ケースカンファレンス〜トップオンコロジストはこう考える〜
監修中島 貴子 先生聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学
日常診療で遭遇する症例を取りあげ、トップオンコロジストが治療方針を議論するケースカンファレンスをお届けします。
CASE5
2017年10月開催
胃癌・下咽頭癌・食道癌の重複癌
に対する治療戦略
- 牧山 明資 先生
JCHO 九州病院
血液・腫瘍内科 - 加藤 健 先生
国立がん研究センター
中央病院 消化管内科
- 黒川 幸典 先生
大阪大学大学院
医学系研究科 外科学講座
消化器外科学 - 坂井 大介 先生
大阪大学大学院
医学系研究科 先進癌薬物療法開発学寄附講座
ディスカッション 1 重複癌の1st-lineとしての治療選択肢Discussion 1
重複癌のステージングと治療選択をどう行うか?
牧山本症例は63歳の男性です。約半年前から咽頭痛を訴え、CT検査では喉頭蓋の隆起性病変に加えて胃小彎側のリンパ節腫大を認め(図1)、内視鏡検査では胃癌および食道癌を合併していることが判明しました(図2)。さらに、PETおよびMRIで骨転移が判明し(図3)、化学療法の相談を目的として当科を受診されました。家族歴や合併症は特になく、現症はPSが1、咽頭痛以外の身体所見は認めませんでした。血液検査では、ヘモグロビン値の若干の低下を認めたものの、それ以外は特に問題はありませんでした。こうした所見から、臨床的には多発骨転移を認める胃癌(T3N1)、下咽頭癌(T3N2c)、食道癌(T1bNX)の重複癌と診断されました。
骨転移をどう捉えるか?
牧山今回のように骨転移を伴う重複癌の場合、骨転移の原発部位の考察を含め、どのようなことを考慮して治療方針を決定しますか。
加藤食道癌は早期癌であり、骨転移の可能性は低く、下咽頭癌と、胃癌の進行度ならびに骨転移の頻度は同等ですが、Type3かつ、低分化型であることを考慮すると、本症例の骨病変は胃癌の可能性が高いと推測します。手堅くいくのであれば骨生検を実施して胃癌の転移であるという確証を得てから治療を検討するほうがよいと思いますが、胃癌の骨転移はそれ自体が最も重要な予後規定因子ですから、すぐに化学療法を開始すべきでしょう。また、喉のつかえ感などの症状がある場合、咽頭にはどこかのタイミングで放射線療法を行うことになると思いますが、口腔内に照射するとQOLが低下する恐れがあるので、比較的若い患者さんですし、まずは化学療法で腫瘍縮小を目指すことが先決だと思います。
黒川Stageから考えると、骨病変は下咽頭癌か胃癌の転移だと思いますので、耳鼻科と相談して下咽頭癌の可能性について確認します。われわれは組織型によって化学療法レジメンを変えていますので、まずは鑑別診断を行うことが重要です。PETでは、下咽頭にFDGの集積を認めたのでしょうか。
牧山はい、十分な集積を確認しています。
黒川胃でも下咽頭でも病変にFDGが集積しているとなると、画像だけで判断するのは難しいですね。骨生検まで行うかどうか、悩ましいところです。
牧山黒川先生のご施設では、キャンサーボードなどで、このような症例について議論することはありますか。
黒川はい。治療方針に迷うような症例は、内科と外科で一緒に議論して治療方針を決めています。
重複癌の1st-lineとしての治療選択肢
牧山先ほど、加藤先生には本症例に対して化学療法を実施することが望ましいとコメントをいただきましたが、どのようなレジメンを選択されますか。
加藤胃癌、下咽頭癌、食道癌への効果が期待できるDCF療法を2〜3コース施行し、腫瘍縮小が得られたら維持療法のような形でSOX療法や胃癌のレジメンを選択することが望ましいと思います。そして、どこかのタイミングで下咽頭に放射線療法を施行します。
牧山胃癌の骨転移の可能性が高いと考えるが、治療方針としては3種類の癌種に有効な可能性があるDCF療法を選択するということですね。転移性骨腫瘍の頻度は、原発臓器が胃では22.5%、頭頸部では30.7%、食道では24.6%ということが四国がんセンターから報告されており1)、いずれの癌でも骨転移の可能性があります。MRIなどの画像による造骨性パターンでみると消化器癌からの転移の可能性が高いとも考えられますが2)、混合している場合もありますから断定はできません。正確性を追求するのであれば骨生検まで実施することが望ましいのですが、侵襲性などの問題も考慮しなくてはいけません。重複癌には、「各腫瘍が一定の悪性像をもつこと」、「発生部位が異なること」、「一方が他方の転移でないこと」、という定義があります3)。また、国内調査では頭頸部癌症例の約14.5%が重複癌であることが報告されており4)、食道、頭頸部、胃、肺の順に多いことが分かっています。一方、日本食道学会の全国調査では、食道癌症例の約20%に重複癌を認め、同時性癌は8%、異時性癌は12.2%、重複癌の種類は胃癌、頭頸部癌(喉頭癌)、大腸癌、肺癌の順に多いことが報告されており5)、全国的にみても重複癌症例は一定数存在すると考えられます。重複癌の治療方針についてはガイドラインがあるわけではありませんが、当科では以下のことを考慮して治療方針を決定しています。まず、予後を規定する癌種の治療を優先します。最も予後不良の癌種が根治切除不能であれば、他の癌種も原則として切除適応にはならないでしょう。もし、予後が同じ程度と予測され、切除不能だった場合には、いずれの癌種にも効果を発揮する可能性があるレジメンを優先的に選択、あるいは、症状の原因となっている癌に効果を発揮する可能性があるレジメンを優先的に選択します。本症例は骨転移を伴うので、どの癌種も切除を選択する可能性は低いでしょう。各癌種の治療という観点でみると、胃癌では5-FU+プラチナ製剤療法3)、下咽頭癌では転移がなければプラチナ製剤併用化学放射線療法、転移があればFP療法やFP+Cetuximab療法、プラチナ耐性であればNivolumab4)、食道癌では化学療法またはプラチナ製剤併用化学放射線療法5)が選択肢になります。また、頭頸部癌局所進行例の導入化学療法で併用されるFP+Docetaxel6)は胃癌・食道癌においても薬効が期待され、選択肢に挙がるかもしれません。
治療レジメンとして坂井先生は何を選択されますか。
坂井下咽頭癌にも効果を期待するのであればTaxane系抗癌剤を使用したいので、DCF療法またはDCS療法、さらにはDOS療法まで選択肢になると思います。話はそれますが、Denosumabやゾレドロン酸などの骨転移に対する治療の併用も検討すべきだと思われます。
牧山坂井先生の仰るとおりで、骨転移に対する治療も必要かと思います。本症例に関してはゾレドロン酸の併用を行っております。黒川先生はレジメン選択についていかがですか。
黒川他科の先生方の意見も聞いた上でレジメンを決めていますが、個人的にはDOS療法を選択することが多いです。
牧山先生方の意見をまとめると、FU系薬剤・プラチナ系薬剤に加えTaxane系薬剤を含めた治療を選択される先生が多いようですね。
GI cancer-net
消化器癌治療の広場