、mFOLFOX6群9例(5.9%)と少数であり、4サイクル以上の術後補助化学療法を受けた患者は、それぞれ93例(65.9%)、109例(73.1%)、116例(76.3%)であった。

 主なgrade 3/4の毒性は、白血球減少、放射線皮膚炎、放射線直腸炎であり、これらはmFOLFOX6-RT群で最も多かった。mFOLFOX6-RT群ではgrade 3/4の血液毒性が多く、白血球減少は5-FU-RT群12.9%、mFOLFOX6-RT群19.0%、mFOLFOX6群5.7%、好中球減少はそれぞれ9.3%、16.6%、9.0%であった。また、mFOLFOX6-RT群ではgrade 3/4の消化器毒性も高かった。一方、有害事象は治療コンプライアンスに影響を与えず、術前化学療法において全用量の90%超を投与された患者の割合は、5-FU-RT群88.4%、mFOLFOX6-RT群94.9%、mFOLFOX6群94.5%であり、放射線療法において全線量の90%超を照射された患者の割合は、5-FU-RT群86.4%、mFOLFOX6-RT群90.5%であった。

 以上のように、stage II/III直腸癌患者に対する術前化学放射線療法として、5-FUと比較してmFOLFOX6はpCR率が高く、高い奏効率、良好なコンプライアンスを認め、毒性は許容可能であった。一方、mFOLFOX6単独の周術期治療は、5-FUによる術前化学放射線療法よりもpCR率は低かったが、放射線療法を望まない患者に治療選択肢を与えると考えられる。なお、主要評価項目であるDFSは2017年に報告される予定である。



監訳者コメント:
Stage II/III 直腸癌に対するmFOLFOX6±放射線療法 vs. 5-FU/LV+放射線療法

 局所進行直腸癌における治療においては、長期予後の改善、局所制御、機能温存・QOLの向上、合併症の減少といった向上すべき課題がある。化学放射線療法は局所制御の有効性は示されているものの、生存率の改善は示されておらず、また肛門機能、性機能、腸管障害といった晩期障害が懸念されている。FOWARC試験は欧米で標準治療とされている化学放射線療法+TMEにおいて、5-FU-RT群 vs. mFOLFOX6-RT群でL-OHPの上乗せ効果の評価と、mFOLFOX6-RT群 vs. mFOLFOX6群で術前化学療法(NAC)におけるRTの上乗せ効果を検討することができるため興味深い。

 本論文では、FOWARC試験の周術期短期成績、奏効率・pCR率、化学放射線療法の毒性について報告された。化学放射線療法においてmFOLFOX6-RT群はpCR 27.5%と高い奏効率を示し、毒性も許容範囲であった。しかしその一方で、R0切除率は、5-FU-RT群90.7%、mFOLFOX6-RT群89.9%、mFOLFOX6群89.4%、肛門温存率は、5-FU-RT群84.4%、mFOLFOX6-RT群87.2%、mFOLFOX6群89.5%と同程度であり、L-OHP、RTがR0切除、肛門温存に寄与しない可能性がある。さらに、縫合不全は5-FU-RT群19.8%、mFOLFOX6-RT群18.1%、mFOLFOX6群7.9%であり、RT施行群で縫合不全の発生率が約10%高いことに留意すべきである。

 2017年には、主要評価項目であるDFSの結果が報告される。mFOLFOX6-RTによる高いpCR率が、生存率の改善、局所制御にどの程度関与するのか結果が期待される。本研究の結果により化学放射線療法に対するNACの位置づけが明瞭になる可能性がある。副次評価項目としてQOLも評価されており、RT、L-OHP併用によるQOLへの影響も注目される。

 本邦における下部進行直腸癌に対する標準治療はTME+側方リンパ節郭清(LLND)である。現在、直腸癌に対するNACについて「側方リンパ節転移が疑われる下部直腸癌に対する術前化学療法の意義に関するランダム化比較第II/III相試験(JCOG 1310)」が症例集積中であり、側方リンパ節郭清に加えたNACの有用性の結果が期待される。

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監訳・コメント:静岡県立静岡がんセンター 大腸外科 副医長 賀川 弘康

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