瀧内:日本ではまだ少ないですが、今後、Barrett食道は日本でも増えてくると思います。私の内視鏡専門医としての実地臨床からの予測です。
大村:2年ほど前に慶應義塾大学の小澤壯治先生が、Barrett食道は増えていないという報告を出されましたが、今後は増えてくるということでしょうか。
瀧内:増えてくるのはこれからだと思います。
大村:Barrett食道癌が本当に通常の胃癌と生物学的に類似しているのか、同じように治療に反応するのかはまだわからないですね。
坂本:現時点で判明している情報からは胃癌に近いbehaviorであるという印象をもっています
食道癌原発巣のCR判定にも限界がある
佐藤:CRの判定についてお聞きしたいのですが、放射線化学療法が奏効してCRとなった場合、stage IIIなどでは、CT画像上ではまだ壁が厚いことなどがあります。しかし、内腔上は何もありませんし、転移もありませんから、CRと判定するのですが、常に疑問は残っています。
大村:その場合、RECISTでは判定できません。食道壁が多少厚くても膨らみがよく、残存する不染部を適切に生検してネガティブであれば、私は臨床的にCRとしています。
瀧内:『臨床・病理 食道癌取扱い規約 第9版』に記載されたCRに持ち込むのは難しいと思います。例えば、国立がんセンターでは独自の内視鏡的CR判断基準を決めていますが、そこでは、内視鏡が通過すること、複数ヵ所の生検で腫瘤が認められないことがCRの条件として規定されており、いま大村先生がおっしゃったこととほぼ一致しています。
佐藤:今回の症例のように手術の適応がなければよいのですが、stage IIIで手術により治癒可能な状況下で、患者さんが手術を拒否して放射線化学療法を選んだときには、CRと判断できたときも、本当に残存はないのか疑問が残り、追加切除の必要性について悩むことがあります。
瀧内:CRになっても3分の1程度の症例では局所再発してきますが、それを内視鏡あるいは超音波内視鏡により診断するのはほぼ不可能に近いと思います。ですから、こまめにfollow upするしかないと思います。
大村:食道癌は胃癌ほど多彩な顔をもたないようですので、粘膜面を評価してネガティブであれば、多少壁が厚くてもCRと判断することができると思います。
瀧内:ご意見をまとめますと、遠隔のリンパ節まで転移があることが画像上示されているので、積極的に手術を行うという選択肢はなく、狭窄症状もありますから、放射線化学療法がfirst lineに選択されました。化学療法のregimenは、大村先生はLV/5-FU、久保田先生はTS-1/CDDP、佐藤先生はスタンダードのCDDP/5-FU、そして坂本先生は、新しい薬剤、特にtaxane系の薬剤を加えたTCFをご提案されました。
私の結論としては、通過障害があることから考えて、放射線化学療法が基本になると思います。ご高齢であること、responderに対して放射線化学療法を継続するのと手術に移行するのとで差はないというエビデンスがあることを考慮して、手術はせずに放射線化学療法を継続するのがよいと考えます。
本日はありがとうございました。