久保田:LtからAeにかけてのadenocarcinomaですから、胃癌の扱いに準じて、TS-1/CDDPで治療します。TS-1は80mg/m2で3週間投与し、CDDPは6mg/m2で5日間投与2日間休薬で3週間のスケジュールです。それに放射線療法を併用します。照射量は50Gyです。その後、狭窄が改善しない場合のみ手術を考慮します。遠隔転移があり、全身性ですので、放射線化学療法でコントロールできれば手術を必要とする可能性は低いと考えます。
瀧内:先生の施設(慶應義塾大学病院)から報告された胃癌の放射線化学療法のプロトコールですね。
久保田:そうです。胃のadenocarcinomaを対象として、Phase Iの奏効率が89%(8/9例)になり、推奨用量を決定しました。現在、Phase IIが進行中で、30数例での奏効率が約80%です。治療後の手術の要否についてはまだ結論が出ていません。
瀧内:治療終了時にCRを達成する症例の割合はどれくらいですか。
久保田:これまで、手術症例のうち3例が病理学的CRと診断されています。
佐藤:腺癌であっても、TS-1/CDDPと放射線療法で十分な効果が得られるということですね。
久保田:はい。放射線療法の併用により、さらによい結果が得られるようになりました。
瀧内:本症例に対して放射線療法を併用せず、化学療法だけで治療することは考えませんでしたか。
久保田:TS-1/CDDPによる化学療法だけでは、CRに達した症例は1例もありませんでした。放射線療法を導入してからCR症例が出るようになり、その印象があまりに強かったので臨床試験を始めた経緯があります。
瀧内:国立がんセンターの大津 敦先生、北里大学の小泉和三郎先生が発表されたTS-1/CDDPのデータでもCR例はありませんでしたから、TS-1/CDDPも奏効はしますが、CRまでは望めないのが現状のようですね。
坂本:私も久保田先生と同じように考えています。この症例は食道癌ですが、組織型がadenocarcinomaですから、胃癌の場合に類似した治療を考えるべきだと思います。ただ、通過障害のある患者さんにTS-1を服用していただくことについては、私はあまり積極的ではありません。最近、われわれが試みているのは、5-FU 600mg/m2の5日間投与に、TXL 80mg/m2を1週間毎に3回追加するスケジュールです。TS-1とTXLを併用するOGSG regimenにかなり似ています。もしくは、産業医科大学の永田直幹先生たちが取り組んでいる、CDDP 25mg/m2とTXL 80mg/m2を併用する方法。そしてもう1つは、TXL 80mg/m2、CDDP 25mg/m2、5-FU 600mg/m2を併用して週に1回ずつbolus投与するTCF regimenです。このregimenは成績がよく、毒性も予想よりずっと低かったので期待しています。腺癌の場合、部位が食道であれ、胃であれ、扁平上皮癌に効果のある薬剤とは違うものを使おうと考えています。放射線療法の要否は微妙なところですが、基本的には併用することを勧めます。45Gyで2〜3ヵ月間照射します。その後の経過によっては手術の適応も考慮しますが、この手術はかなり難しくなるうえに、目的がはっきりしません。通過障害を改善するためだけであれば、放射線化学療法でも十分に可能だと思います。
大村:おっしゃる通りだと思います。放射線化学療法がリンパ節転移に著効し、stageが下がって、原発巣だけが残っているような場合にのみ手術が適応になると思います。その際、原発巣の場所に十分注意が必要です。食道癌は占居部位によっては下行大動脈や気管の膜様部に癒着していることもあり、特に放射線療法で腫瘍が小さくなった後の手術では、隣接器官に損傷を与えないよう慎重を要します。
坂本:特に放射線化学療法後の手術は大変です。生検で、ある程度CRに近い状態を確認できていない限り、75歳の患者さんにとって手術は負担になるだけだと思います。