佐藤:この症例の場合、前治療が不十分であるということが問題になると思います。S-1は投与量が少なかったかもしれません。CDDPも単剤投与でした。こうした不十分な治療というのは、副作用を恐れるがゆえなのかもしれませんが、結局、効いていたのか、効いていなかったのかの判断が難しくなってしまいます。十分な治療を行っていれば、この治療が効いているのかいないのかという判断が出来ますから。
瀧内:この例の事前治療で残念だと思ったのは、S-1 failureに対して、CDDP単独を行ったことです。S-1によるfirst lineがfailureした時点で紹介されて来たのであれば、きちっとしたdoseで治療したと思いますね。その時点では、PSも良く、肝機能も良く、十分CPT-11+CDDPが投与できたと思います。PS2〜3の状態では、通常量での抗癌剤の投与は非常に難しいと考えます。third lineのこの時点では少しtoo lateで治療する時期を逸していると思います。
佐藤:CDDP単剤での治療効果は低いですよね。通常second lineにはCPT-11あるいはtaxaneを選択するわけですが、病院によっては、こうした不十分な治療はありうるのですね。今回は架空の症例を提示させていただきましたが、実際、当院でこのような症例に対してCPT-11とCDDPで治療したことがあります。CPT-11は、先程からのお話のように肝毒性が強いので減量したいわけですし、しかしなんとか効果だけはあげなければならない状態でしたから、CDDPを作用増強目的で併用しました。CPT-11 60mg、CDDP 30mg/bodyの減量投与で、1回で肝不全から脱し、良好な経過を得ました。
坂本:それはすごいですね。
瀧内:CDDP単剤で全く効果がなく、CPT-11併用CDDPを実施されたということですから、相乗効果があるといっても、実際ではCPT-11が効いたということですか。
佐藤:もちろんそうです。ですから最初にCPT-11を何らかの形で使っていれば、先生がおっしゃるとおり、問題はなかったのかもしれません。ところで稀に著しく効果が見られる症例がありますよね。瀧内先生がおっしゃったように、増殖速度の速い症例には逆に抗癌剤感受性が高いことがあり、効く症例には効くんです。ただもうあと1週間遅かったらどうなったか、にっちもさっちもいかなかったかもしれない。ですからほんのすこしの差が問題になってくることもあるわけです。
瀧内:最近つくづく思うのは、胃癌の領域でこれだけ効果のある薬剤が増えてきましたから、持ち球を使いきるということが、大変重要で、このような症例には、最初から躊躇なくコンビネーションで治療していく。どこで終りを迎えるか分からない患者さんですから、最初から出し惜しみなく薬剤を使うことです。逆に増殖のゆっくりした転移巣も小さい腫瘍には、小出しにしてシークエンスで治療していく。そうすれば十分長生きされる。これが僕の最近の考えです。
佐藤:つまりは、12月に再発が起こった時点で、半年で再発が起こるほど急速なものだというのを判断すべきだったのですね。それに立ち向かう治療法としては、まずアグレッシブにいくという話ですね。
瀧内:その時点でCPT-11+CDDPをやって、駄目ならtaxaneも出たと思います。
坂本:ASCO2004の討論で、大腸癌についてはスローグローイングなら3剤をゆっくりシークエンシャルに投与し、急速に増殖するものだったら併用でいった方がいいというような発言もありました。
大村:1回目は、S1+CDDPでもよかったのですね。
佐藤:そうですね。5-FUが有効だった可能性もあり得ると思います。前治療がどれだけしっかりなされているかによって、次の発想が変わります。ひどい例では、S-1 40〜60mg/日を投与して効かないという例もありました。このようにS-1が効いていないのか、コンプライアンスが悪くて効かないのかが分からない状況も時々経験します。
坂本:S-1のコンプライアンスはこれだけの情報ではよくわかりませんね。
大村:この方の場合は、third lineに何を使うべきかという議論よりも、first lineとsecond lineに用いた薬剤について反省する方が重要かもしれませんね。