大村:胸部下部食道(Lt)から腹部食道(Ae)にかけての胸部食道癌で、Barrett食道から発生したと考えられます。しかも、Virchowリンパ節転移があるということはN4ですので、私はまず放射線化学療法を行います。扁平上皮癌の場合にはCDDP/5-FUがゴールデンスタンダードですが、本症例はadenocarcinomaですので、組織学的に考えて、LV/5-FUに放射線療法を併用するのが効果的だと思います。Mayo regimenに放射線療法を併用した補助療法のデータが報告されていますし、直腸の腺癌に対するLV/5-FUと放射線療法の併用効果も報告されています。放射線療法では50〜60Gyを照射し、その反応をみながら手術に踏み切ります。
瀧内:この症例はstage IVaになると思いますが、LV/5-FUと放射線療法により IVa から III あるいは II にstageが下がれば、手術を施行するということですね。CDDPを使わないのは、75歳ということで、ご高齢である点を考慮されたのでしょうか。
大村:年齢よりも、放射線療法とCDDP/5-FUの併用効果が広く認められているのは食道の扁平上皮癌であって、腺癌についてはevidenceがないと考えたからです。
瀧内:佐藤先生、内科医としては、どのような治療法を選択されますか。
佐藤:ご高齢であることと、進行食道癌の腺癌であることの2つがポイントです。T3N4M0で腹腔動脈周囲のリンパ節転移がありますからstage IVaです。日本では食道癌の90%以上が扁平上皮癌で、腺癌は1〜2%と少なく、日本での治療データはほとんどありません。ただ、海外では腺癌は多く、化学療法としてpaclitaxel(TXL)やdocetaxel(TXT)などのtaxane系薬剤の効果が報告されています。しかし、高齢で、食事が通りにくいという状況から、やはり私も放射線化学療法を考えます。ある程度regimenが完成され、認知されているCDDP/5-FUを放射線療法と併用します。JCOG9516 studyで用いられたregimenでよいと思います。CRを目標としますが、場合によっては手術も考慮します。反応がなければ、second line治療に移ることを考えます
瀧内:この場合、化学療法単独という選択肢はありませんか。
佐藤:狭窄症状の改善を第一義に考えると、原発巣に直接効くのは放射線療法です。Nedaplatinなど原発巣に奏効率の高い薬剤もあるのですが、放射線療法ほどの抗腫瘍効果はなかなか実感できません。これは自らの経験ですので、対象のほとんどは扁平上皮癌ではありますが、この点を考えると、放射線療法は外せません。