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3月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健

大腸癌

前治療歴を有するKRASG12C変異陽性大腸癌に対するSotorasib:単群第II相試験(CodeBreaK100)より


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Fakih MG, et al.: Lancet Oncol. 23(1): 115-124, 2022

 KRAS変異は大腸癌全体の約40%に、うちKRAS蛋白の12番目のグリシンがシステインに変異したKRASG12C変異は大腸癌全体の約3%に認められる1)KRASG12C変異型大腸癌は他のKRAS変異型と比べて予後不良であることが知られている2)KRAS変異型大腸癌には抗EGFR抗体薬は無効であること、三次治療以降で用いられるRegorafenibやTrifluridine-Tipiracil塩酸塩(FTD/TPI)は、奏効割合が1~4%、無増悪生存期間(PFS)が2~3ヵ月、全生存期間(OS)が6~9ヵ月であり、より有効な治療開発が期待されている3-4)

 KRAS変異は グアノシン三リン酸(GTP)との結合が強いことから阻害剤の開発がこれまで困難であった5)。低分子化合物であるSotorasibはG12C変異を有するKRAS蛋白が不活性型であるグアノシン二リン酸(GDP)と結合した状態において、隣接するP2ポケットと共有結合することにより、変異システイン残基とも反応し、下流シグナルが抑制される6)KRASG12C変異型固形癌を対象にした第I相試験において、客観的奏効割合(ORR)7.1%、病勢制御割合(DCR)74%、PFS中央値4.0ヵ月と有望な抗腫瘍効果が認められたことから7)、同集団に対する第II相試験が行われ、今回、大腸癌コホートの結果が発表された。

 主な適格規準は、局所進行もしくは転移性のKRASG12C変異型大腸癌を有するECOG PS 0-1の患者で、RECIST v1.1に基づく測定可能病変を有する症例であった。ほかにもFluoropyrimidine、Oxaliplatin、Irinotecanの化学療法歴、マイクロサテライト不安定性を有する場合は抗PD-1抗体薬の投与歴が必須とされた。今回、Sotorasibの用量は、第I相試験の結果、推奨用量かつ唯一抗腫瘍効果が認められた960mgとなり、1日1回経口投与された。

 主要評価項目はORR、副次評価項目は奏効期間(DOR)、DCR、奏効までの期間(TTR)、PFS、OS、安全性、薬物動態であった。片側の正確二項検定を用いて、ORRの95%信頼区間(CI)の下限値が10%を上回る確率が90%を超えるように計算された結果、サンプルサイズは60例と定められた。

 2019年8月から2020年5月までの間に大腸癌コホートにおいて日本を含む9ヵ国33病院から計62例が登録され、全症例を対象に解析が行われた。2021年3月1日のデータカットオフ時点における平均治療期間は18週間であり、5例が治療継続中であった。

 全62例の患者背景について、年齢中央値56.0歳(範囲:49.0-61.0)、女性34例(55%)、ECOG PS 1が27例(44%)、結腸癌48例(77%)であった。45例(73%)が3レジメン以上の治療歴を有し、27例(44%)はRegorafenibもしくはFTD/TPIのいずれかまたは両方の治療歴を有していた。

 全62例のうち6例で奏効が得られ、ORRは9.7%(95% CI: 3.6-19.9%)であり、下限値が事前に設定された10%を下回った。奏効が得られた6例のうち、3例は最初の評価時点(約6週間)で奏効が得られ、2例はデータカットオフ時点で11ヵ月以上の奏効が得られていた。奏効割合に影響を与える因子について検討したサブグループ解析では有意な因子は認められなかった。DCRは82.3%であった。41例(66%)で腫瘍縮小が得られ、平均腫瘍縮小率は46.3%であった。

 観察期間中央値11.0ヵ月におけるPFS中央値は4.0ヵ月であり、6ヵ月、12ヵ月PFS割合はそれぞれ21.9%、11.7%であった。また観察期間中央値11.4ヵ月におけるOS中央値は10.6ヵ月であり、12ヵ月OS割合は42.5%であった。57例(92%)が治療を完遂し、32例(52%)が次治療に移行した。

 薬物動態について、最高血中濃度(Cmax)、最高血中濃度到達時間中央値(Tmax)、AUC(0-24h)は、それぞれ1日目が9,200ng/mL、2.0時間、86,300ng・hr/mL、8日目が8,900ng/mL、1.5時間、56,400ng・hr/mLであった。

 有害事象は60例(97%)に発生したが、その中で治療関連有害事象は全gradeで34例(55%)、grade 3-4が7例(11%)であった。Grade 3の内訳は、下痢が2例(3%)、alanine aminotransferase(ALT)上昇、aspartate aminotransferase(AST)上昇、コレステロール上昇、倦怠感、背部痛、急性腎障害がそれぞれ1例(2%)であった。Grade 4はcreatine phosphokinase上昇が1例(2%)に認められた。また背部痛および急性腎障害は重篤な治療関連有害事象と判断された。治療関連死はみられなかった。有害事象による減量は11例(18%)で生じ、急性腎障害による毒性中止は1例(2%)で認められた。Relative dose intensityの中央値は100%であった。一方、grade 3以上の肝毒性は5例(8%)に認められたが、重篤・致命的なものは認めず、腎毒性は3例(5%)に認められ、2例が重篤と判断された。また肺炎を認めた症例はなかった。

まとめ
 KRASG12C変異型大腸癌に対してKRASG12C阻害剤Sotorasibは、主要評価項目であるORR 9.7%、DCR 82%、腫瘍縮小割合66%であり、毒性も許容範囲内であった。

 KRASG12C変異型大腸癌は他のKRAS変異型大腸癌と比べて生存期間が短いことが報告されている。本集団に対して安全かつ有効な治療の開発が必要である。

 本試験では全体の44%においてRegorafenibもしくはFTD/TPIのいずれかまたは両方の治療歴を有していたものの、PFS中央値4.0ヵ月であった点は注目に値する。毒性に関してgrade 3以上は7例(11%)であり、致命的事象は認めなかった。これらは第I相試験結果と類似する。

 本試験において大腸癌よりも非小細胞肺癌で良好な治療成績であった(非小細胞肺癌vs.大腸癌;ORR:37.1% vs. 9.7%、PFS:6.8ヵ月vs. 4.0ヵ月、OS:12.5ヵ月vs. 10.6ヵ月)。これは大腸癌ではEGFRチロシンキナーゼ受容体が高い活性を示すためと考えられている。このEGFRからのシグナルはSotorasib耐性機序と考えられており、抗EGFR抗体薬併用が効果的と考えられるが、現在バイオマーカー解析や薬力学的研究が進められている。

 薬物動態は第I相試験結果と類似する。Sotorasibは前臨床試験において他薬剤との併用による相乗効果が示されており、現在抗EGFR抗体薬であるPanitumumabとの併用について検討した第Ib相試験(CodeBreaK101)が進行中である。

 Limitationとして、本試験は比較群のない単群試験であること、また主要評価項目であるORRの95% CIの下限値が閾値を下回ったことから、解釈には注意を要する。

 本試験において、KRASG12C変異型大腸癌に対してKRASG12C阻害剤Sotorasibは主要評価項目であるORRにおいて95% CIの下限値が閾値を下回ったことから解釈には注意が必要であるが、一定の抗腫瘍効果が認められ、毒性も許容範囲内であった。現在、Sotorasibと他の標的治療や非標的治療と組み合わせた治療開発が進められている。


日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター 薬物療法部 児玉 紘幸



監訳者コメント:
未到の領域:RAS変異型大腸癌への挑戦

 最近はRAS変異型と遺伝子検査の結果が返ってくると少し残念な気持ちになる。RAS野生型、BRAF変異型大腸癌となれば、抗EGFR抗体薬、BRAF阻害薬が使用できるからだ。本論文は、そんな憂鬱なRAS変異型大腸癌に、一筋の光を照らすものである。KRASG12C変異型大腸癌に対する阻害薬Sotorasib単剤療法の第II相試験が実施され、ORRは9.7%であったが、PFS中央値4.0ヵ月、OS 10.6ヵ月とまずまずの成績であった。有害事象への大きな懸念もなかった。本治療成績でLancet Oncologyに掲載されたのは、お察しのように、抗EGFR阻害薬との併用でさらに良好な治療成績がすでに発表されているからであろう。BRAF変異型に対する治療開発の歴史を紐解くと、メラノーマでは単剤療法で開発が成功したが、大腸癌では頓挫しCetuximabとの併用で初めて第III相試験で有効性が検証された。この間、約10年弱である。Sotorasibは非小細胞肺癌で本年1月に本邦で薬事承認された。大腸癌では抗EGFR抗体薬など種々の薬剤との併用療法が試みられている。BRAF変異大腸癌に対する経験を生かして、可及的速やかにRAS変異型大腸癌に対する治療薬が現場に届くのを望んでいる。さらには、KRASG12DKRASQ61変異への治療も開発中である。追いかけても全く見えなかったRAS変異型大腸癌の背中は、徐々にではあるが確実に捉えられてきている。

監訳・コメント:愛知県がんセンター 薬物療法部 谷口 浩也

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