論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

最新の論文紹介一覧へ
2009年1月~2015年12月の論文紹介
2003年1月~2008年12月の論文紹介

2020年2019年2018年2017年2016年

5月
国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長 谷口 浩也

胃癌 食道胃接合部癌

フッ化ピリミジン系薬剤、プラチナ系薬剤、Trastuzumabに不応となったHER2陽性進行再発胃癌・食道胃接合部癌に対するTrastuzumabの継続投与(Trastuzumab Beyond Progression)についての無作為化第II相試験:WJOG7112G(T-ACT Study)


文献の購入はこちら


Makiyama A, et al.: J Clin Oncol. 38(17): 1919-1927, 2020

 HER2陽性の進行再発胃癌・食道胃接合部癌に対する一次治療はToGA試験1)でTrastuzumab+化学療法群(5-FU/Capecitabine+Cisplatin)と化学療法単独群が比較され、Trastuzumab+化学療法群が標準治療とされている。また、二次治療はTaxane系薬剤やIrinotecanの単剤療法またはPaclitaxelとRamucirumabの併用療法が標準治療とされている2-4)。一方、HER2陽性の進行・再発乳癌に対してはGBG 26/BIG 03-05試験5)で、一次治療でTrastuzumabが不応となった後の治療として抗HER2療法の継続の有用性が示されている。この結果に基づいて、Trastuzumabを含む一次治療に不応であったHER2陽性の進行再発胃癌・食道胃接合部癌に対する二次化学療法として、Paclitaxel単剤療法とPaclitaxel+Trastuzumab療法を比較した無作為化第II相試験を行った。

 対象は、腫瘍組織でHER2陽性(IHC 3+またはIHC 2+かつFISH>2.0)の胃癌・食道胃接合部癌、一次治療としてフッ化ピリミジン系薬剤・プラチナ系薬剤・Trastuzumab(Trastuzumabは3回以上の投与歴)の併用療法に不応、Trastuzumabの最終投与から6週以内に病勢進行、Taxane系薬剤やTrastuzumab以外の抗HER2薬による治療歴なし、ECOG PS 0-2、20歳以上、十分な骨髄および臓器機能・心機能(左室駆出率>50%)を有する患者とし、Paclitaxel群(PTX 80mg/m2、day 1,8,15、4週毎)とPaclitaxel+Trastuzumab群[(PTX 80mg/m2、day 1,8,15、4週毎)+(Trastuzumab 8mg/kg負荷用量+6mg/kg、day 1、3週毎)]に1:1で割り付けた。層別因子は、施設、PS 0-2、IHC 3+またはIHC 2+かつFISH>2.0、標的病変の有無であった。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目は、全生存期間(OS)、治療成功期間(TTF)、全奏効率(ORR)、病勢制御率(DCR)、有害事象、バイオマーカーの検討であった。統計学的設定として、PFS中央値をPaclitaxel群3ヵ月、Paclitaxel+Trastuzumab群5ヵ月とし、片側α=10%、検出力80%で、必要症例数は90例であった。

 2012年12月から2016年10月の間に、37施設の91例の患者がPaclitaxel群46例とPaclitaxel+Trastuzumab群45例に無作為に割り付けられた。各群1例ずつの不適格症例を除いた89例(Paclitaxel群45例、Paclitaxel+Trastuzumab群44例)が解析対象となった。患者背景は両群でほぼ同等であった。Paclitaxel群とPaclitaxel+Trastuzumab群の年齢の中央値はそれぞれ67歳(範囲33〜81歳)と65歳(範囲50〜89歳)であった。一次治療前のHER2 statusについて、IHC 3+とIHC 2+かつFISH陽性の患者の割合は、両群でそれぞれ約75%と25%で同等であった。また、一次治療の最良効果、PFS、期間、Trastuzumabの投与回数も2群間で類似していた。

 主要評価項目であるPFS中央値はPaclitaxel群3.2ヵ月、Paclitaxel+Trastuzumab群3.7ヵ月(HR=0.91、80% CI: 0.67-1.22、p=0.33)であり、Paclitaxel+Trastuzumab群の優越性は示されなかった。副次評価項目については、Paclitaxel群とPaclitaxel+Trastuzumab群において、OS中央値は10.0ヵ月/10.2ヵ月(HR=1.23、95% CI: 0.76-1.99、p=0.20)、ORRは32%/33%、DCRは71%/62%であった。PFSのサブグループ解析では、Trastuzumab-free interval(前治療でのTrastuzumab投与最終日から無作為化されるまでの期間)が30日以上の患者でPaclitaxel+Trastuzumab群が良好な傾向であった(HR=0.45、95% CI: 0.21-0.96、p=0.022)。また、長いintervalの患者では、OSやORRも良好な傾向であった。

 そのほか、Paclitaxelのdose intensityはPaclitaxel群とPaclitaxel+Trastuzumab群でそれぞれ59%と60%であった。また、病態進行と有害事象のために治療を中止した患者数は、Paclitaxel群でそれぞれ31例(69%)と8例(18%)であり、Paclitaxel+Trastuzumab群で39例(89%)と2例(5%)であった。

 安全性については、Paclitaxel群とPaclitaxel+Trastuzumab群におけるgrade 3/4の有害事象で、白血球数減少(18% vs. 29%)、好中球数減少(27% vs. 33%)、貧血(24% vs. 31%)がPaclitaxel+Trastuzumab群で高い傾向にあり、食欲不振(7% vs. 4%)、嘔吐(4% vs. 0%)がPaclitaxel群で高い傾向にあったが、その他はほぼ同等であった。

 HER2関連のバイオマーカー分析として、一次治療後の計18例の腫瘍組織サンプルが使用可能であった(Paclitaxel群10例、Paclitaxel+Trastuzumab群8例)。2例のサンプルは状態不良のため、FISH検査には利用できなかった。HER2陽性(IHC 3+またはIHC 2+/FISH陽性)が維持されたのは、16例中5例の患者(31%)だけであった。HER2陽性であった5例のうち、2例はPaclitaxel+Trastuzumab群で治療を行い、1例は長期安定(9.4ヵ月)が観察された。

 また、プロトコル治療の前に68例の血清サンプル(Paclitaxel群33例、Paclitaxel+Trastuzumab群35例)が得られ、解析を行った。41例の患者でcell-free human epidermal growth factor receptor 2の増幅(cfHER2amp)が陽性であった[Paclitaxel群21例(64%)、Paclitaxel+Trastuzumab群20例(57%)]。cfHER2amp陽性グループはPFS(HR=0.93、95% CI: 0.49-1.76、p=0.83)とOS(HR=1.44、95% CI: 0.74-2.87、p=0.28)で有意差は認めなかった。さらに、68例の血清サンプルをHER2 ECD(extracellular ligand-binding domain)の血清濃度が13.4 ng/mL以上をhigh-HER2 ECD、13.4 ng/mL未満をlow-HER2 ECDに分類した。35例の患者がhigh-HER2 ECDであった[Paclitaxel群20例(57%)、Paclitaxel+Trastuzumab群15例(43%)]。High-HER2 ECDグループもPFS(HR=0.83、95% CI: 0.41-1.64、p=0.60)とOS(HR=0.86、95% CI: 0.41-1.75、p=0.68)で有意差は認めなかった。

 以上より、Trastuzumabを含む一次治療に不応であったHER2陽性の進行再発胃癌・食道胃接合部癌に対して、二次治療としてPaclitaxelにTrastuzumabを上乗せする効果は示されなかった。


日本語要約原稿作成:JCHO九州病院 血液・腫瘍内科 上野 翔平



監訳者コメント:
HER2陽性胃癌の臨床的疑問に対する答えが得られ治療開発は次なる展開へ

 長きにわたる疑問であったTrastuzumab Beyond Progression(TBP)の治療戦略は否定された。臨床的には同じ「HER2陽性癌」でも胃癌と乳癌とは異なる状態にあることが示唆される。適応追加が見込まれるT-DXdは3次治療以降でのHER2陽性胃癌に対し非常に高い有効性を示した6)。Trastuzumabを含んだ1次治療後にHER2の陰転化が高い頻度で認められたが、Trastuzumab-free interval(TFI)の長い症例ではHER2の再陽転化が起こり、TBP戦略が有効と仮定すると、2次治療という一定のTFIを挟むことでよりT-DXdの効果が高まった可能性がある。一方でT-DXdのもつバイスタンダー効果という観点から考慮すると、必ずしもHER2強陽性でなくとも抗腫瘍効果を発揮できる可能性もあり、この点に関しては今後の検討課題である。いずれにしても結果はnegativeではあるものの臨床的に大きな意味のあるnegative試験と解釈したい。

監訳・コメント:岐阜大学医学部附属病院がんセンター 牧山 明資

論文紹介 2020年のトップへ

このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場