坂本:L-OHPの神経毒性に対してstop and go methodを用いるとしても、それだけに頼るのではなく、神経毒性を抑制する、いわゆる副作用予防薬の併用も必要です。2004年にGamelinが、進行結腸直腸癌の161例を対象とした後ろ向き研究で、L-OHP投与前後のカルシウム1g、マグネシウム1g投与が神経毒性によるL-OHP治療からの脱落を31%から4%に有意に減少させたことを報告しています。その他、抗てんかん薬カルバマゼピン派生物や、グルタミン酸、N-アセチルシステイン、グルタチオンなどが、少数例の検討ではありますが有意にL-OHPの神経毒性を抑制すると報告されています。
大村:グルタミン酸については、今年(2007年)、Wangらが86例の転移性結腸・直腸癌を対象とした報告を行っています。各サイクルのL-OHP投与日から7日間にグルタミン酸15gを1日2回経口投与すると、6サイクル後における神経毒性は、グレード0の症例が未投与の27%に対して48%に増加するという結果でした。
佐藤:副作用予防薬については、正直なところ全く確立されていないと考えています。いろいろと報告はあるものの、実際臨床の現場にはどれも広まっていないということ自体、効果が実感されていないということではないでしょうか。クリティカルパスに入れている施設も少なからずあるのですが、患者さんの反応もあまり芳しくないとの話を聞くこともあります。
坂本:決して劇的な効果があるわけではないことと、予防薬投与をスタートした時点でのグレードが問題だと思います。治療初期から使用するか、あるいはグレード3になってから使用するかでは、ずいぶんと結果が違います。スタート時の適格条件とエンドポイントを何に設定するかが問題になると思いますが、こうした補助的に用いられる治療の評価は難しいですね。
瀧内:治療法の評価以前の問題として、神経毒性のグレード判定の難しさが2006年のASCOで報告されています。多施設共同研究ではどうしても施設によるばらつきがあるでしょうし、神経毒性の評価というのは、実際に難しいことだと思います。
坂本:欧米では、これまですでにFOLFOXの神経毒性でかなり多くの苦い経験をしているため、それを抑制するために努力を傾けているのだと思います。FOLFOXの登場により、治療の規定因子が腫瘍の進行だけでなく神経毒性の発現も考慮することになったのですから、今後はそういう観点から治療を総合的に考え、評価し、日本からのデータを発信していきたいですね。
久保田:FOLFOX, FOLFILIさらに分子標的モノクローナル抗体であるbevacizumabが臨床に導入され、sequenceも含めた使い分け、OPTIMOXにおけるstop and goなどさまざまなレジメン(武器)が使用可能となりました。本年中には抗EGFR抗体であるcetuximabも導入が予測されています。これらの新規治療法の導入により、治療成績は向上すると予測されますが、医療費の高騰・新たな副作用の出現など進歩に伴う「影」も出てきます。欧米の成績を鵜呑みにするばかりではなく、日本における標準的な治療法の確立が急務になると思います。
大村:21世紀に入り、癌、特に進行再発癌に対する化学療法は、単なる延命ではなく、QOLを良好に保った上での延命が求められるようになりました。さらに、そこにコストがも勘案して優劣を評価していく方向になると考えています。ありがとうございました。