佐藤:進行胃癌における5-FUの役割についてはいかがですか。First lineで5-FU抵抗性となった症例に対して、second line以後でも必ず使用、あるいは用いる意味はないという両極端な意見がありますが。
瀧内:私は、現状ではsecond line以降に5-FUを継続していません。大腸癌においてもFOLFOXの後はFOLFIRIではなくCPT-11単独で治療しています。Second line以降ではLV/5-FUをCPT-11に併用して抗腫瘍効果がよくなるというエビデンスはないと考えています。
佐藤:なるほど。では大村先生のお考えは。
大村:先ほどの繰り返しにもなりますが、LV/5-FUと併用する薬剤によって生じたDNA損傷の修復に必要なdeoxythimidineの供給を断つことで、LV/5-FUによるTS阻害の意味をもつと思います。平常時の癌細胞と比較して、DNAが傷害された場合は、deoxythimidineの需要が増すと考えられます。
佐藤:5-FUの毒性についてはまだ明確ではない部分があります。はたして、5-FUを加えることには毒性の面からみて使用し続ける利点があるのでしょうか。
大村:TCF療法における5-FUのMTDを検討した第 I 相試験では、bolus投与の5-FUを加えてもTXL/CDDPの2剤と比較して毒性はほとんど増強しませんでした。未だ少ない症例数とはいえ、先に述べましたように奏効率は大変良好でしたので、regimenによっては5-FUを加えることに毒性を上回る利点があると考えています。
佐藤:先ほどの久保田先生のお話はTS-1でのものでしたが、これはTS-1以外の5-FU系薬剤にもいえることでしょうか。
久保田:TS-1に限ったことではなく5-FU系薬剤として考えるということですね。5-FU系薬剤を候補から外せば、選択肢が少なくなり治療戦略の幅が狭まります。胃癌におけるエビデンスとしては、併用療法の優位性が確立されているだけで、5-FU系薬剤を外す根拠は何もありません。少なくともJCOG9912の結果が出るまでは、TS-1をsecond lineから外さないほうがよいと思います。
佐藤:ところで、TXLとTXTの使い分けについては今のところまだ情報が少なく、施設間でも使い分けに差があるようです。一方、TXTがときどき皮膚転移や筋肉転移などの特殊な病変に有効性を示すことがあり、このような特殊な病変を対象としたTXTの検討を進める方向性もあると期待しています。
坂本:乳癌ではTXL不応例にTXTが奏効した症例や、逆にTXT不応例にTXLが有効であった症例が報告されていますから、TXLとTXTの作用機序はやはり異なる部分があるのでしょう。
佐藤:私自身は臨床現場で、TXLが奏効したのち抵抗性となり、これにTXTが奏効したという胃癌症例に遭遇した経験はありません。
久保田: 胃癌に対しTXLあるいはTXTで治療した症例における、MTTアッセイによる解析の結果はほぼ一致します。一方で、乳癌ではTXL不応例にTXTが有効であったとの報告がある。作用機序や感受性が近似しているにもかかわらず、なぜこのような違いがみられるのか。TXLとTXTの微妙な差異が、乳癌では出やすいが胃癌では目立たないということのようです。