佐藤:緩和医療、特に精神的サポートがまず優先されるべき症例であることは確かだと思います。こういった症例の患者さんは急速に悪くなっていくということで精神的パニックになり、そのパニックをなんとか抑えてあげるためにもまず緩和医療が必要です。本患者さんは前医で既に予後告知までされており、できるだけ積極的な治療を希望しての紹介入院です。と言っても、確かに積極的治療の適応からはずれた状態ではあります。
瀧内:この症例は化学療法の適用ではないと、久保田先生もおっしゃいましたが、僕もそう思っています。ただ、何らかの形で治療をしてほしいという患者本人の希望が強く、それをかなえてあげるという意味あいでの化学療法、効果を期待するというより、むしろ精神的な満足感を得るがための化学療法は考えられると思います。そういった場合には、臨床試験のdoseではなく、6〜7割程にdose downして治療を行う場合があります。
大村:そうですね。この方に化学療法を行う際は、瀧内先生がおっしゃったように、しっかりとしたインフォームドコンセントが必要です。ご本人とご家族の双方が、化学療法の施行を強く希望されていることが前提条件です。パニック状態ではなく、充分話し合って、そのうえで化学療法を強く希望をされた時のみ行うのが妥当でしょう。どちらか片方が少しでも躊躇されるようでしたら、化学療法は行わずBSCです。もしこの方に化学療法を行うとすれば、どれ位dose downをするかですね。
久保田:インフォームドコンセントのインフォームという部分ですが、正直なところ日本の臨床現場では、完全なインフォームはできません。では、現場でどうするかとなった場合は、インフォームをしないで、コンセントをもらう形になると思います。「今は抗癌剤を投与しない方がいいでしょう」ということを言ってしまう可能性が高いと思いますね。「3ヵ月しか持ちません。抗癌剤は効くけど助かりませんよ。」と本当のインフォームをした時に、患者さんがどう受けとるか、それを冷静に受けとめるだけの強い自我をもっている人はほとんどいないと思います。
佐藤:この患者さんの場合、はっきり「3ヵ月以内」というインフォームがされた上で入院しています。最近は案外、告知が進んでおりますね。但し、現実には告知テクニックが未熟であるにも関わらず、はっきりしたことだけどんどん伝えられてきてしまうということはありますね。告知テクニックも含め、緩和医療技術がこの分野ではとても重要です。
大村:このような高度進行癌の場合、私でしたらご本人にはっきり言わずに、ご家族にのみ「3ヵ月」と言います。それでも、「抗癌剤を使えば腫瘍が小さくなる可能性が2割から3割あります」とお話した場合には、ご家族もご本人も抗癌剤投与を希望される可能性は十分あります。ご家族の考え方、ご本人の考え方、それぞれケースバイケースですが。
久保田:あそこへ行けば別の治療法が期待できるかもしれないと、紹介する病院がある時は「3ヵ月」と言えるのです。私どものような大学病院などでは、もう後がないわけですよね、紹介する先がないから。ここで終わらせないといけない。つまり治療の最終的責任を取るとすると、大村先生が言われたように、ご本人に対し「3ヵ月」とは言えません。