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12月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 准教授 砂川 優

食道癌

ATTRACTION-3試験:前治療に不応または不耐となった進行食道扁平上皮癌患者に対する2次化学療法としてのNivolumabと化学療法の無作為化比較第III相試験


Kato K, et al.: Lancet Oncol. 20(11): 1506-1517, 2019

 切除不能進行・再発食道癌に対する2次化学療法の標準治療として確立したものはないが、現状ではリスク、ベネフィットを考慮した上でDocetaxelまたはPaclitaxelを使用するのが一般的である1,2)。しかし、これらの薬剤は血液毒性、消化器毒性、神経毒性が強い割にあまり効果が期待できない。このため新たな治療の選択肢が望まれており、抗PD-1抗体薬の効果が期待されている。最近まで進行食道癌に対して分子標的薬は承認されていなかったが、2019年に入りFDAがPD-L1陽性で(combined positive score 10以上)、前治療として1レジメン以上の化学療法が行われている症例に対してPembrolizumabを承認した3)。一般に食道癌ではPD-L1の発現が高く、既存の報告では腫瘍細胞における発現は15〜83%、免疫細胞における発現は13〜31%と報告されている4-7)。このため当然Nivolumabの効果も期待でき、Fluoropyrimidine、Platinum、Taxaneに耐性となった進行食道癌を対象とした第II相試験(ATTRACTION-1試験)でその効果と安全性が示されている8)。以上より本試験(ATTRACTION-3試験)では、FluoropyrimidineとPlatinumを含む1次化学療法に耐性となった切除不能・進行再発食道癌を対象とし、Nivolumabと通常の化学療法(Taxane)を比較した。

 本試験は、多施設共同非盲検無作為化比較第III相試験として、デンマーク、ドイツ、イタリア、日本、韓国、台湾、英国、米国で行われた。主な適格基準は、20歳以上の切除不能食道癌、腫瘍占拠部位が頸部または胸部食道(食道胃接合部も含む)、病理診断が扁平上皮癌または腺扁平上皮癌、前治療が1レジメンでFluoropyrimidineとPlatinumに不応または不耐となった症例、RECIST ver 1.1に準じた測定可能病変または測定不能病変が1つ以上ある、ECOG performance status(PS)が0または1、PD-L1の免疫染色のための腫瘍検体が提供できる、などとされた。不応の定義は、前治療の化学(放射線)療法中または化学療法の最終投与から8週以内の増悪または再発、前治療の化学療法で完全奏効となった症例および、術前または術後補助化学療法とともに手術を行った症例においては化学療法の最終投与から24週以内の再発と規定された。また、食道に隣接する他臓器への直接浸潤を認める症例、脳転移を有する症例、間質性肺炎や自己免疫性疾患を併存する症例、登録前28日以内にステロイドや免疫抑制剤の投与を行っていた症例、Taxane系薬剤に不応と判断された症例(使用中または6ヵ月以内の増悪)は除外された。

 登録患者はNivolumab群と化学療法群(PaclitaxelまたはDocetaxel)に1対1に割り付けられた。層別化因子は地域(日本vs. 日本以外)、転移臓器数(1以下vs. 2以上)、PD-L1発現(<1% vs. ≧1%)であった。治療スケジュールは、Nivolumab群ではNivolumab 240mg/bodyを2週毎に投与(6週を1サイクル)し、化学療法群ではPaclitaxel 100mg/m2を6週投与1週休薬(7週を1サイクル)またはDocetaxel 75mg/m2を3週毎に投与(3週を1サイクル)した。

 主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は担当医評価による奏効割合、最良治療効果、無増悪生存期間(PFS)、病勢コントロール割合、標的病変の最大縮小割合、奏効までの期間、奏効期間、安全性であった。また、QOLに関してもEQ-5D-3Lを用いて探索的に検討した。

 化学療法に対するNivolumabの期待されるOSのハザード比を0.70と想定し、α=5%、1-β(検出力)90%でNivolumabの優越性を示すために必要な死亡イベント数は331と算出された。登録期間を16ヵ月、最終登録後の観察期間を18ヵ月と想定すると、必要症例数は390例であった。OSとPFSはITT解析、安全性は1回以上の治療を受けた症例を対象として解析が行われた。また、その他の評価項目に関しては、標的病変を有する症例のみを対象として解析が行われた。

 2016年1月7日から2017年5月25日までに590例のスクリーニングが行われ、このうち419例が登録された。無作為化の結果、Nivolumab群に210例、化学療法群に209例が割り付けられ(ITT集団)、このうち417例が1回以上の治療を受けた。データカットオフは2018年11月12日で、観察期間の中央値はNivolumab群が10.5ヵ月、化学療法群が8.0ヵ月であった。両群の患者背景に差は認めなかった。

 主要評価項目である生存期間中央値(MST)はNivolumab群で10.9ヵ月(95% CI: 9.2-13.3)、化学療法群で8.4ヵ月(95% CI: 7.2-9.9)であり、Nivolumab群で有意に延長した(HR=0.77、95% CI: 0.62-0.96、p=0.019)。2群の生存曲線が交差しているため、後解析でweighted log-rank testを用いて検定を行ったが、同じく有意差を認めた(p=0.0019)。奏効割合はNivolumab群で19%、化学療法群で22%と両群間で同等であったが、奏効期間はNivolumab群で6.9ヵ月、化学療法群で3.9ヵ月とNivolumab群のほうが長い結果であった。また、PFSはNivolumab群で1.7ヵ月(95% CI: 1.5-2.7)、化学療法群で3.4ヵ月(95% CI: 3.0-4.2)と両群間で有意差を認めなかったが(HR=1.08、95% CI: 0.87-1.34)、6ヵ月、12ヵ月時点での無増悪生存割合はNivolumab群でそれぞれ24%、12%、化学療法群で17%、7%とNivolumab群で良好な結果であった。治療期間の中央値は両群ともに2.6ヵ月であり、相対用量強度はNivolumab群で100%、化学療法群で81%であった。

 頻度が高かった治療関連有害事象は、Nivolumab群では発疹、下痢、食思不振、化学療法群では脱毛、好中球減少、白血球減少であった。重篤な有害事象(SAE)は、Nivolumab群で16%、化学療法群で23%に認め、頻度が高かったものは、Nivolumab群では発熱と間質性肺疾患、化学療法群では発熱性好中球減少症と食思不振であった。治療関連死は両群合わせて5例に認め、Nivolumab群で2例(間質性肺疾患、肺臓炎)、化学療法群で3例(肺炎、脊髄膿瘍、間質性肺疾患)であった。

 事前に設定したリスク因子毎のサブグループ解析では、いずれの因子においてもNivolumab群のほうが化学療法群と比べて良好な結果であった。PD-L1発現の程度による治療効果への影響に関しては、Nivolumab群のPD-L1発現1%未満、1%以上におけるMSTはいずれも10.9ヵ月であった。Nivolumab群の化学療法群に対するHRは、PD-L1発現1%未満で0.84、PD-L1発現1%以上で0.69と、PD-L1発現1%以上で15%死亡リスクが低い結果であったが、有意差は認めなかった。QOLに関しては、42週までの評価において全てのタイミングでNivolumab群のほうが化学療法群と比べて有意に良好であった。

 以上の結果より、NivolumabはFluoropyrimidine、Platinumに耐性となった進行食道扁平上皮癌患者における2次治療の新たな選択肢となることが示された。


日本語要約原稿作成:昭和大学病院 腫瘍内科 久保田 祐太郎



監訳者コメント:
Nivolumabが食道癌2次治療の新たな標準治療となる

 ATTRACTION-3試験は、食道扁平上皮癌に対する第III相試験である。いままで食道癌では世界規模の第III相試験は、あまり行われておらず、第II相試験の結果により“みなし”標準治療があるのみであった。PaclitaxelやDocetaxelはそういった“みなし”標準治療のひとつであったが、薬剤の選択肢の少ない食道癌では、FluoropyrimidineとPlatinumが不応となった場合、ほかに有効な選択肢はなかった。第II相試験にて有望な結果を示したのち、ATTRACTION-3試験が行われ、主要評価項目である生存期間において、化学療法群に対してNivolumabは有意に延長を示した。

 注目すべき点は2つある。一つは化学療法群の生存期間中央値が8.4ヵ月と、既報と比較して良好であるにもかかわらず、さらに有意な差を示したということであり、Nivolumabの効果がしっかりと認められていることを示している。一方で生存曲線ではクロスしており、PFSについては、初回CT評価でPDと判定されている患者の割合は、50%を超え、化学療法群のそれよりも明らかに多い。奏効した症例への効果が長く続くことで、HRでは1.0を超えており、一部の患者では、化学療法のほうがむしろ良かったかもしれないと思わせる。今後はどのような患者に投与することで、Nivolumabの効果が最大化できるか検討する必要がある。それでも全生存期間で有意差を示したということは、PD後の後治療により、Post Progression Survival(PPS)がNivolumabのほうで良好であったということであり、後治療をしっかりと行った上での効果ということに留意されたい。

 これにより、食道癌化学療法に、新たな薬剤が加わったが、日常診療での疑問を解決する観察研究も必要と思われる。さらに現在Nivolumabは初回化学療法例に対する併用療法を検討するCheckMate 648試験(NCT03143153)や、術後治療CheckMate 577試験(NCT02743494)、術前化学療法JCOG1804E試験(NCT03914443)が行われており、今後の展開が期待される。

  •  1) Kato K, et al.: Cancer Chemother Pharmacol. 67(6): 1265-1272, 2011 [PubMed]
  •  2) Muro K, et al.: Ann Oncol. 15(6): 955-959, 2004 [PubMed]
  •  3) Shah MA, et al.: JAMA Oncol. 5(4): 546-550, 2019 [PubMed]
  •  4) Salem ME, et al.: Oncologist. 23(11): 1319-1327, 2018 [PubMed]
  •  5) Jiang Y, et al.: Oncotarget. 8(18): 30175-30189, 2017 [PubMed]
  •  6) Guo W, et al.: Oncotarget. 9(17): 13920-13933, 2017 [PubMed]
  •  7) Qu HX, et al.: J Thorac Dis. 8(11): 3197-3204, 2016 [PubMed]
  •  8) Kudo T, et al.: Lancet Oncol. 18(5): 631-639, 2017 [PubMed]

監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 加藤 健

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