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CASE 12 大腸癌(進行・再発例) 2006年3月開催

CASE12 写真

ディスカッション 1

First lineの選択は出血のコントロールがポイント

佐藤:この症例の最初の問題点は、原発巣からの出血がコントロール可能であるか否かと、狭窄があるか否かです。回盲部から上行結腸にかけての病巣では、この2つの症状を認めない症例も少なくなく、その場合内科医としては全身化学療法から始めます。

大村:出血がコントロール可能な程度であれば、それは化学療法により改善される可能性がありますね。Hb値の9.6g/dLという値は1回の測定値で、貧血が進行性のものであるのか、進行性であるとしたらその速度はどの程度なのかについての情報はありません。とはいえ、進行大腸癌では出血は必発と考えてよいでしょう。スキルス胃癌などではあまり出血しないことと対照的です。この症例の場合、肉眼的な血便が認められ、腸閉塞症状は全くないという設定です。

佐藤 :出血のコントロールが難しいのであれば、先に手術を行います。ただし、肝臓の転移が多数広範で急速に進行するような症例で猶予がないと判断したときは、化学療法をまず行います。

大村:肝臓には比較的大きな転移巣が認められているのですが、転移巣の位置の関係なのか、肝機能検査値は全く上昇せず、胆道系の検査値も悪化していない状態とお考えください。

佐藤 :肝転移巣が広範に占めているのであれば、化学療法を行い、まずその反応をみます。大腸癌のなかには、CPT-11やL-OHPを含めた薬物療法に全く反応しない症例があります。その場合は、たとえ手術をしても、術後補助化学療法の効果も期待できませんので、手術による拘束期間の分だけ在宅生存期間が短くなってしまう恐れがあります。つまり、手術が有用かどうかの見極めが大切だと思います。進行が非常に急速な症例など猶予がない場合は、まずは化学療法の反応をみたいと思います。
  化学療法が奏効した場合、その後の手術の施行については、外科医の間でも一定のコンセンサスが得られていないようですが、いかがでしょうか。私は、肝転移病巣が著明に縮小した場合は手術をしています。はっきりとした縮小が認められない場合は、原発巣に注意しながら化学療法を続けます。

大村:瀧内先生のお考えはいかがですか。

瀧内:私は腹腔鏡手術で原発巣切除を先に行いたいと思います。原発巣を切除しても、胃癌と違って全身状態の悪化にはそれほど影響はありません。また出血や腸閉塞といった病態を気にせず化学療法が行えるので、後々の治療がやりやすいと思います。全身化学療法としてはFOLFOXを行いたいですね。GERCOR studyでもN9741 study(Goldberg RM, et al. ASCO 2003、 #1009)でもFOLFIRIよりFOLFOXのほうが肝切除に至ったケースが多かったと記憶しています。

大村:ただ、この症例では右葉の転移が最大径6.5cm、左葉に認められる転移が最大径3.5cmで、両葉ともに多発性ですから腹腔鏡下にそれらを完全に切除することは極めて困難です。マイクロ波凝固療法などを併用しても事情は変わりません。また、肝転移巣の切除では繊細なフィードバックを含めて利き腕と反対の手がとても大切な役割を果たします。手術はみなそうですが…。不十分な情報下に切離を進め、転移巣がむき出しになって腹腔内に播種を形成してしまう危険性を考え合わせ、それに見合うメリットがない場合には腹腔鏡下に肝臓の転移巣を切除することは避けたいところです。

久保田:この症例は、Hbが9.6g/dLで下血が認められ、全周性腫瘍とのことですので、私はまず手術を行い、そして術後補助化学療法に移行します。腹腔鏡下で原発腫瘍を切除し、検体を用いて抗癌剤感受性試験を行います。SN38かL-OHPのどちらか感受性の高いほうをfirst lineとして選択します。肝動注療法(HAI)は、生存期間を延長しないという結論がすでに出ていますので行わず、全身化学療法を選択します。

坂本:私の考えも久保田先生と同じで、まず手術を行います。可動性が良好とのことですから、腹腔鏡下ではなく、開腹手術でできるだけ手術創を小さくすることを心がけるのがよいと思います。その後、術後補助化学療法を行います。HAIは施行しません。

大村:佐藤先生は、HAIについてはどのようにお考えですか。

佐藤:HAIは有効な手段だと思いますが、この状況では行いません。

大村:HAIに関して、皆様のご意見が私のものと一致することを聞いて、心強く思います。私も、このような症例においてはHAIの有効性に疑問をもっています。

坂本:国立がんセンターの荒井保明先生のようなエキスパートが行うのであれば違う意味をもつかもしれませんが、どの施設でも一定レベルのHAIができるかというと、現実的には難しいでしょう。これまでの臨床試験の報告からみる限り、HAIの汎用的な有効性はほとんど示されていないと思います。

瀧内:HAIは肝転移のみが進行している症例で選択する場合がありますが、多くは有効薬剤が使われた後のthird line以降での選択になります。生存への寄与は現状ではメタアナリシスでも否定されているものの、抗腫瘍効果は多くの先生方が認めています。肝をコントロールすることによって延命が期待できるときの最終手段ですね。

大村:この患者さんの希望は「できるだけ家で暮らしたい」ということですから、その点からもHAIの施行は難しいと思います。ポートを留置しても、毎日の通院が必要になりますから、患者さんの負担は大変大きくなると考えられます。

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ディスカッション 2
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