8月

監修：静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長　山�ｱ 健太郎

　胃癌治療ガイドラインの第5版では進行胃・食道胃接合部癌の2次治療としてPaclitaxel＋Ramucirumabが推奨されており、それが選択困難なときはRamucirumab、Docetaxel、Paclitaxel、Irinotecan、nab-Paclitaxelの単剤療法、もしくはnab-Paclitaxel＋Ramucirumab療法を考慮する。近年、免疫チェックポイント阻害剤による胃癌の治療法が急速に発展してきている。Pembrolizumabはprogrammed-cell death 1（PD-1）に結合する選択的ヒト型高親和性IgG4-κモノクローナル抗体であり、PD-1 ligand 1（PD-L1）、PD-1 ligand 2（PD-L2）との結合を阻害することにより、腫瘍特異的な細胞傷害性T細胞を活性化させ、腫瘍増殖を抑制すると考えられている。

　KEYNOTE-059試験は進行胃・食道胃接合部癌に対するPembrolizumab単剤もしくはフッ化ピリミジン＋Cisplatinとの併用療法の第II相試験であるが、そのうち、3次治療以降を対象としたコホート1においては全患者の奏効割合が11.6%で、PD-L1 combined positive score（CPS）が1以上の患者においては15.5%であった¹⁾。この結果よりFDAは、フッ化ピリミジン製剤・プラチナ製剤不応不耐となったPD-L1陽性（CPS≧1）の進行胃癌・食道胃接合部癌の3次治療以降に対しPembrolizumabの使用を承認した。KEYNOTE-061試験は進行胃・食道胃接合部癌の2次治療におけるPembrolizumabの有効性・安全性についてPaclitaxelとの比較検証を行った試験である。

　本試験は、無作為化非盲検化第III相試験で30ヵ国、148施設で実施された。対象は18歳以上、組織学的に腺癌と診断された進行胃あるいは食道胃接合部癌、1次化学療法にフッ化ピリミジン製剤、プラチナ製剤、Trastuzumab（HER2陽性のみ）の治療歴を有し、測定可能病変を有する、ECOG PS 0または1、PD-L1発現の評価を行うため組織検体の提出が可能な患者とした。当初PD-L１発現の有無にかかわらず登録可能であったが、489症例登録後よりPD-L1発現（CPS≧1）症例に登録を制限した。扁平上皮癌や組織学的診断困難症例、前治療でPD-1、PD-L1、PD-L2阻害剤使用歴を有する症例、活動性自己免疫疾患を有する症例は除外された。

　患者はPembrolizumab群（200 mg/bodyをday1に3週毎）またはPaclitaxel群（80 mg/m²をday1,8,15に4週毎）に1：1の比で無作為に割り付けられた。最初の125例は地域、ECOG PSによって層別されたが、プロトコール改訂以降の467症例においては1次治療の継続期間（6ヵ月以上or未満）、PD-L1 CPS（1未満or 1以上）が層別因子として新たに加えられた。

　治療中止基準は画像による病勢進行の確認、許容できない有害事象、主治医判断、同意撤回時とし、Pembrolizumabは最大35サイクル（約2年間）まで継続可能とした。全身状態が安定していれば、初回の病勢増悪時には4週間後に画像効果判定を行う前提で試験治療を継続可能とした。完全奏効している症例は、24週以上治療継続しており、完全奏効後2サイクル以上の投与を行っている場合は治療中止を許可した。Paclitaxel群は後治療としてのPembrolizumabの投与は許容されなかった。画像効果判定は6週毎に実施、有害事象は治療中ならびに最終投与から30日間観察し、重篤な有害事象、Pembrolizumabの有害事象においては最終投与から90日間観察した。

　主要評価項目はPD-L1 CPS≧1の症例における全生存期間（OS）と無増悪生存期間（PFS）、副次評価項目は奏効割合（RR）、奏効期間、全症例のOS、PFSであった。

　最終解析はPD-L1 CPS≧1における290症例目の死亡イベント発生時または最終登録より15ヵ月以上経過後に実施する予定とした（最終的には後者のタイミングで解析された）。Paclitaxel群の生存期間中央値（MST）を7.5ヵ月（RAINBOW試験の結果より²⁾）と推定し、登録期間14ヵ月で脱落率が年間2%とした場合、OSの片側有意水準0.0215、検出力91%でハザード比（HR）0.67を示すためには、CPS≧1の症例が360例必要と計算された。中間解析を経てαが消費されたため、最終的にはOSの有意水準は片側p＝0.0135となった。

　2015年6月4日から2016年7月26日までに983名の患者がスクリーニングされ、593名が適格基準を満たし592名がPembrolizumab群（n＝296）とPaclitaxel群（n＝296）に無作為化割り付けされた。Pembrolizumab群294名、Paclitaxel群276名が少なくとも1回以上試験治療を実施された。395名がPD-L1 CPS≧1（196名Pembrolizumab群、199名Paclitaxel群）であった。

　データカットオフ時の追跡期間中央値は全症例で7.9ヵ月、PD-L1 CPS≧1群で8.5ヵ月であり、カットオフ時点でPaclitaxel継続中の症例は認めず、Pembrolizumab群の5%（n＝15、13例はPD-L1 CPS≧1）は治療継続中であった。加えてPembrolizumab群の8例（3%）は試験治療を完遂し、そのうち7例はPD-L1 CPS≧1であった。

　患者背景に偏りはなく、両群ともに男性、胃癌、HER2陰性が多く、1次治療の期間は6ヵ月未満が多い傾向にあった。

　データカットオフ時、326症例のPD-L1 CPS≧1の患者において死亡イベントが発生していた。そのうちPembrolizumab群は151例（77%）、Paclitaxel群は175例（88%）であった。

　PD-L1 CPS≧1症例においてPembrolizumab群のMSTは9.1ヵ月（95% CI: 6.2-10.7）に対しPaclitaxel群8.3ヵ月（95% CI: 7.6-9.0）、HR＝0.82（95% CI: 0.66-1.03）、p＝0.0421であり有意差は示されなかった。12ヵ月後の生存割合はPembrolizumab群で40%（95% CI: 33-47）、Paclitaxel群で27%（95% CI: 21-33）、18ヵ月生存割合はPembrolizumab群で26%（95% CI: 20-32）、Paclitaxel群で15%（95% CI: 10-20）であった。PD-L1 CPS≧1群においてもPembrolizumabとPaclitaxelの治療効果は概ね同等であり、ほぼすべてのサブグループにおいて同様の傾向がみられた。ECOG PS 0と食道-胃接合部原発のサブグループにおいてのみPembrolizumabのほうが良い傾向がみられた。PS 0のMSTはPembrolizumab群で12.3ヵ月（95% CI: 9.7-15.9）、Paclitaxel群で9.3ヵ月（95% CI: 8.3-10.5）、HR＝0.69（95% CI: 0.49-0.97）であり、一方でPS 1症例におけるMSTはPembrolizumab群で5.4ヵ月（95% CI: 3.7-7.7）、Paclitaxel群で7.5ヵ月（95% CI: 5.3-8.4）、HR＝0.98（95% CI: 0.73-1.32）であった。またpost-hoc解析ではあるが、PD-L1 CPS≧10サブグループにおいてはMSTがPembrolizumab群10.4ヵ月（95% CI: 5.9-17.3）、Paclitaxel群8.0ヵ月（95% CI: 5.1-9.9）、HR＝0.64（95% CI: 0.41-1.02）とPembrolizumabの治療効果が高い傾向が認められた。同じくpost-hoc解析ではあるものの、マイクロサテライト不安定性のサブグループにおいてはCPSの値にかかわらずPembrolizumab群の治療効果が高かった（HR＝0.42、95% CI: 0.13-1.31）。PD-L1 CPS＜1の症例ではMSTがPembrolizumab群4.8ヵ月、Paclitaxel群 8.2ヵ月であり、HR＝1.2（95% CI: 0.89-1.63）であった。

　PD-L1 CPS≧1症例においてPFS中央値はPembrolizumab群1.5ヵ月（95% CI: 1.4-2.0）、Paclitaxel群4.1ヵ月（95% CI: 3.1-4.2）、HR＝1.27（95% CI: 1.03-1.57）であった。12ヵ月後における無増悪生存割合はPembrolizumab群14%（95% CI: 9-19）、Paclitaxel群9%（95% CI: 5-14）であった。なお、PD-L1 CPS＜1のサブグループにおけるPFSのHRは2.05（95% CI: 1.50-2.79）であった。

　PD-L1 CPS≧1症例における両群のRRはPembrolizumab群16%（うち完全奏効4%）とPaclitaxel群14%（完全奏効3%）であった。奏効期間中央値はPembrolizumab群18.0ヵ月でPaclitaxel群5.2ヵ月であった。またPD-L1 statusにかかわらず、マイクロサテライト不安定性が高い症例においては奏効割合が良好な傾向が示された（Pembrolizumab群47%、Paclitaxel群17%）。

　全gradeの有害事象はPembrolizumab群で155例（53%）、Paclitaxel群で232例（84%）に認め、grade 3-5の有害事象はPembrolizumab群42例（14%）、Paclitaxel群96例（35%）、毒性による治療中止はPembrolizumab群で9例（3%）、Paclitaxel群で15例（5%）みられた。Grade 3-5の有害事象においてはPembrolizumab群では貧血（7例、2%）、倦怠感（7例、2%）が認められ、Paclitaxel群では好中球数減少（28例、10%）、好中球減少症（20例、7%）が認められた。免疫関連有害事象はPembrolizumab群で54例（18%）、Paclitaxel群で21例（8%）みられた。そのうちgrade 3-5の有害事象はPembrolizumab群における肝炎（4例、1%）、下垂体炎（2例、1%未満）、肺臓炎（2例、1%未満）などであった。

　以上より、PD-L1陽性（CPS≧1）の1次治療後の進行胃・食道胃接合部癌を対象としたPembrolizumab単剤療法はPaclitaxelに対して有意なPFS、OS延長を示すことができないという結果であった。

日本語要約原稿作成：大阪国際がんセンター 腫瘍内科　長谷川 晶子

　KEYNOTE-061試験は胃癌/食道胃接合部癌のセカンドライン治療として抗PD-1抗体の有効性を検証した世界で初めての試験である。本邦も本試験に参加しており、論文の筆頭著者をわが国の研究者が務めることができたなど、大変喜ばしい成果といえよう。しかし一方で、Paclitaxelに対するPembrolizumabのPFSおよびOSの優越性は残念ながら証明されなかった。OSのp＝0.0421という値は、一見、positive試験のようにみえるが、有意水準の片側2.5%を二つの主要評価項目で分け合っていること、そして中間解析を経たことなどにより、最終的にp＝0.0135未満を統計学的有意とみなす計算になったため、上記のp値ではnegativeという結論になる。

　仮に、本試験がpositiveな結果だったとしても、生存曲線が途中で交差するという問題は依然として残り、それはすなわち、Pembrolizumabに対して効果のある患者集団と全く効果のない患者集団が混在しているという本薬剤特有の問題を表している。抗PD-1抗体のPFS曲線は治療初期の段階で急激に下降し（＝半分近く、全く効果のない症例が存在する）、後半では曲線が平坦に近くなる（＝奏効が長期に維持される患者群が存在する）という特徴を現時点ではもつが、後半に認められるメリットを十分生かすためにも治療効果予測因子の同定を推し進めることが最も重要となる。

　2018年7月にはサードラインを対象とする抗PD-L1抗体Avelumabの第III相試験も報告された³⁾が、こちらも残念ながらnegativeな結果であった。しかし、PD-L1 positivityだけでは治療効果を予測できないとはいえ、PD-L1を含むバイオマーカーの深化により、免疫チェックポイント阻害剤が癌薬物療法の大きな柱の一つとしてさらなる発展を遂げる可能性については多くの方が感じているところであろう。現在、殺細胞性抗癌剤と抗PD-1抗体の互いの弱点を補完するように併用療法の臨床試験も多数行われており、今後の胃癌治療の進展から目が離せない状況である。

•  1) Fuchs CS, et al.: JAMA Oncol. 4(5): e180013, 2018 [PubMed]
•  2) Wilke H, et al.: Lancet Oncol. 15(11): 1224-1235, 2014 [PubMed]
•  3) Bang YJ, et al.: Ann Oncol. July 24, 2018 [Epub ahead of print]

監訳・コメント：大阪国際がんセンター 腫瘍内科　工藤 敏啓