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CASE 11 進行胃癌 2006年3月開催

CASE11 写真

ディスカッション 1

second line以降もTS-1の継続投与を考慮

佐藤:胃前庭部全周性の2型胃癌(tub 1)で、TS-1単剤で治療された症例です。症例プロファイルとともに「論点」を挙げさせていただきましたので、これらを中心に討論を進めたいと思います。
 本症例の場合、second line治療をどう考えますか。Third lineを考慮してsecond line治療を決めますか。Third lineにはどのregimenを選択なさるのでしょうか。また、症例背景を考慮してregimenを決めますか。

久保田:Second line治療を実施します。候補薬剤としてはCDDP、CPT-11、taxane系薬剤(TXL、TXT)が考えられます。CDDPはneoadjuvantには適切と考えますが、本症例は原発巣切除後ですので、残りの3剤のうちいずれかを選びます。脱毛が少ない点を重視してCPT-11を選択、CPT-11 80mg/m2(週1回)を2週間施行し、TS-1 80mg/m2を2週投与後1週休薬で継続投与します。Third line治療は考慮せず、second line治療を可能な限り継続します。その後、third line治療を行うことになれば、必然的にtaxane系薬剤を選択することになります。症例背景については、本症例はすでに原発巣を切除していますので、組織型分類(分化型)も特に考慮しません。実地臨床ではchemo-radiationを施行する場合もあります。

佐藤 :病変部位が胃前庭部でもchemo-radiationを施行されますか。

久保田:はい。しかし、原則としてchemo-radiationの施行は原発巣の有無で決めています。

佐藤 :TS-1治療でのPD症例に対してTS-1を継続するのはどのような理由からでしょう。

久保田:5-FU系薬剤の獲得耐性の多くはthymidylate synthase(TS)のup-regulationによりますが、CPT-11はこれをdown-regulateさせるという実験結果が報告されています。したがって、second lineにCPT-11を用いる場合はTS-1も継続すべきと考えています。

坂本:私は、切除後ですので組織型分類を考慮したいと思います。2型胃癌のtub 1ですから、やはりCPT-11単剤あるいはCPT-11/CDDPのいずれかを施行します。CPT-11/CDDPは比較的毒性が強いregimenですが、JCOG9912の経過から奏効率はよいとの印象を持っています。また、胃原発巣では増悪がみられたものの肝病変はNCですから、肝病変に対してはTS-1が奏効していると考えられます。したがって、もう1つの治療選択肢として、TS-1単剤をしばらく継続し、PDとなったところでCPT-11/CDDPに切り換える。このアプローチによって患者さんのQOLを維持できると思います。Third line治療の選択は難しいところですが、昨年、広島市民病院の二宮基樹先生が日本臨床外科学会で5-FU/TXLの優れた成績を報告していらっしゃるのでこれを考慮に入れます。

佐藤:5-FUを使うのは、first lineで5-FU系薬剤(TS-1)が十分に使い切れていないということでしょうか。それとも、先ほど久保田先生がおっしゃったように、他の薬剤を加えることで5-FU系薬剤が再び奏効するようになると考えられますか。

坂本:前薬が効かなかったから次は別の薬剤を使うという発想は、以前は当然の考え方でしたが、最近は変わりつつあります。例えば、CPT-11に対するrefractory caseにcetuximabを使用する際、cetuximab単剤よりもCPT-11/cetuximabのほうがはるかに優れた成績が示されています。そのメカニズムは不明ですが、毒性が強くないようであれば併用療法を実施するという考え方が広がりつつあります。

大村:私はTS-1を続けながら、TS-1との併用効果が最も広く認められているCDDPを上乗せします。Third lineを考慮する場合は、経口摂取が可能であればTS-1はそのまま継続しtaxane系薬剤を併用するでしょう。経口摂取が不能になっていれば、静注薬の2剤あるいは3剤併用regimenを実施する戦略がよいと思います。TS-1を継続する根拠は、CDDPによるDNA損傷を腫瘍細胞が修復しようとする際、TS-1によるdeoxythimidineの合成阻害がDNAの修復を妨げる可能性があるからです。おそらく、FOLFOXやFOLFIRIにおけるLV/5-FUの役割も同様であると考えています。また、このような症例では肝・十二指腸間膜内のリンパ節群に転移がみられることが多く、そのため胆汁のうっ滞をきたしやすいと考えます。本症例の胃幽門側切除術は緩和的な処置です。したがって、# 12のリンパ節は郭清していない可能性が考えられます。閉塞性黄疸をきたす可能性が高い症例にはCPT-11は使いにくいですね。その意味でも、まずTS-1/CDDPを用い、次にTS-1/taxane系薬剤、さらに静注薬の2剤あるいは3剤併用という順がよいと思います。

瀧内:私はTS-1を中止して、second lineとしてCPT-11単独(150mg/m2、2週ごと)を選択すると思います。その場合、毒性に関連して、投与前のビリルビン値や肝機能検査値に十分な注意を払う必要があります。もしthird lineが可能な状態であればweekly TXLで治療すると思います。胃癌治療のkey drugとして5-FU系、CPT-11、taxane系を使い切ることは重要であると考えています。

佐藤:興味深いことに、症例背景因子について久保田先生は原発巣の有無、坂本先生は組織型分類、大村先生はリンパ節転移と、考慮なさる因子が異なっていたにもかかわらず、TS-1はそのまま継続するという点では一致したご意見ですね。私の意見は、瀧内先生と同様にTS-1を中心には考えずCPT-11かtaxane系薬剤のいずれかを主としたregimenを用います。CPT-11を選択する場合は、腎機能障害があればCDDPは上乗せせず単剤で用います。また、先ほど大村先生がおっしゃられたように、肝臓に胆汁うっ滞が予測される場合はCPT-11の量を減らすためにCDDPを併用します。ただし、second line、third lineに進む患者さんにはどうしても全身状態のあまりよくない方が含まれるので、JCOG regimenではなく、分割投与することを考えます。Taxane系薬剤については、第II相試験で成績が報告されているweekly TXLや5´-DFUR/TXTなどを使用しているのが現状です。

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