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11月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

大腸癌

大腸癌肝転移切除後患者を対象とした術後mFOLFOX6療法vs.手術単独の第II/III相無作為化比較試験(JCOG0603試験)


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Kanemitsu Y, et al.: J Clin Oncol. September 14, 2021
[Online ahead of print]

 肝転移は大腸癌患者の約30%に発生し、大腸癌による死亡原因の3分の2に及ぶ1,2)。肝切除は大腸癌肝転移に対する最も効果的な治療法であり、他の治療法と比較して長期生存が望めるが、肝切除単独で治癒する患者は限られており、肝切除後5年以内の再発率は70~80%と言われている2,3)

 これまでの臨床試験、メタ解析では肝切除後の化学療法により無病生存期間(DFS)の延長は認めたが、全生存期間(OS)の延長は示されていない4-7)。大腸癌肝転移切除+周術期化学療法vs.肝切除単独を比較したEORTC40983試験では、FOLFOX(Fluorouracil+Leucovorin+Oxaliplatin)による周術期化学療法は肝切除単独と比較して無増悪生存期間(PFS)を延長したが、OSの延長は認めなかった8,9)

 ゆえに、肝切除後のFOLFOXによる術後化学療法の安全性と有効性を手術単独と比較することを目的とした第II/III相無作為化比較試験(JCOG0603試験)が計画された10)

 主な適格基準は、20~75歳、肝切除後の病理診断にて組織学的に大腸癌の肝転移と診断されている、原発巣・肝転移ともにR0切除がされている、肝転移以外の遠隔転移を認めない、ECOG PS 0-1、化学療法/放射線療法の施行後3ヵ月以上が経過している患者で、過去にOxaliplatin投与歴のある患者は除外された。登録された患者は、肝転移時期(同時性vs.異時性)、肝転移個数(3個以下vs. 4個以上)、腫瘍最大径(5cm未満vs. 5cm以上)、原発巣のリンパ節転移個数(3個以下vs. 4個以上vs.不明)、実施施設で調整された上で、術後化学療法群と手術単独群に1:1で割り付けられた。

 手術単独群では再発まで追加治療を行わず、術後化学療法群では肝切除後56~84日の間にmFOLFOX6療法を開始し、計12コース施行した。再発時や重篤な有害事象の発生時、有害事象により治療が28日を超えて遅延した場合、3段階の減量が必要となった場合は化学療法を中止した。

 第II相部分では、9コース施行後の治療順守率の期待値を70%、閾値を50%と仮定し、片側検定α=0.1、検出力90%として術後化学療法群の必要サンプル数を39例と設定した。2007年3月より患者登録を開始したが、2009年2月の時点で術後化学療法群の39例中17例が神経毒性を主とした有害事象により治療9コースを完遂できなかったため、登録を一時停止してプロトコールを修正し(①適格基準に好中球数≧1,500/mm3を追加、②許容休薬期間の延長、③減量レベルの追加)、改めて第II相部分を行った。

 第III相部分では、術後化学療法群が手術単独群に比べ5年DFSで12%上回り(HR=0.72)、術後5年で233例が再発すると仮定し、片側検定α=0.05、検出力80%として必要サンプル数を300例と計算した。第III相部分の主要評価項目はDFSとし、副次評価項目はOS、有害事象発生率、再発形式とした。DFSとOSはITT解析で、有害事象はプロトコール毎に評価した。

 2007年3月から2019年1月の間に日本の46施設で300例が登録され、手術単独群149例、術後化学療法群151例に割り付けられた。術後化学療法群のうち85例(56%)が9コース、67例(44%)が全12コースを完遂した。術後化学療法群において、第II相前期、第II相後期、第III相の9コース完遂率はそれぞれ36%(14/39例)、61%(25/41例)、65%(46/71例)、12コース完遂率はそれぞれ28%(11/39例)、41%(17/41例)、55%(39/71例)であった。

 2019年6月までの追跡結果を基に3回目の中間解析が行われ(追跡期間中央値53.6[IQR: 23.0-91.7]ヵ月)、手術単独群と術後化学療法群での5年DFSはそれぞれ37.3%(95% CI: 28.9-45.6)、50.1%(95% CI: 41.2-58.4)と、術後化学療法群のDFSが手術単独群のDFSを有意に上回った(HR=0.63、96.7% CI: 0.45-0.89、片側p=0.002)ため、効果安全委員会からの勧告を受けて試験は有効中止となった。2019年11月に行われた最終解析では(追跡期間中央値59.2[IQR: 26.5-95.3]ヵ月)、5年DFSはそれぞれ38.7%(95% CI: 30.4-46.8)、49.8%(95% CI: 41.0-58.0)であった(HR=0.67、95% CI: 0.50-0.92、片側p=0.006)。

 一方最終解析において、手術単独群と術後化学療法群の5年OSはそれぞれ83.1%(95% CI: 74.9-88.9)、71.2%(95% CI: 61.7-78.8)であった(HR=1.25、95% CI: 0.78-2.00、片側p=0.42)。DFSのサブグループ解析では、原発部位(左側大腸)、化学療法の既往歴(なし)以外では全体に術後化学療法群が有意に良好であった。一方OSでは化学療法が生存に寄与したサブグループは明らかでなかった。

 手術単独群では83例(56%)、術後化学療法群では68例(45%)で再発を認めた。残肝再発は手術単独群で多く(43例[51%]vs. 25例[37%])、肺や他臓器の遠隔再発は術後化学療法群で多かった(40例[48%]vs. 43例[63%])。再発病変に対する外科切除率は手術単独群で高かった(50例[60%]vs. 36例[53%])。

 術後化学療法の投与コース数の中央値は12コースで、grade 3以上の合併症で最も多かったのは好中球減少(50%)、次いで末梢神経障害(10%)、アレルギー反応(4%)であった。術後合併症の発生率は両群で同等であったが、術後化学療法群の1例がmFOLFOX6療法を3コース施行後に治療関連死した。

 本試験ではEORTC40983試験と同様、FOLFOXによる追加治療によりOSの延長は認めなかったが、有意にDFSが延長したため中間解析により早期中止となった。著者らはDFSとOSの結果の乖離について、以下の4つの要因を考察している。

 1つ目は、化学療法による肝障害である。Oxaliplatinによる類洞閉塞症候群により背景肝が障害を受けたことで、CTによる肝再発の診断が困難となり、結果的に術後化学療法群で再発の診断が遅れ、見かけ上のDFSが延長した可能性が考えられる。

 2つ目は、再発後治療の不均衡である。肝切除後再発病変に対する外科切除率は、手術単独群では術後化学療法群より7%多く、その差がOSの延長に寄与した可能性がある。また、再発に対する化学療法は、手術単独群ではOxaliplatinレジメンが20%多く、術後化学療法群ではIrinotecanレジメンが10%多かった。このことは、術後化学療法群では再発後の化学療法レジメン選択に制約があった可能性を示している。

 3つ目は、術後化学療法群でのアドヒアランス低下と重篤な有害事象発生がOSを短縮した可能性である。第II相前期では多くの患者が有害事象で化学療法を中断していた。しかし、プロトコールを修正したことで9コース完遂できた患者は63%まで増え、grade 4の好中球減少は11%まで減少し、第II相後期+第III相ではOSに影響を与えなかったように見える。

 4つ目は、術後化学療法により、残存腫瘍細胞の耐性化が生じた可能性である。多くの癌種において、“ATRESS現象”(訳注:術後補助療法後の再発患者の予後が不良となる現象、adjuvant therapy–related shortening of survival)が報告されており11,12)、実際に、再発後のOSは手術単独群に比べて化学療法群で短かった。また、サブグループ解析では化学療法治療歴のある症例は治療歴のない症例に比べてOSが悪い結果であり、先行した術後化学療法が再発後のOSを悪化させた可能性がある。

 本試験の制約としては、4個以上の肝転移症例がほとんどいなかったこと、イベント数に比してOSの観察期間が短かったこと、肝転移再発のフォローにCTのみを用いたこと、患者集積が困難であり13年を要したことが挙げられる。

 結語として、mFOLFOX6による術後化学療法は、DFSの延長には寄与したもののOSの延長には寄与せず、約半数の患者に重篤な有害事象を引き起こしていた。さらなる検討が必要ではあるが、現時点では肝切除後のmFOLFOX6療法による術後化学療法を一律に推奨はできない。


日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター 消化器外科 前田 真吾



監訳者コメント:
大腸癌肝転移切除後の術後化学療法:患者の真の利益とは?

 本試験は大腸癌肝転移(CRCLM)切除後のmFOLFOX6療法による術後化学療法の有用性を検証する第II/III相無作為化比較試験である。登録開始から13年を経て、第3回目の中間解析でprimary endpointであるDFSの優越性が示されたことから試験は早期中止となった一方、OSでは術後化学療法群が手術単独群をむしろ下回るという結果の乖離を受けて、Kanemitsuらは「CRCLM切除後はmFOLFOX6療法による術後化学療法を一律に施行すべきではない」と結論した。

 この結果と解釈について、当初ASCO2020での発表時には大きな議論が巻き起こった。反対意見の多くはmetしたprimary endpointのDFSではなくimmatureな可能性のあるsecondary endpointのOSを重視したこと、試験を有効中止としながら試験治療を標準治療とみなさなかったことへの批判であった。しかし、確かに術後mFOLFOX6療法はDFSを有意に延長させたが、患者にとっての真の利益とは一体何であろうか。膨大な数の通院、副作用のリスク、短期的なQOLの低下および長期的なgrade 2以上の末梢神経障害、これらのいずれをも無視して試験治療の本当の有益性を議論することはできない。

 過去を振り返ると、EORTC40983(EPOC)試験は切除可能なCRCLMの周術期にFOLFOX4療法を用いた最初の第III相無作為化比較試験であった。当該試験ではITT集団においてPFSの改善を認めず、当初は予定されていなかったpost-hoc解析でFOLFOX4療法によるPFSの改善を認めたのみであった。しかし、この結果は、当時は多くの肝臓外科医、腫瘍内科医が慣習的に周術期化学療法を行っていたことを肯定する結果と受け止められ、その解釈が今日まで続いている。本論文のeditorialにもあるように、「今になって思うと、我々は、我々の凝り固まった信念や診療パターンと矛盾する結果を見過ごしていたのではないだろうか。」

 Forest plotからは、CRCLM切除後の術後化学療法によるDFSの改善は、原発巣切除後に化学療法を受けたことのない一部の患者に限定される可能性が示唆された。CRCLM切除後の患者のうち、toxicな追加治療を本当に必要とするpopulationはどの集団か。多くの癌種で声が上げられているように、CRCLM治療においても今後は周術期化学療法を含む治療の個別化・最適化が望まれる。

監訳・コメント:愛知県がんセンター 消化器外科 大内 晶

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