ケースカンファレンス〜トップオンコロジストはこう考える〜

監修中島 貴子 先生聖マリアンナ医科大学
臨床腫瘍学

日常診療で遭遇する症例を取りあげ、トップオンコロジストが治療方針を議論するケースカンファレンスをお届けします。

CASE5

2017年10月開催

胃癌・下咽頭癌・食道癌の重複癌
に対する治療戦略

  • 牧山 明資 先生牧山 明資 先生
    JCHO 九州病院
    血液・腫瘍内科
  • 加藤 健 先生加藤 健 先生
    国立がん研究センター
    中央病院 消化管内科
  • 黒川 幸典 先生黒川 幸典 先生
    大阪大学大学院
    医学系研究科 外科学講座
    消化器外科学
  • 坂井 大介 先生坂井 大介 先生
    大阪大学大学院
    医学系研究科 先進癌薬物療法開発学寄附講座

症例プロファイルProfile

患者 63歳、男性
主訴 咽頭痛
合併症 特になし
家族歴 特になし

現病歴

約半年前から咽頭痛を訴え、CT検査では右梨状窩の隆起性病変に加えて胃小弯側リンパ節腫大を認め、内視鏡検査では胃癌および食道癌の合併が判明。さらに、PETおよびMRIで骨転移が判明し、化学療法の相談を目的として当科を受診。

初診時現症

  • 身長166 cm、体重49 kg
  • PS 1
  • 体温 36.4℃
  • 血圧 93/60 mmHg
  • 脈拍 64回/分
  • SpO2 98%
  • 身体所見 咽頭痛
  • 表在リンパ節触知および胸膜部異常所見なし

検査所見

【初診時血液検査】

CBC
WBC 6.6 ×103/μL
Neutro 62.8%
Hb 12.5 g/dL
Plt 35.1 ×104/μL
凝固系
PT 13.0 sec
INR 1.09
APTT 29.3 sec
生化学
TP 6.7 g/dL
Alb 3.8 g/dL
T-Bil 0.6 mg/dL
AST 17 U/L
ALT 8 U/L
ALP 260 U/L
LDH 160 U/L
γ-GTP 40 U/L
BUN 12 mg/dL
Cr 0.77 mg/dL
Na 142 mEq/dL
K 4.7 mEq/dL
Cl 103 mEq/dL
CRP 0.11 mg/dL
SCC 1.2 ng/mL
CEA 2.6 IU/mL

【CT画像】

  • 両側披裂喉頭蓋ヒダから梨状窩にかけて腫瘤増大
  • 右中内神経リンパ節腫大、胃小弯側にリンパ節腫大
  • 食道病変は指摘困難

【喉頭・上部消化管内視鏡所見】

  • 喉頭:右披裂部腫脹を認め、下部食道まで連続して存在
  • 食道:多発するIIc型早期食道癌
  • 胃:胃体上部後壁から大弯にかけての3型進行癌
      胃体上部小弯に0-I型早期癌

【PET・MRI画像】

  • FDG-PET:両側声門上から下咽頭にかけてFDG集積。右中内深頸領域に集積を伴うリンパ節腫大。胃小弯側に集積を伴うリンパ節腫大。胸部下部食道や胃体上部後壁に高集積を認める。胸腰椎へのFDG集積が不均一に亢進(L3など)。
  • MRI:胸椎から腰椎、仙椎にかけて多数の異常信号域(T1WI・T2WI低信号)、腰椎L3椎体左側から椎弓根にかけてT1WI・T2WI低信号域を認める。脊髄圧迫所見なし。

【臨床診断】

  • #下咽頭癌(T3N2c)
  • 組織 SCC
  • #胃癌(T3N1)
  • 組織 tub2-por、HER2陰性(IHC 1+)
  • #食道癌(T1bNX)
  • 組織 SCC
  • #多発骨転移(M1)、肺転移疑い
  • ※上記N因子について組織学的診断は得られていない

治療経過

<治療経過1>

SP療法(full dose)を導入したが1コース治療中に発熱性好中球減少症にて約1ヵ月間の入院加療を要し、低アルブミン血症やPSの低下を認めた。
全身状態改善後にS-1単剤にて治療再開した。約2ヵ月後の評価CTで胃小弯リンパ節の増大を認めたが下咽頭癌と食道癌については増悪を認めなかった。CDDPの再導入は初回投与時の有害事象から患者が拒否されたため、増悪した胃癌に対する治療効果を期待してL-OHPを併用する方針とした。

<治療経過2>

SOX療法を導入して治療再開し、約2ヵ月後の評価CTで胃小弯リンパ節の病勢制御は得られたが、下咽頭癌および右中内神経リンパ節の明らかな増大を認めた。同部の疼痛および嗄声症状を呈した。

【CT画像】

  • 既知の下咽頭癌の増大と右中内神経リンパ節の増大
  • 胃小弯側のリンパ節腫大はSOX療法開始前と比較して変化なし(SOX療法開始前画像は割愛)
  • 食道病変は指摘困難

<治療経過3>

耳鼻科・放射線科と相談にて下咽頭癌が進行した場合、気道狭窄で致死的になる可能性もあり、こちらに対する局所治療の適応ありとの判断であった。ただし根治的CRTでは有害事象が懸念されるため、RT単独で照射する方針とした。

<治療経過4>

照射後に下咽頭癌と周囲リンパ節は著明な縮小を認め、自覚症状も改善した。しかしながら胃小弯側リンパ節が著明に増大し、CT画像上は胃内腔との交通が疑われた。
現時点で化学療法の副作用が受け入れ難いとのことで積極的な治療は希望されず。また出血や穿孔のリスクも説明の上で、通常通りの生活を可能な範囲で送りたいと希望された。胃原発巣に対する緩和照射40 Gy/16回を行った後に、自宅で療養生活を送りながら外来followする方針とした。

【CT画像(胃原発巣照射前→照射後)】

  • 下咽頭癌とリンパ節はさらに縮小
  • 胃小弯側リンパ節縮小
  • 食道病変は指摘困難
  • 両肺に多発結節影出現および肝転移の出現(単発)

論点

  • 重複癌のステージングと治療選択をどう行うか?
  • 重複癌の2nd-lineとしてどのような治療を選択するか?
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