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国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

大腸癌

MSI-H進行大腸癌における一次治療でのPembrolizumabの有効性(KEYNOTE-177試験)


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André T, et al.: N Engl J Med. 383(23): 2207-2218, 2020

 ミスマッチ修復機能の欠損(dMMR: deficient mismatch-repair)は大腸癌患者の15%にみられる。12%が散発性であり、3%が遺伝性とされる。散発性のdMMRにおいては約80%がMLH1遺伝子プロモーター領域のメチル化により生じるが、遺伝性では70%以上がMLH1MSH2遺伝子の体細胞変異で生じる1-5)。いずれにおいても、細胞が自然突然変異を認識および修復することができず、その結果として腫瘍の突然変異負荷が非常に高くなるだけでなく、不安定性の高いマイクロサテライト配列(MSI-H)が変化し、腫瘍を引き起こす4)。こうしたMSI-H-dMMRの大腸癌では従来の化学療法に反応しにくいことを示唆する報告が増えているが、これまでの文献では結論が出ておらず、化学療法が依然としてMSI-H-dMMR大腸癌患者の標準治療である6-8)。しかし、前治療歴のあるMSI-H-dMMR転移性大腸癌に対してPD-1阻害薬であるPembrolizumabおよびNivolumabの極めて高い有効性が示された。これらの結果をもとに、PembrolizumabおよびNivolumabは、Fluoropyrimidine、Oxaliplatin、Irinotecan不応後のMSI-H/dMMR転移性大腸癌に対してFDAで承認された9-12)

 本論文で報告されているKEYNOTE-177試験は、MSI-H/dMMR転移性大腸癌の一次治療における標準化学療法に対するPembrolizumab単剤療法の有効性と安全性を検証した国際共同第III相試験である。

 主な適格規準は、18歳以上、ECOG PS 0-1、臓器機能が保たれており、RECIST ver1.1で測定可能病変を有する、MSI-H-dMMRのステージIVの大腸癌患者であった。Pembrolizumab群(P群:Pembrolizumab 200mg、3週毎、35サイクルまで)、化学療法群(C群:mFOLFOX6±Bevacizumab/Cetuximab、FOLFIRI±Bevacizumab/Cetuximab、2週毎、いずれかを研究者が無作為化前に選択)の2群に1:1で無作為に割り付けられた。C群では、RECIST ver1.1での病勢進行を確認した後にPembrolizumabの投与が35サイクルまで許容された。

 主要評価項目は、無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)であった。副次評価項目には、全奏効率(ORR)、安全性、奏効期間(DOR)が含まれた。

 2回の中間解析と最終解析が計画された。1回目の中間解析は、162例の増悪または死亡、かつ最後に登録された患者の無作為化6ヵ月以降を予定した。また本報告である2回目の中間解析(PFSの最終解析、OSの中間解析)は、209例の増悪または死亡が起こるか、最後に登録された患者の無作為化24ヵ月後のいずれか早い時点を予定した。片側α=0.0125、PFSのハザード比(HR)=0.55とした場合の検出力は約98%となる。また、PFSのC群に対するP群の優越性の境界値はp=0.0117と事前に設定した。

 2016年2月11日から2018年2月19日の期間に23ヵ国192施設より計307例の患者が登録され、153例がP群に、154例がC群に無作為に割り付けされた。

 全体において年齢の中央値は63歳(範囲:24~93歳)、右側結腸が209例(68%)、新規発症の転移性大腸癌が153例(50%)、BRAF V600E変異陽性が77例(25%)であり、各群において患者背景に大きな偏りはなかった。中間解析におけるカットオフ日は2020年2月19日であり、フォローアップ期間の中央値は32.4ヵ月(範囲:24.0~48.3ヵ月)であった。

 主要評価項目であるPFSの中央値はP群16.5ヵ月(95% CI: 5.4-32.4)vs. C群8.2ヵ月(95% CI: 6.1-10.2)であり、有意差をもってP群のPFS延長が示された(HR=0.60、95% CI: 0.45-0.80、p=0.0002)。また、24ヵ月後のPFSの推定制限平均生存期間においても、C群10.8ヵ月(95% CI: 9.4-12.2)、P群13.7ヵ月(95% CI: 12.0-15.4)とP群が良好であった。さらにサブグループ解析においても、人種やBRAF変異、KRAS or NRAS変異、原発部位(右側/左側)など、いずれもP群が一貫して良好な結果であった。

 ORRはP群43.8%(95% CI: 35.8-52.0)vs. C群33.1%(95% CI: 25.8-41.1)、完全奏効割合はP群11% vs. C群4%であり、ともにP群のほうが高かった。しかし、病勢進行(PD)割合においてはP群29.4% vs. C群12.3%とP群が高くなっていた。DOR中央値はP群未到達(NR)vs. C群10.6ヵ月であり、P群ではPDが多いものの、ORRは高く、DORも長いことが示唆された。

 OSに関しては190例が最終解析に必要となるが、中間解析の時点では125例のイベントしか生じていなかった(P群56例、C群69例)。モニタリング委員会は全死亡190例が生じるまで評価のための最終解析は変更せずに試験を継続することを推奨した。PembrolizumabのクロスオーバーがOSの評価要因となるが、中間解析の時点ではC群の154例中56例(36%)が病勢進行後にP群へクロスオーバーしていた。また35例が試験外でPD-1阻害薬もしくはPD-L1阻害薬が投与されており、実際のクロスオーバー率は59%(91例)であった。

 P群、C群における有害事象の頻度は、全gradeでそれぞれ97%と99%、grade 3以上で56%と78%であった(中断を要する有害事象:14%と12%、治療関連死:4%と5%、grade 3以上の治療関連有害事象:22%と66%)。免疫関連有害事象インフュージョンリアクションはP群、C群で31%と13%であった。P群ではgrade 3もしくは4の腸炎が3%、肝炎が3%に生じていた。P群で治療関連有害事象の頻度が低く、免疫関連有害事象に関しては既報と変わらなかった。

 本試験ではMSI-H-dMMR転移性大腸癌の一次治療におけるPembrolizumabの標準化学療法に対するPFSの優越性が示されたが、化学療法群におけるPFS中央値は8.2ヵ月、ORRは33.1%であった。これはMSI-H-dMMR転移性大腸癌において、化学療法は限定的な結果となっていることが示唆された。

 そしてPembrolizumab群は化学療法群と比べて、高い奏効割合を示し、完全奏効割合も高かった。しかし、増悪割合は化学療法群よりも高かった。PFSの生存曲線において、Pembrolizumab群と化学療法群はクロスオーバーをしており、長期的な有効性が示された。

 PD-1阻害薬の病勢増悪をきたすバイオマーカーとして、遺伝子変異量の少なさ、JAK遺伝子変異、β-2ミクログロブリンの消失により抗原提示ができなくなることや、MSI-H-dMMRの誤診、pseudoprogressionなどが言われている9,10,13-15)もののまだ結論が出ておらず今後の開発が期待される。またMSI-H-dMMRは、約3分の1で左側であることが分かっており、右側のみではなく、すべての大腸癌においてMSI/MMRの検査を行うことが重要である。

 本研究では遺伝性のMSI-H-dMMRに関しては、生殖細胞検査の同意を得ていなかったため、散発性大腸癌と遺伝性大腸癌においてPD-1阻害薬の治療効果に差があるかどうかは不明であった。しかしながら、MSI-H-dMMR腫瘍においてBRAF V600E変異を有する場合は散発性大腸癌であると考えることができるため、BRAF V600E変異の有無によるサブグループ解析の結果をもとにすると散発性大腸癌と遺伝性大腸癌に対するPD-1阻害薬の効果は同等であることが示唆された。遺伝性大腸癌に対するPD-1阻害薬の効果に関しては、今後さらなる研究が必要である。

まとめ
 MSI-H-dMMR転移性大腸癌の一次治療における標準化学療法に対するPembrolizumab単剤治療のPFSの優越性が示された。また、サブグループ解析においても、おおむねPembrolizumab群のPFSのほうが長くなっていた。治療関連有害事象に関しても、Pembrolizumab群のほうが化学療法群よりも少なかった。PembrolizumabはMSI-H-dMMR転移性大腸癌患者の一次治療の選択肢として検討されるべきである。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 廣瀬 俊晴



監訳者コメント:
切除不能大腸癌に対する一次治療における新たな治療選択

 本邦においてもMSI-highを有する切除不能大腸癌に対して免疫チェックポイント阻害薬[Pembrolizumab、Nivolumab(+Ipilimumab)]が日常診療で使えるようになっている。しかし、いずれの薬剤も化学療法後に増悪した患者が対象であり、一次治療における免疫チェックポイント阻害薬の有効性は不明であった。KEYNOTE-177試験はPembrolizumabの一次治療への適応拡大を目指したグローバル第III相試験である。

 本論文では主要評価項目の1つであるPFSにおいて、標準治療である化学療法群に対するPembrolizumab群の優越性が示された。PFS中央値は約2倍と圧倒的な延長を認めており、サブグループ解析においても概ねPembrolizumab群が良好であった。irAEは二次治療以降で用いた場合と大きな差はなく許容範囲であった。また、2021年消化器癌シンポジウムにおいて、無作為化から2度目の増悪または死亡までの期間もPembrolizumab群が良好であることが報告されている(HR=0.63、95% CI: 0.45-0.88)。さらに、2021年日本臨床腫瘍学会学術集会においてアジア人での解析が報告されており、全体の解析同様、Pembrolizumab群の優越性が報告された(HR=0.65、95% CI: 0.30-1.41)。また、アジア人におけるirAEも全体の解析と同等であった。

 KEYNOTE-177試験の結果、PembrolizumabはMSI-highを有する切除不能大腸癌に対する一次治療の新たな標準治療であるといえ、一次治療を決定するプロセスにおいてRAS/BRAF検査に加えMSI検査は必須となる。ただし、Pembrolizumab群の増悪割合は化学療法群と比べ高く(29.4% vs. 12.3%)、効果予測ができるバイオマーカーの開発が急務である。また、MSI-highを有する切除不能大腸癌一次治療において、NivolumabとIpilimumab併用療法、化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の有効性を検証する第III相試験も進行中であり、それらの試験結果が待たれる。

監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 髙島 淳生

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