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2009年1月〜2015年12月の論文紹介
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2月
監修:静岡県立静岡がんセンター 大腸外科 部長 絹笠 祐介

大腸癌

切除後stage II/III結腸癌におけるTOP1遺伝子コピー数とmRNA発現量


Nygård SB, et al.: Clin Cancer Res. 22(7): 1621-1631, 2016

 高リスクstage IIまたはstage III結腸癌患者に対する術後補助化学療法は生存ベネフィットを示しているが、薬剤の有効性および有害事象は患者により大きく変動するため、効果予測因子となるバイオマーカーを同定することが重要である。結腸癌の術後補助化学療法においてIrinotecan(CPT-11)は5-FU/LVへの上乗せ効果を認めていないが1-4)、CPT-11上乗せによりベネフィットを享受する患者集団の存在が示唆されている。

 CPT-11はDNA topoisomerase 1(TOP1)を細胞毒素に変換することで効果を示す細胞傷害性アルカロイド・カンプトテシンの半合成誘導体である5,6)。TOP1タンパクの高発現によりCPT-11の細胞傷害活性は亢進し、TOP1タンパク発現量はCPT-11の効果予測バイオマーカーとなる可能性が示されてきた7-11)。ただ、切除不能進行・再発大腸癌に対する化学療法、結腸癌における術後補助化学療法ともにTOP1タンパク発現量の臨床的有用性は結論を得られていない12,13)。これは1つには、免疫組織化学(IHC)に用いられた抗TOP1抗体の解析限界に起因していると考えられており、IHCでの再現性に欠けることが報告されている14)。一方、TOP1遺伝子コピー数とTOP1 mRNA発現量は、CPT-11の効果予測バイオマーカーとしてTOP1タンパク発現量の代替になりうると考えられている15-17)。著者らは、FISH法においてTOP1/CEN20デュアルプローブを用いた解析により、切除不能進行・再発大腸癌においてTOP1遺伝子の増加によりCPT-11単剤療法への反応が増加する傾向が認められたと報告している18)。そこで、5-FU/LVに対するCPT-11の上乗せ効果を検討したPETACC3試験3)のprospective-retrospective試験19)として、FISH法により評価されたTOP1遺伝子コピー数およびmRNA発現状況と、CPT-11の上乗せ効果との関連性について検討された。

 対象は、PETACC3試験に登録された治癒切除後のstage II/III結腸癌患者であり、PETACC3試験では1,564例のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)が前向きに取得されたが20,21)、そのうち675例の検体が解析された20,22)。本解析では、TOP1 FISH stage II/III、TOP1 FISH stage III、TOP1 mRNA expression stage IIIの3つの集団で解析が行われ、すべての集団はTOP1 statusと治療により層別化された。なお、TOP1増加は、細胞あたりのTOP1遺伝子コピー数平均値4.0以上、またはTOP1/CEN20比1.5以上と定義され、TOP1 mRNA発現量は第3四分位数が高値/正常値のカットオフ値として用いられた20,23)

 FISH法後に蛍光シグナル弱度などにより110例(16.3%)が、組織マイクロアレイ識別番号と臨床データベースとの不一致により31例(4.6%)が除外され、TOP1 FISH stage II/III集団は534例、TOP1 FISH stage III集団は368例であり、TOP1 mRNA expression stage III集団は580例であった。いずれの集団でも元々の治療の無作為化は維持されており、患者特性もPETACC3試験を反映しているものであった。PETACC3試験同様、いずれの集団においてもCPT-11の上乗せ効果は認められなかった。TOP1遺伝子コピー数平均値は1.4〜11.6(中央値2.6)であり、TOP1/CEN20比は0.8〜3.9(中央値1.3)であった。TOP1 FISH stage II/III集団では、TOP1遺伝子コピー数4以上を142例(27%)、TOP1/CEN20比1.5以上を167例(31%)で認め、TOP1 FISH stage III集団では、それぞれ95例(26%)、120例(33%)であった。なお、TOP1/CEN20比とTOP1 mRNA発現量(r=0.25)、TOP1遺伝子コピー数とTOP1 mRNA発現量(r=0.25)との間に相関は認められなかった。

 治療により層別化されてない単変量解析では、TOP1/CEN20比の増加は、TOP1 FISH stage II/III集団(HR=0.74, p=0.01)、TOP1 FISH stage III集団(HR=0.74, p=0.02)ともにOS延長と有意に関連していたが、RFSでは有意差を認めず、TOP1/CEN20比1.5をカットオフ値として2分した解析ではOSでも有意差は認められなかった。TOP1遺伝子コピー数は、RFSおよびOSのいずれとも有意な関連を認めなかった。また、TOP1 FISH statusのCPT-11の治療効果予測因子としての特性を検討するために、TOP1増加、もしくは正常のサブグループそれぞれにおけるCPT-11の治療効果の検討を行ったところ、5年RFS、5年OSともに、いずれのサブグループにおいても有意差を認めなかった。

 一方、単変量解析においてTOP1 mRNA発現量の増加はOS延長と有意な関連を認め(HR=0.74, p=0.007)、有意差はないもののRFS延長と関連する傾向がみられた(HR=0.85, p=0.10)。また、カットオフ値として第3四分位数を用いて解析したところOS延長との有意差は消失したが(p=0.38)、RFS延長、OS延長のいずれとも関連する傾向がみられた。TOP1 mRNA発現量別のサブグループ解析では、TOP1 mRNA高発現例はRFS、OSで5-FU/LVに対するCPT-11の上乗せ効果を認め、OSでは有意差を認めた(p=0.049)。

 多変量解析では、TOP1 mRNA高発現例におけるOSのCPT-11上乗せ効果は、腫瘍局在とKRAS statusで調整された場合にも維持され、ハザード比はRFSで0.59(p=0.09)、OSで0.44(p=0.03)であった。

 カットオフ値で二分したTOP1 mRNA発現量とCPT-11治療との間の交互作用は有意ではなかったが、MFPI解析ではTOP1 mRNA発現量が増加するにつれ、CPT-11の治療効果が増す傾向が認められた。

 以上のように、FISH法によるTOP1 statusはstage II/III結腸癌の術後補助化学療法におけるCPT-11の効果予測因子とはならなかった。一方でTOP1 mRNA発現量が効果予測バイオマーカーとなる可能性が示唆されており、さらなる研究が必要であると考えられる。



監訳者コメント:
CPT-11効果予測バイオマーカーとしてのTOP1遺伝子コピー数とmRNA発現量

 CPT-11はTOP1を阻害することで細胞増殖を抑制するため、癌組織でのTOP1タンパク発現量はCPT-11の効果予測バイオマーカーとなりうると考えられている。本研究ではTOP1タンパク発現量の代替として、TOP1遺伝子コピー数およびmRNA発現量のCPT-11効果予測バイオマーカーとしての有用性が検討された。サンプルは、stage II/III結腸癌術後補助化学療法において、5-FU/LVに対するCPT-11の上乗せ効果を検討したPETACC3試験より抽出されている。

 結果、TOP1 mRNA高発現集団においてのみRFS、OSで5-FU/LVに対するCPT-11の上乗せ効果が認められ、TOP1 mRNA発現量がCPT-11効果予測バイオマーカーとして有用である可能性が示された。これは、結腸癌術後補助化学療法における薬剤選択肢の拡大、個別化医療の推進につながる結果と考えられる。

 一方、本研究は術後補助化学療法についての検討であるものの、TOP1 mRNA高発現集団でのCPT-11上乗せ効果は、RFSでは傾向のみであり、OSのみで統計学的に有意であった。他の検討でも、TOP1 mRNA発現量のバイオマーカーとしての有用性は統計学的には有意ではなく、注意する必要がある。また、TOP1 mRNA高発現集団における他の治療との比較や、TOP1 mRNA発現量が実際のタンパク発現量とどの程度相関しているかということなど、さらなる検討が望まれる点もある。

 今後、実臨床に応用するためには、他の前向き試験での再現性の確認が必要である。

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監訳・コメント:静岡県立静岡がんセンター 大腸外科 日野 仁嗣

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