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2009年1月~2015年12月の論文紹介
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4月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

食道癌

進行食道扁平上皮癌に対するNivolumab併用療法(CheckMate 648試験)


Doki Y, et al.: N Engl J Med. 386(5): 449-462, 2022

 進行食道扁平上皮癌に対する標準治療であるフッ化ピリミジン、プラチナ併用療法は生存期間の中央値が1年未満と予後不良である1-3)。近年、進行食道扁平上皮癌に対する1次化学療法として、化学療法と抗PD-1抗体薬の併用療法の有用性が示されている4,5)

 進行食道扁平上皮癌においては、約50%の症例で1%以上の腫瘍細胞中PD-L1発現を認める6,7)。抗PD-1抗体薬であるNivolumabは進行食道扁平上皮癌既治療例に対して、生存延長効果が示されている7)。胃・食道腺癌においては1次治療としてNivolumabと化学療法の併用療法が、また、さまざまな固形癌の1次治療としてNivolumab+Ipilimumab療法の有用性が第III相試験で示されている8-10)

 CheckMate 648試験は進行食道扁平上皮癌の1次治療において、Cisplatin+5-FU(CF)療法を対照として、Nivolumab+CF療法とNivolumab+Ipilimumab療法の有効性と安全性を検証した国際共同第III相試験である。

 主な適格規準は、①18歳以上であること、②未治療の切除不能進行・再発食道癌であること、③組織学的に扁平上皮癌または腺扁平上皮癌と診断されていること、④測定可能病変を有することであり、PD-L1の発現状況は問われなかった。

 患者はCF療法[Fluorouracil 800mg/m2(day 1-5)+Cisplatin 80mg/m2(day 1)、4週間毎]、Nivolumab(240mg/body、2週間毎)+CF療法、Nivolumab(3mg/kg、2週間毎)+Ipilimumab療法(1mg/kg、6週間毎)に1:1:1の割合で無作為に割り付けられた。治療は増悪、継続困難な有害事象の出現、同意撤回、試験の終了のいずれかが起こるまで継続され、NivolumabおよびNivolumab+Ipilimumabは最長2年間投与された。

 主要評価項目は全生存期間(OS)と、RECIST v1.1に基づく中央判定による無増悪生存期間(PFS)であった。副次評価項目は中央判定によるRECIST v1.1に基づく客観的腫瘍縮小効果であった。階層的検定手順により、評価項目はまず腫瘍細胞のPD-L1発現割合(TPS)≧1%の症例において評価され、その後、全体集団において評価が行われた。事前に設定された主な探索的評価項目は中央判定による奏効期間、TPSおよびCPS[combined positive score:(腫瘍細胞、リンパ球、マクロファージにおけるPD-L1発現細胞/総腫瘍細胞数)×100]によるサブグループ毎のOS、患者報告アウトカム(PRO、FACT-E)および安全性(NCI-CTCAE v4.0)であった。

 PFSの最終解析はTPS≧1%のCF療法群で136イベントが発生した後(最低観察期間は12ヵ月)に実施され、同時にOSの中間解析も実施された。

 2017年6月から2019年11月の間に26ヵ国182施設の1,358例がスクリーニングされ、970例が無作為に割り付けられた(Nivolumab+CF療法群321例、Nivolumab+Ipilimumab療法群325例、CF療法群324例)。患者背景は全体集団およびTPS≧1%集団において治療群間の偏りは認めなかった。70%の症例(970例中680例)はアジアから登録され、49%の症例(970例中473例)がTPS≧1%であった。主な治療終了理由は増悪であり、Nivolumab+CF療法群の59%(310例中184例)、Nivolumab+Ipilimumab療法群の54%(322例中174例)、CF療法群の63%(304例中193例)は増悪により治療終了となった。

【Nivolumab+CF療法の有効性】
 13ヵ月の観察期間の時点で、TPS≧1%集団におけるOS中央値はNivolumab+CF療法群で15.4ヵ月(95% CI: 11.9-19.5ヵ月)、CF療法群で9.1ヵ月(95% CI: 7.7-10.0ヵ月)であり、Nivolumab+CF療法群が有意に上回った(HR=0.54、99.5% CI: 0.37-0.80、p<0.001)。全体集団のOS中央値はNivolumab+CF療法群で13.2ヵ月(95% CI: 11.1-15.7ヵ月)、CF療法群で10.7ヵ月(95% CI: 9.4-11.9ヵ月)であり、Nivolumab+CF療法群が有意に上回った(HR=0.74、99.1% CI: 0.58-0.96、p=0.002)。

 TPS≧1%集団におけるPFS中央値はNivolumab+CF療法群で6.9ヵ月(95% CI: 5.7-8.3ヵ月)、CF療法群で4.4ヵ月(95% CI: 2.9-5.8ヵ月)であり、Nivolumab+CF療法群で有意に上回った(HR=0.65、98.5% CI: 0.46-0.92、p=0.002)。全体集団のPFS中央値はNivolumab+CF療法群で5.8ヵ月(95% CI: 5.6-7.0ヵ月)、CF療法群で5.6ヵ月(95% CI: 4.3-5.9ヵ月)であり、事前に設定された有意水準0.015を下回ることはできなかった(HR=0.81、98.5% CI: 0.64-1.04、p=0.04)。

 奏効割合はTPS≧1%集団においてNivolumab+CF療法群で53%、CF療法群で20%、全体集団においてNivolumab+CF療法群で47%、CF療法群で27%と、Nivolumab+CF療法群で高かった。奏効期間はTPS≧1%集団においてNivolumab+CF療法群で8.4ヵ月、CF療法群で5.7ヵ月、全体集団においてNivolumab+CF療法群で8.2ヵ月、CF療法群で7.1ヵ月であり、Nivolumab+CF療法群で長かった。完全奏効割合はTPS≧1%集団においてNivolumab+CF療法群で16%、CF療法群で5%、全体集団においてNivolumab+CF療法群で13%、CF療法群で6%であり、Nivolumab+CF療法群で高かった。

【Nivolumab+Ipilimumab療法の有効性】
 TPS≧1%集団におけるOS中央値はNivolumab+Ipilimumab療法群で13.7ヵ月(95% CI: 11.2-17.0ヵ月)、CF療法群で9.1ヵ月(95% CI: 7.7-10.0ヵ月)であり、Nivolumab+Ipilimumab療法群で有意に良好であった(HR=0.64、98.6% CI: 0.46-0.90、p=0.001)。全体集団のOS中央値はNivolumab+Ipilimumab療法群で12.7ヵ月(95% CI: 11.3-15.5ヵ月)、CF療法群で10.7ヵ月(95% CI: 9.4-11.9ヵ月)であり、Nivolumab+Ipilimumab療法群が有意に上回った(HR=0.78、98.2% CI: 0.62-0.98、p=0.01)。

 TPS≧1%集団におけるPFS中央値はNivolumab+Ipilimumab療法群で4.0ヵ月(95% CI: 2.4-4.9ヵ月)、CF療法群で4.4ヵ月(95% CI: 2.9-5.8ヵ月)であり、統計学的有意差は示されなかった(HR=1.02、98.5% CI: 0.73-1.43、p=0.90)。そのため、全体集団におけるPFSは比較されなかった。

 奏効割合はTPS≧1%集団においてNivolumab+Ipilimumab療法群で35%、CF療法群で20%、全体集団においてNivolumab+Ipilimumab療法群で28%、CF療法群で27%であり、TPS≧1%集団ではNivolumab+Ipilimumab療法群で高かった。奏効期間はTPS≧1%集団においてNivolumab+Ipilimumab療法群で11.8ヵ月、CF療法群で5.7ヵ月、全体集団においてNivolumab+Ipilimumab療法群で11.1ヵ月、CF療法群で7.1ヵ月であった。完全奏効割合はTPS≧1%集団においてNivolumab+Ipilimumab療法群で18%、CF療法群で5%、全体集団においてNivolumab+Ipilimumab療法群で11%、CF療法群で6%でありNivolumab+Ipilimumab療法群で高かった。

【サブグループ解析】
 サブグループ解析では、TPS≧1%集団、全体集団ともにいずれのサブグループにおいてもNivolumab+CF療法群およびNivolumab+Ipilimumab療法群がCF療法群より良好なOSを示した。TPSのカットオフを1%、5%、10%としてもハザード比は一貫して1未満であった。

 TPS<1%集団では、いずれの治療群もOS中央値は約12ヵ月でPFSの延長効果も示されなかった。しかし、Nivolumab+CF療法群はCF療法群より高い奏効割合を示し(42% vs. 34%)、Nivolumab+CF療法群およびNivolumab+Ipilimumab療法群はCF療法群より12ヵ月以上奏効した患者の割合が高かった(それぞれ38%、47%、27%)。

 CPS≧1%となる症例は91%(906例中824例)であり、Nivolumab+CF療法群、Nivolumab+Ipilimumab療法群、CF療法群のOSはそれぞれ13.8ヵ月、12.7ヵ月、9.8ヵ月であった。CPS<1%の症例は9%(906例中82例)と少数であったが、Nivolumab+CF療法群、Nivolumab+Ipilimumab療法群、CF療法群のOSはそれぞれ9.9ヵ月、11.5ヵ月、12.1ヵ月であった。

【治療期間と有害事象】
 治療期間の中央値は、Nivolumab+CF療法群、Nivolumab+Ipilimumab療法群、CF療法群でそれぞれ、5.7ヵ月、2.8ヵ月、3.4ヵ月であった。

 Grade 3-4の治療関連有害事象の発生割合はNivolumab+CF療法群、Nivolumab+Ipilimumab療法群、CF療法群でそれぞれ47%、32%、36%でありNivolumab+CF療法群で高かった。重篤な治療関連有害事象の発生割合はNivolumab+CF療法群、Nivolumab+Ipilimumab療法群、CF療法群でそれぞれ24%、32%、16%でありNivolumab+CF療法群、Nivolumab+Ipilimumab療法群で高かった。また、治療中止に至った治療関連有害事象の発生割合はNivolumab+CF療法群、Nivolumab+Ipilimumab療法群、CF療法群でそれぞれ34%、18%、19%でありNivolumab+CF療法群で高かった。治療関連死亡は各群2%であった。免疫関連有害事象はほとんどがgrade 1-2であった。

 49週までのFACT-Eスコアはいずれの治療においても治療前より上昇しており、治療期間中に健康関連QOLが保たれていることが示唆された。また、Nivolumab+Ipilimumab療法群において有害事象に困っていないと報告する割合はNivolumab+CF療法群、CF療法群よりも高かった。

 以上、未治療の切除不能進行・再発食道扁平上皮癌の1次治療として、Nivolumab+CF療法およびNivolumab+Ipilimumab療法はCF療法と比較し有意にOSを延長し、持続的奏効を示した。毒性は各治療群において既知の範囲内であった。


日本語要約原稿作成:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 伏木 邦博



監訳者コメント:
切除不能進行・再発食道扁平上皮癌に対する新たな標準治療の確立と課題

 切除不能進行・再発食道癌の1次治療として、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)+化学療法のみならず、ICI二剤併用療法の、化学療法単独に対する全生存期間(OS)における優越性が示された。本邦実診療と同じく、扁平上皮癌を対象とし、化学療法が4週サイクルのCisplatin+5-FU(CF)療法であること、および日本人を含むアジア人が主な対象であることから、Nivolumab(NIVO)+CF療法およびNIVO+Ipilimumab(IPI)併用療法は、本邦における同疾患の新たな標準1次治療と位置づけられるべきである。

 ただし、課題も残る。PD-L1発現が腫瘍内<1%またはcombined positive score<1集団において、NIVO+CF療法、NIVO+IPI併用療法ともその効果が十分ではない可能性がある。また、NIVO+IPI併用療法においては、早期の進行・死亡に至る一部の無効集団の存在が示唆される。

 一方、ATTRACTION-3において示唆されたように、ICIの効果が無増悪生存期間において明らかでない場合でも、おそらくICIによる後治療の効果増強によるOS延長を期待し得る7)。また、投与時間が短く入院を要さないことは、NIVO+CF療法と比較したNIVO+IPI併用療法の大きな利点である。

 より適切な患者集団の選択、およびNIVO+CF療法とNIVO+IPI併用療法、さらに先行して承認を得たPembrolizumab+CF療法5)との使い分けについて、今後の検討を要す。

監訳・コメント:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 對馬 隆浩

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