瀧内:化学療法に放射線療法を併用し、なおかつ手術を行うことは、癒着などの問題もあると考えられ、リスクが大きいというご意見ですね。先ほど、坂本先生からTCF(TXL/CDDP/5-FU)による化学療法のご提案がありましたが、TAX 325 studyでTXT/CDDP/5-FUが初めてCF(CDDP/5-FU)をOS期間において有意に上回ったことが報告されています(ASCO 2005、#4002)。この3剤は食道癌、胃癌ともに適用がありますから、この組み合わせで特にリンパ節を中心に攻撃し、stageが下がった場合には積極的に手術を行うという選択はいかがでしょうか。
大村:やはり、手術の適否は腫瘍の位置や、周囲の臓器の状態によると思います。それと、どこまで化学療法が奏効したかにもよります。ほぼCRになる可能性は十分にあります。それでしたら、必ずしも手術をしなくてもよいと思います。この症例で最も重要なことは、通過障害を改善して体重減少を回復できるようにすることです。
久保田:2〜3年前にASCOで、食道癌に対する放射線化学療法のresponderを無作為に手術施行群と放射線化学療法継続群に分けて検討した結果、両群の予後に差がなかったというドイツからの報告がありました(ASCO 2003、#1001)。少なくとも欧米では、放射線化学療法後の手術の必要はないと判断されています。欧米と日本では手術の質がだいぶ違いますが、私は遠隔転移のある症例に対するadjuvant surgeryに対しては否定的です。全身CRになっていれば手術の必要はありませんし、局所だけ残っている症例というのはきわめて少ない適応しかないということです。
瀧内:いま久保田先生がお話しされたstudyのほかに、フランスのFFCD 9102 study(ASCO 2003、#1002)があります。腺癌と扁平上皮癌が混在している対象群で、治療反応者に対して手術施行と放射線化学療法の継続とではほとんど差がなかったというデータですから、2つの海外studyは同じ結果であるといえます。治療反応者に無理に手術を行う必要はないというのが世界的なコンセンサスだと思います。
坂本:食道癌ではなく膵癌では、症例数が少ない日本からの研究報告ですが、手術施行群のほうが放射線化学療法群よりも結果がよいというデータもあります。ですから、どちらのデータもある程度trialistの想定の範囲内で結論が出てしまっている印象も受けますね。
佐藤:内科医として、外科の先生方のコンセンサスをご教示いただきたいのですが、この症例でも、手術するか、放射線化学療法にするかはまだ流動的でしょうか。
久保田:この症例に対して、最初から手術を選択する外科医はいないと思います。T3N1までは手術適応だと思いますが、T3N3以上では手術は選択しません。Virchowリンパ節と腹部大動脈周囲リンパ節のどちらか1つに転移があれば、手術はしないと思います。
瀧内:私も、stage IVaの場合の治療の基本は放射線化学療法であると考えます。しかし放射線を使用せず、TCFによってstageが下がったときには、手術というオプションもあるのではないかと考え、その点を外科の先生にお聞きしたいと思っていましたが、積極的に手術を施行する選択肢は、国際的なコンセンサスにはないことがわかりました。
大村:放射線化学療法が奏効した症例の手術は困難です。病変周囲にゴムを流し込んだようになっていることもあります。そのような理由で奏効している症例の手術は難しいのですが、逆に効いていなければ効いていないで、病状が進行しているということですから、どちらにしても外科的切除の難易度は高くなります。