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12月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

胃癌 食道胃接合部癌

FGFR2b陽性の胃・食道胃接合部腺癌患者におけるBemarituzumab(FIGHT):無作為化二重盲検プラセボ対照第II相試験


Zev A Wainberg, et al.: Lancet Oncol. 23(11): 1430-1440, 2022

背景
 HER2陰性胃癌に対しては化学療法±Nivolumab療法が推奨されている。HER2陰性進行胃癌の生存期間中央値は約12~14ヵ月であり、効果的な新規分子標的薬が望まれる。

 線維芽細胞増殖因子受容体2(FGFR2)の異常なシグナル伝達は胃癌における有望な薬剤標的である。FGFR2遺伝子増幅やFGFR2のスプライスバリアントであるFGFR2bタンパクの過剰発現は胃癌で認められ1)、予後不良との関連性が指摘されている2-6)。Bemarituzumab(FPA144)はFGFR2bの細胞外ドメインに結合することでFGFR2bの活性化を阻害し、FGFR2b発現陽性の腫瘍細胞に対して抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)による抗腫瘍効果を発揮するヒト化IgG1モノクローナル抗体である7-9)。Bemarituzumabはフコシル化が生じないように設計することで(注:抗体のFc領域を構成する糖鎖のうちフコースを除去することでADCC活性を高めるよう設計された抗体/技術)、FcγRIIIa(CD16a)の活性化、NK細胞に対するBemarituzumabの結合親和性の増加、ADCC活性の増強が示された抗体薬である。Bemarituzumabを用いた第I相試験では、FGFR2遺伝子増幅やFGFR2b過剰発現を伴う化学療法抵抗性の胃癌において、5/28例(18%)に抗腫瘍効果が認められた10)

 FIGHT試験は、HER2陰性かつFGFR2b陽性の進行胃・食道胃接合部腺癌に対する1次治療としてのmFOLFOX6療法にBemarituzumabを上乗せすることの有効性および安全性を検証した二重盲検無作為化第II相試験である。

方法
 FIGHT試験は17ヵ国の144施設で実施された。主な選択基準は、18歳以上、切除不能または再発の胃・食道胃接合部腺癌、ECOG PS 0-1、諸臓器機能が保たれている、RECIST v1.1における評価可能病変を有するなどであった。周術期化学療法の既往がある場合には、終了後6ヵ月以上経過していること、かつ画像評価において病勢進行が確認されていることが必要であった。症例は中央判定でIHCによるFGFR2b陽性とctDNAによるFGFR2遺伝子増幅がプレスクリーニングされ、いずれかのアッセイによる陽性判定が必須であった。なおIHCによるFGFR2b陽性は細胞膜における2+もしくは3+の染色強度が腫瘍細胞で陽性である、と定義された。主な除外基準はHER2陽性、中枢神経浸潤、FGF-FGFR経路を選択的に阻害する薬剤の投与歴、臨床的に重要な網膜障害であった。各施設で判定されたHER2陽性例は本試験から除外されたが、HER2未検査の症例は組み入れられた。ctDNAによるNGS検査は約2週間を要するため、プレスクリーニング中に主治医判断で1サイクルのmFOLFOX6療法の投与が許容された。

 本試験は当初、症例数を540例に設計し第III相試験として開始された。著者らは、既報の通りFGFR2b陽性症例の多くがFGFR2遺伝子増幅を有すると想定していたが、試験実施中にFGFR2遺伝子増幅を認めないFGFR2b陽性が多数を占めることが明らかになったため、試験への登録が滞り、検証的第III相試験からBemarituzumabの有効性を評価する第II相試験へ試験デザインが変更された(2021年3月10日)。

 適格症例はmFOLFOX6+BemarituzumabもしくはmFOLFOX6+プラセボ療法(Bemarituzumabもしくはプラセボ[15mg/kg、day 1、2週毎および7.5mg/kg、1サイクル目day 8]、mFOLFOX6[Leucovorin 400mg/m2、day 1、5-FU 400mg/m2、day 1および1,200mg/m2、day 1-2、Oxaliplatin 85mg/m2、day 1、2週毎])に1:1で割り付けられた。割付調整因子は地域、過去の根治的治療有無、FGFR2bプレスクリーニング期間中のmFOLFOX6(1サイクル)の投与有無であった。主治医と被検者は治療開始から試験終了まで二重盲検化された。角膜障害以外のgrade 3以上の有害事象が生じた際は、Bemarituzumabの投与を休止し、28日以内にgrade 1以下に改善した場合には同量で投与再開するか、6mg/kgへ減量して再開とした。また2回目のgrade 3以上の有害事象が生じた場合には、改善後Bemarituzumabの減量、3回目にgrade 3以上の有害事象が生じた場合はBemarituzumabの投与は中止し、mFOLFOX6の投与を継続するプロトコールであった。

 画像評価は治療開始後12ヵ月目までは8週毎(±7日)、13ヵ月目以降は12週毎(±14日)に実施された。眼疾患の評価は治療開始時、治療期間中8週毎、および最終投与から100日以内に視力低下もしくは視覚障害が認められた場合に行われた。

 主要評価項目はPFSであった。なお主要評価項目は本試験が第III相試験から第II相試験に変更された際に変更された。当初第III相試験での主要評価項目はOSであったため、PFSの独立判定機関による評価は行われなかった。副次評価項目はOS、ORR、安全性等であった。本試験の統計設定は以下の通りである。PFSにおいて試験治療が標準治療に対してHR=0.67の優越性を示すことを片側有意水準0.10、検出力71%で検定した場合、84のイベントが必要であり、必要な症例数は155例と算出された。また、gatekeeping法を用いた多重性の調整を行い、OS、ORRの優越性検定は有意水準0.10片側検定として階層的に行われた。有効性の解析対象集団はITTとした。FGFR2b陽性割合が5%以上、10%以上のサブグループを対象に有効性の解析を行うことが事前に設計された。またpost-hocでFGFR2b陽性割合が5%未満の集団に対しても有効性の解析が行われた。

結果
 2017年11月14日?2020年5月8日に910例を対象にプレスクリーニングを実施し、274例(30%)にFGFR2b過剰発現(262例[29%])もしくはFGFR2遺伝子増幅(38例[4%])が認められ(両アッセイ陽性26例[2.9%])、そのうち155例が無作為化された(FGFR2b過剰発現149例[96%]、FGFR2遺伝子増幅26例[17%]、両アッセイ陽性20例[13%])。Bemarituzumab+mFOLFOX6群の76/77例(99%)、プラセボ+mFOFLOX6群の77/78例(99%)が1回以上の規定治療を受け、治療期間中央値は各群で24週(IQR: 16.1-33.8)、26週(16.0-37.7)であった。後治療は試験治療が終了したBemarituzumab+mFOLFOX6群の33/63例(52%)、プラセボ+mFOLFOX6群の34/70例(49%)に行われた。

 主要評価項目は92/155例(59%)にイベントが発生した時点で解析され、観察期間中央値は10.9ヵ月であり、データカットオフ時点でBemarituzumab+mFOLFOX6群の18/77例(23%)、プラセボ+mFOLFOX6群の8/78例(10%)が治療継続中であった。PFS中央値はBemarituzumab+mFOLFOX6群で9.5ヵ月(95% CI: 7.3-12.9)、プラセボ+mFOLFOX6群で7.4ヵ月(95% CI: 5.8-8.4)であった(HR=0.68、95% CI: 0.44-1.04、p=0.073)。OS中央値はBemarituzumab+mFOLFOX6群で未到達(13.8-NR)、プラセボ+mFOLFOX6群で12.9ヵ月(9.1-15.0)であった(HR=0.58、95% CI: 0.35-0.95、p=0.027)。観察期間中央値19.2ヵ月時点でのOS中央値は各群で19.2ヵ月(13.6-NR)、13.5ヵ月(9.3-15.9)であった(HR=0.60、95% CI: 0.38-0.94)。

 事前に計画された探索的解析として、FGFR2b陽性割合別のサブグループ解析がなされた。腫瘍細胞におけるFGFR2b陽性割合が5%以上の集団において、PFS中央値は10.2ヵ月 vs. 7.3ヵ月(HR=0.54、95% CI: 0.33-0.87)、OS中央値はNR vs. 12.5ヵ月(HR=0.52、95% CI: 0.30-0.91)であり、腫瘍細胞におけるFGFR2b陽性割合が10%以上の集団におけるPFS中央値は14.1ヵ月 vs. 7.3ヵ月(HR=0.44、95% CI: 0.25-0.77)、OS中央値はNR vs. 11.1ヵ月(HR=0.41、95% CI: 0.22-0.79)であった。腫瘍細胞におけるFGFR2b陽性割合が5%未満の集団におけるPFS中央値は8.8ヵ月 vs. 9.0ヵ月(HR=0.85、95% CI: 0.35-2.13)、OS中央値は12.4ヵ月 vs. 14.0ヵ月(HR=0.96、95% CI: 0.36-2.56)であった。FGFR2b陽性例のみ、FGFR2遺伝子増幅陽性例のサブグループについてもBemarituzumab+mFOLFOX6群のPFS、OSにおける良好な傾向は一致していた。

 ORRはBemarituzumab+mFOLFOX6群で47%、プラセボ+mFOLFOX6群で33%であり、両群間のORRの差は13%であった(95% CI: -3-29、p=0.11)。DoR中央値は各々12.2ヵ月(95% CI: 5.5-15.6)、7.1ヵ月(4.3-11.7)であった。測定可能病変を有する126例では、ORRは各々53%、40%であった。

 Grade 3以上の主な有害事象は好中球減少(30% vs. 35%)、角膜障害(24% vs. 0%)、口内炎(9% vs. 1%)、貧血(8% vs. 13%)であった。また、重篤な有害事象はBemarituzumab+mFOLFOX6群で12%、プラセボ+mFOLFOX6群で19%であった。治療関連死亡はBemarituzumab+mFOLFOX6群において3例(敗血症2例、肺炎1例)であった。全gradeにおける角膜障害はBemarituzumab+mFOLFOX6群の67%に生じ、発症期間中央値は16.1週である一方、プラセボ+mFOLFOX6群ではそれぞれ10%、11.6週であった。Grade 2以上の角膜障害はBemarituzumab+mFOLFOX6群の46%、プラセボ+mFOLFOX6群の8%に生じ、Bemarituzumab+mFOLFOX6群の26%でBemarituzumabの投与が中止された。

まとめ
 HER2陰性のFGFR2b陽性切除不能進行・再発胃・食道胃接合部腺癌に対して、1次治療におけるmFOLFOX6療法へのBemarituzumabの上乗せ効果は、PFSにおけるlog-rank検定で有意水準片側α=0.10に対してp=0.073<0.20であり、統計学的有意差を認めたが、結論としては「統計学的優越性を示すことができなかった(addition of Bemarituzumab to mFOLFOX6 did not significantly change progression-free survival compared with placebo)」と記されている。これは、本試験が途中で第II相試験に変更され、主要評価項目をPFSに変更した上で症例数設計や有意水準が変更されたことに関してreviewerからの指摘を受け、解釈に関する表現を配慮・変更したのではないかと邪推する。Bemarituzumabの上乗せによって、FGF-FGFR経路の阻害に起因すると推測される角膜障害と口内炎は増加する傾向が認められたが、適切な支持療法により管理可能であった。また、他の経口FGFR阻害剤で認められる網膜色素上皮剥離は、Bemarituzumabでは認められなかった。

 CheckMate-649試験では、HER2陰性切除不能進行再発胃癌における1次治療での化学療法+Nivolumab併用療法の有効性が検証され、PD-L1 CPS≧5の集団におけるPFS・OSの優越性、および全体集団におけるOSの優越性が示された。この結果から、HER2陰性切除不能進行再発胃癌に対する化学療法+Nivolumab併用療法が、1次治療の標準治療の1つに位置づけられている。本試験ではPD-L1発現は測定されておらず、HER2陰性FGFR2b陽性切除不能進行再発胃癌に対する1次治療への抗FGFR2b抗体上乗せの意義は不明である。

 本試験ではHER2陰性のFGFR2b陽性切除不能進行再発胃癌の1次治療におけるBemarituzumabの上乗せはPFSを統計学的有意に改善することはできなかったと結論されているが、同対象におけるBemarituzumab上乗せの臨床的な有効性は示唆されたため、検証的な第III相試験(FORTITUDE-101: NCT05052801)、およびmFOLFOX6+NivolumabにBemarituzumabを上乗せする第Ib/III相試験(FORTITUDE-102: NCT05111626)が実施中・計画中であり、その結果が待たれる。


日本語要約原稿作成:慶應義塾大学医学部内科学教室(消化器) 下嵜 啓太郎



監訳者コメント:
今後の胃癌薬物療法のさらなる個別化の進展と予後の改善に期待

 現在までに承認されたFGFR阻害薬は、①Erdafitinib、②Infigratinib、③Futibatinib、④Pemigatinibがあるが、いずれもFGFR2融合遺伝子または遺伝子再構成を主な対象としたチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であり、本邦での承認薬剤は④のみである。一方、FIGHT試験で用いられたBemarituzumabは、モノクローナル抗体薬であること、さらに対象がFGFR2b陽性胃癌というように蛋白発現である点が、これまでの薬剤とは異なっている。

 胃癌では、二次化学療法においてFGFR2ポリソミーまたは遺伝子増幅を有する患者を対象として、Paclitaxel療法とAZD4547(TKI)を比較するランダム化第II相試験(SHINE試験)11)が行われた。主要評価項目であるPFSにおいて、AZD4547の統計学的に有意な改善は認められず(むしろ生存曲線はやや下回る)、胃癌に対するFGFR阻害薬の開発は難しいと思われた。

 Bemarituzumabは、Fc領域のフコースを除去することでADCC活性を高めるよう設計されたモノクローナル抗体であり、TKIと比較して毒性プロファイルの改善が期待される。事実、FIGHT試験では良好なPFSとOS、そして高い安全性が示された。一方で、特徴的な有害事象である角膜障害が報告されており、低頻度であるものの注意が必要な有害事象である。

 最近、Claudin 18.2阻害剤であるZolbetuximabがSPOTLIGHT試験においてPFSおよびOSの延長を認め、ポジティブな結果であったことがプレスリリースされた12)。さらに現在、Bemarituzumabの第III相試験(FORTITUDE-101: NCT05052801、Nivolumab併用のFORTITUDE-102: NCT05111626)が進行中であり、今後の胃癌薬物療法のさらなる個別化の進展と予後の改善が期待される。

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  •  12) https://www.astellas.com/jp/news/26821

監訳・コメント:杏林大学医学部腫瘍内科学 廣中 秀一

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