論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

最新の論文紹介一覧へ
2009年1月~2015年12月の論文紹介
2003年1月~2008年12月の論文紹介

6月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 准教授 砂川 優

大腸癌

切除不能進行・再発大腸癌(mCRC)に対するFOLFOXIRI+Bevacizumab→FOLFOXIRI+Bevacizumab vs. FOLFOX+Bevacizumab→FOLFIRI+Bevacizumab(TRIBE2):多施設オープンラベル第III相無作為化比較対象試験


Cremolini C, et al.: Lancet Oncol. 21(4): 497-507, 2020

 切除不能進行・再発大腸癌(mCRC)に対する一次治療としてFOLFOXIRI(Fluorouracil[5-FU]+Leucovorin[LV]+Oxaliplatin[OX]+Irinotecan[IRI])+Bevacizumab(Bev)とFOLFIRI(5-FU+LV+IRI)+Bevを比較したTRIBE試験では、無増悪生存期間(PFS)と奏効割合(RR)を改善することが示された1)。また長期フォローアップ解析の結果、RASまたはBRAF遺伝子変異にかかわらない全生存期間(OS)の延長効果が確認された2)。FOLFOXIRI+Bevの有用性は、複数の臨床試験で確認されガイドラインにも重要な治療選択肢として記載があるが、3剤の殺細胞性抗癌剤先行投与の2剤併用の逐次投与に対する真の有用性は明確ではなかった3-7)

 TRIBE2試験は、mCRCに対して2剤併用レジメンの逐次治療を行う対照群(FOLFOX[5-FU+LV+OX]+Bev→5-FU/Bevによる維持療法を行い最初の増悪[PD1]後にFOLFIRI+Bevによる二次治療)に対する、3剤併用レジメンを行う実験群(FOLFOXIRI+Bev→5-FU/Bevによる維持療法中のPD1後にFOLFOXIRI+Bevを再投与)の優越性を検証する目的で実施された第III相試験である。

 対象はイタリアの58施設からリクルートされたEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)Performance Status(PS)2以下の適格基準を満たした18~75歳のmCRC患者(71~75歳はPS 0に限定)。術後補助療法としてOXベースの化学療法を受けた患者は除外され、フッ化ピリミジン製剤単剤での術後補助療法については、治療終了から再発までに6ヵ月以上経過していた場合に限り登録可能であった。施設、PS、原発占拠部位、補助化学療法歴に従って層別化され、無作為に1:1に割り付けられた。実験群(FOLFOXIRI+Bev→5-FU/Bev→PD1→FOLFOXIRI+Bev→5-FU/Bev)、対照群(FOLFOX+Bev→5-FU/Bev→PD1→FOLFIRI+Bev→5-FU/Bev)ともにFOLFOXIRI+Bev、FOLFOX+Bev、FOLFIRI+Bevの投与回数は8サイクルまでとし、主要評価項目はPFS2とした(無作為化から1回目のPD後に投与された治療による2回目のPDもしくは死亡までの期間)。副次評価項目は、一次治療のPFS、一次治療・二次治療のRR、切除移行率、一次治療・二次治療の安全性、OSであった。

 2015年2月26日~2017年5月15日に登録された679例が、対照群340例と実験群339例に割り付けられた。両群の患者背景は同様で、年齢中央値は対照群61歳vs.実験群60歳、原発巣右側は両群とも38%、RAS変異陽性は対照群65% vs.実験群63%、BRAF変異陽性は両群とも10%、原発巣右側またはRAS/BRAF変異陽性が対照群80% vs.実験群81%、原発巣左側かつRAS/BRAF野生型は対照群16% vs.実験群17%、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)またはミスマッチ修復機能欠損(dMMR)は両群とも4%であった。

 観察期間中央値35.9ヵ月時点のPFS2中央値は実験群19.2ヵ月(95% CI: 17.3-21.4)vs.対照群16.4ヵ月(95% CI: 15.1-17.5)(ハザード比[HR]=0.74、95% CI: 0.63-0.88、log-rank p=0.0005)と実験群で有意に延長していた。

 有害事象は、対照群に対し実験群においてgrade 3/4発現率が高い傾向にあり、特に下痢(5% vs. 17%、p<0.001)、好中球減少(21% vs. 50%、p<0.001)、発熱性好中球減少症(3% vs. 7%、log-rank p=0.050)は有意に高率であった。

 初回の病勢増悪(PD1)後に生存していた570例の患者のうち二次治療が実施された割合は対照群296例中259例(88%)、実験群274例中224例(82%)で、規定されたプロトコル治療が実施された333例(対照群186/201[93%]、実験群115/132[87%])における二次治療のPFS中央値は対照群5.8ヵ月(95% CI: 4.9-6.5)、実験群6.5ヵ月(95% CI: 6.2-7.5)(HR=0.79[95% CI: 0.63-1.00]、log-rank p=0.048)と実験群で有意に良好であった。また、二次治療におけるgrade 3以上の有害事象が実験群で有意に高率であった項目は、神経毒性(対照群0% vs.実験群5%)であった。

 TRIBE2試験の主要評価項目が達成されたことにより、FOLFOXIRI+Bevによる一次治療後、維持療法の最初の増悪後に同レジメンを再導入する治療戦略が2剤併用療法の逐次投与よりもOS改善へ寄与する可能性が示された。有害事象の増加は避けられないが、本試験の適格基準に合致する背景をもつ忍用性良好な治療対象に対しては利益が上回る可能性がある。


日本語要約原稿作成:佐賀県医療センター好生館 臨床腫瘍科 柏田 知美



監訳者コメント:
Tripletで始めたらTripletで終わろう

 FOLFOXIRI+Bevは、2016年版大腸癌ガイドラインから標準一次治療として収載されている。QUATTRO試験8)により邦人における原法の有用性・安全性も確認されているが、Irinotecan、Oxaliplatin、5-FUを減量したmodified regimenでの有用性・安全性もJACCRO CC-11試験9)で確認されており、原法でいくのが困難ならば、modified regimenでも良いと思われる。腫瘍による症状が強い場合やconversionを狙う場合に極めて有効で10)、また、大腸癌化学療法で、初めてcontinuous maintenanceの概念を持ち込んだ点でもユニークなregimenである。

 問題点としては、維持治療に移って増悪した後の至適レジメンは何かという問題と、TRIBE試験の最終解析でFOLFOXIRI+BevのOSがFOLFIRI+Bevに対して有意に良好ではあったが2)、doublet sequential treatmentに対する真の優位性は不透明であるという問題である。

 TRIBE2は上記2点を明らかにするP3試験として計画された。非常に複雑な試験デザインであるが、柏田先生が実に見事にわかりやすくまとめて下さっており、熟読されたい。

 コメントとしてはdoublet sequential treatmentのスターターがFOLFOX+Bevというのは実臨床に即した形であるし、TRIBE試験では最大12コースまでとされたFOLFOXIRI+Bevが8コースで抑えられており、またFOLFOX+Bevも8コースに抑えられている。実臨床では、8コースぐらいで、末梢神経障害増悪やinfusion reactionにより、Oxaliplatinを外すことが多く、この8コースの制限というのは極めてreasonableである。triplet failure後にtripletの再導入ができるのか?という懸念があったが、実験群・対照群とも80%以上でtripletの再導入またはFOLFIRIへの変更ができておりfeasibilityも良好であった。

 結論としては、FOLFOXIRI+Bev→維持治療不応時について忍容性があるのなら、FOLFOXIRI+Bevの再導入を検討すべきである。

監訳・コメント:長崎大学病院 移植・消化器外科 小林 和真

論文紹介 2020年のトップへ

このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場